ソリューション・デザイン(16)

(16)予定された悪夢

 

(Q:悪い問題設定の影響について論じられますか)

 

1)ソリューション・デザインの枠組み

 

ソリューション・デザインは、問題点を指摘することから、問題を解くことに視点をシフトする工夫です。

 

例えば、日本経済は30年間ほとんど成長しませんでした。

 

その間に、膨大な税金がつぎ込まれたにもかかわらずです。

 

その原因には、対策がまずかった可能性があります。

 

科学的な手順に従えば、対策は、エビデンスに基づいて、随時、改善される必要があります。

 

同じ対策が繰り返されて、同じ間違いが繰り返されることはありえません。

 

このような問題点を回避する方法を考えようという発想がソリューションデザインです。

 

科学的な手順に従うというルールは、ソリューション・デザインの一部で、それは、パースのThe fixation of beliefを採用することに繋がります。

 

ソリューション・デザインは、次の2つのフェィズからなると思われます。

 

(1)効果的な問題の立て方

 

(2)効果的な問題の解き方

 

パースのThe fixation of beliefは、(2)に相当します。

 

今回は、(1)を、考えてみます。

 

2)時間稼ぎのダミー問題

 

少子化対策の必要性は、30年前からわかっていました。

 

しかし、30年たって、効果はあがっていません。

 

その間に、少子化対策の担当大臣が設置されたりして、見かけ上は、対策がなされているように見えましたが、効果はありませんでした。

 

少子化対策は、少子化の減少速度を押さえるだけの速度で進めなければ効果がありません。

 

つまり、「少子化対策をする」という問題設定は、時間稼ぎをして、選挙の票を集めるだけの効果しかありませんでした。

 

「非常にゆっくり問題解決」をする、あるいは、「問題解決をするふりをして、時間稼ぎ」をする(弱形式の問題解決)ことは、問題解決ではありません。

 

このような弱形式の問題解決がなされた場合、その成果が出るまでの時間の猶予が与えられたと解釈されることがあります。しかし、弱形式の問題解決は、時間稼ぎであって、本来解決すべき問題を放置して、解決をより困難にしてしまいます。

 

ですから、弱形式の問題解決は、問題を解決するのではなく、問題をこじらせて、解決困難にする手段であると評価しなけれなりません。

 

一方、問題解決までにかかる時間が必要と想定される期間内に収まっている問題解決を強形式の問題解決と呼ぶことにします。



例えば、DXを進める場合には、DXに対する補助金をつけるのは、弱形式の問題解決です。

 

これに対して、競合する先進国のDXに、追いつく速度で、DXを進めるのは、強形式の問題解決です。

 

この場合に、必要と想定される期間内のとり方が問題になります。

 

この期間は、1つに絞る必要はありません。

 

DXの場合には、最長でも3年です。それは、技術進歩によって、目標が移動してしまうためです。

 

3年を最長にセットして、中間チェックポイントを1年と2年に設定すれば、よいと考えます。



3)A:悪い問題設定の影響

 

政府も霞が関の官僚も、日本経済が他の先進国なみに成長するとは思っていない可能性があります。

 

それは、問題は常に、弱形式でしか取り上げられないからです。

「経済成長しない」、「技術力が落ちて貿易赤字になる」、「少子化で人口が減少する」などは、悪夢です。

 

しかし、対策と言われるものが、弱形式であれば、問題が解決されないことは自明です。

 

つまり、悪夢は予定されていたと思われます。



2023年3月1日に、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はテスラについて3回目となる「マスタープラン3(基本計画)」を提示しました。計画は、「製造業に10兆ドル(約1,360兆円)を投資することで、世界は再生可能エネルギーによる電力網に全面移行できる。そして電気自動車(EV)や飛行機、船に電力を供給でき──世界が救われる」いうものです。

 

この発表では、待望の次世代モデルを巡り具体的な内容が提供されなかったため、投資家に評価されず、テスラの株価は下がりました。



Wiredは「マスクが自ら課した期限を守ることはめったにない。だが、大言壮語と壮大なビジョンで他人を自分の信念に引き込むことには常に長けている」と評価しています。

 

しかし、日本政府は、自ら課した期限を提示することすらしません。

 

つまり、弱形式の問題を提示して、時間稼ぎをすることが常態化しています。

 

例えば、多用される有識者会議についても、提示している問題解決は、弱形式ばかりです。

 

ここで注意しなければならない点は、問題解決は、予算をつけることではなく、問題となっている状況を改善することであるという点です。

 

日本人は、政府の政策に対して、反対することがすくないと言われますが、政府が解決すべき問題をすり違えている場合には、声をあげるべきであると思います。

 

これは、政策に反対するのではなく、政策に対する説明を求めることに相当するからです。

 

引用文献

 

イーロン・マスク氏の新基本計画に失望感、テスラ次世代モデルの詳細欠くBloomberg 2023/03/02 Dana Hull、Sean O'Kane

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-03-01/RQV4DPDWX2PS01

 

テスラが基本計画で示した「持続可能なエネルギー経済」と、見えてこない“低価格EV”の姿 2023/03/03 Wired

https://wired.jp/article/the-mystery-vehicle-at-the-heart-of-teslas-new-master-plan/