(2)経験主義と科学的方法
(Q:経験主義と科学的方法とどちらが優れていると思いますか)
1)経験の価値
日本の年功型雇用の給与体系は、経験には価値があるという信念に基づいています。
経験の価値はゼロではないかもしれませんが、技術進歩のある世界では、5年か10年より古いスキルの価値はなくなります。
エンジン自動車がEVになれば、エンジンに関する経験には価値がなくります。
高度人材は、年齢が若いにもかかわらず高給取りですから、経験の価値で収入が得られている訳ではありません。
2)科学的方法
ウィキペディア(英語版)の「科学的方法」には次のように書かれています。
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科学的方法を偏向させる要素は経験主義(empiricism)です。
経験主義は、「理性だけでは特定の科学的問題を解決できないという科学的方法の立場」の厳格な形態の合理主義に反するものです。
科学的方法の強力な定式化は、「経験的データが、経験または他の抽象化された知識の形で提示される」経験主義の形式と常に一致するとは限りません。しかし、現在の科学的実践では、科学的モデリングの使用と抽象的な類型論と理論への依存は、通常受け入れられています。
科学的方法は、「啓示、政治的または宗教的教義、伝統へのアピール、一般に信じられている信念、常識、あるいは、現在使われている理論は、真実を実証する唯一の可能な手段を提示する」という主張に反論します。
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要するに、経験主義は、科学的方法からすれば間違いであるといっています。
「理性だけでは特定の科学的問題を解決できないという」のは、エビデンスがなければ、科学的問題の解決にはならないという意味です。昔の哲学のように、ひたすら考えれば、データなしに問題解決ができるという立場の否定です。
3)「二つの文化と科学革命」
スノーの「二つの文化と科学革命」は、他の本で、何度か引用していますので、簡単に振り返ります。
1959年に、スノーは、「二つの文化と科学革命」の中で、人文的文化と科学的文化の解消できないギャップがある。科学革命に取り残されないためには、エンジニア教育の拡充が必要であると主張しました。
日本では、スノーは、人文的文化で、科学的文化を理解して、ギャップを埋めるべきだと主張したと解釈されることが多いですが、これは間違っています。
スノーの主張は、ウィキペディア(英語版)の「科学的方法」の「経験主義は、科学的方法からすれば間違い」と同じです。
スノーは、「人文的文化(文系)偏重のカリキュラムを止めて、科学的文化(理系、エンジニア教育)を重視しないと、経済が停滞する」と主張しました。
ウィキペディア(英語版)の「科学的方法」は、科学的文化(理系)に見えても、経験主義は、科学的方法からすれば間違いであるといっています。
つまり、「科学的方法」の方がより強い要請をしています。
4)A:経験主義と科学的方法の優劣
経験主義と科学的方法は対立します。
同調圧力や、空気を読む、上司の意図を組むのは、「啓示、政治的または宗教的教義、伝統へのアピール、一般に信じられている信念、常識、あるいは、現在使われている理論は、真実を実証する唯一の可能な手段を提示する」という主張です。
つまり、日本では、経験主義が蔓延しています。
経験主義と科学方法は対立します。
「どちらが優れているか」、あるいは、「どちらが正しいか」という問に対する答えは、何を判定基準にするかに依存します。
科学的方法の判定基準は、継続可能なエビデンスです。
スノーは、科学的文化でないと、経済発展はないと言いました。
これは、経済発展(1人あたりGDP)で判断すれば、科学的方法は、経験主義に優るということです。
その理由は、簡単で、科学は、エビデンスの基準によって、生き残る理論の選抜を行っているからです。
スノーは、科学的方法の方が経験主義より、心理的な満足度が高いとはいっていません。
しかし、経済発展(1人あたりGDP)で判断すれば、科学的方法をとらない理由はありません。
経験主義と科学的方法は、対立します。
心理的な満足度や、空気を読んで、科学的方法をとらなければ、スノーが予想した通り、経済は落ち込んで、貧しくなります。
つまり、日本が経済成長できない理由は、科学的に説明できます。