第4のパラダイム後の世界

(AIが人間を上回る第4のパラダイムの世界は2009年には始まっています)

 

クーンとスノーに続いて、本書で検討する本は、2009年に出たマクロソフト研究所の第4のパラダイムです。

 

これは、データ集約型科学(以下、データサイエンスと呼びます)が、経験科学、理論科学、計算科学に続く、第4の科学として確立したと主張する本です、

 

同じことを、AIが人間を追い越すともいう表現で使われることもあります。



大前研一氏は、次のようなAIツールの利用例を紹介しています。



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 すでにカナダでは弁護士業務のかなりの部分をAIが代替している。その訴訟のケースをアプリに入力すると、過去の判例に基づいて「裁判に勝てる確率」「妥当な請求額」「争点と法廷で議論すべき順序」などをAIが教えてくれるのだ。書籍やネット上の判例集を紐解いて調べる必要はないのである。今後はAIを駆使できる弁護士しか生き残っていくことはできない。

 

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こうした先進事例を聞いて、そのうち日本もカナダのようになると感じるのであれば、そこには、第4のパラダイムに対する大きな認識のギャップがあります。

 

テレビや新聞を見ていると、問題が発生した場合には、大学の教授など、それらしい専門のポストについた専門家に意見を求めます。

 

政府も、何か問題があると専門家会議を開いてお伺いをたてます。

 

あたかも、専門家がスーパーマンのようです。

 

現在は、アルファ碁に勝てる人間はいません。Googleマイクロソフトの画像認識以上に、対象物を認識して選別できる人間はいません。

 

大前氏は、「カナダでは弁護士業務のかなりの部分をAIが代替している」といいます。これは、「弁護士業務のかなりの部分」は、人間が行うよりAIが行う方が速くて正確であることを意味しています。

 

アマゾンのアレクサの場合には、最初に、質問がなされたコンテクストを正確に判定する必要があります。この部分が、AIにとっては、一番の難題です。コンテクストが確定されたあとの将来予測は、条件付確率モデルであるベイジアンネットワークなどで計算できます。ベイジアンネットワークは万能ではありませんが、多くの場合には、専門家を上回る精度の予測ができます。

 

つまり、スタートのコンテクストの把握で躓かなければ、アレクサのようなAIの方が、専門家より精度の高い予測をすることが可能です。

 

マスコミに出て来る専門家は本当に学習しているのか不明です。

 

例えば、「金融緩和をして、景気が良くなる」というモデルを採択したとします。AIは、学習しますので、金融緩和しても、景気が良くならなければ、金融緩和と景気の関係を学習しなおして、「金融緩和しても景気が良くならない」という予測をするようになります。これが、AIの学習と言われるものです。

 

政府は、産業振興のために、大量の補助金をつぎ込んで、企業の再生を試みます。AIにも、最初に、「大量の補助金をつぎ込めば、企業の再生ができる」というモデルをインプットします。これは、事前情報と呼ばれるものです。モデルの事前情報はその後のエビデンスの情報で更新されます。条件付き確率モデルであれば、これは、ベイズ更新と呼ばれる学習ステップです。大量の補助金をつぎ込んでも、企業の再生に失敗したというエビデンスが続けば、AIの推論モデルは、「大量の補助金をつぎ込んでも、企業の再生はできない」という推論に変化します。

 

科学的文化の文法では、良いモデルは、より高い精度で将来を予測できるモデルです。

 

モデルを作る人が、有名大学の教授か、名もないAIソフトかは、評価に関係しません。

 

過去10年の実績をみれば、AIを導入していれば、専門家の意見より、AIの予測の方が、はるかに、予測精度が高くなっているはずです。

 

失敗しても学習しないAIモデルは存在しませんが、失敗しても学習しない専門家は存在します。

 

予測精度の悪い専門家に意見を聞くのは、馬鹿げています。

 

アレクサの発言は、専門家の発言より、予測精度が高くなるのは時間の問題です。

 

これは、経験科学が、データサイエンスに入れ替わる過程を意味しています。

 

スノーは、人文的文化が、科学的文化に置き換わるので、エンジニア教育を推進すべきだと主張しました。

 

「二つの文化と科学革命」が世に出た1959年には、第3のパラダイムの計算科学も、第4のパラダイムのデータサイエンスも、まだ、世の中には、ありませんでした。

 

第2のパラダイムの理論科学は、第1のパラダイムの経験科学の一部を置き換えましたが、その割合は限定的でした。

 

「第4のパラダイム」が世に出た2009年には、状況は一変しています。

 

経験科学は、データサイエンスに急速に取って代わられています。

 

予測精度の悪い(頭の悪い?)専門家より、予測精度の高いAIのモデルを使うべきです。

 

そうすれば、日本経済はもっと早く復活していたでしょう。

 

これは、科学的文化では、余り前の守るべき最低限の文法ルールに他なりません。

 

理論科学の仮説と検証を、データサイエンスに移植したものが、機械学習になります。

 

ただし、人文的文化の人に、これを納得してもらうことは不可能だと思います。

 

スノーのいったように二つの文化のギャップは、解消不可能です。

 

ギャップの解消は無視して、若い世代に、エンジニア教育、特に、数学を学習してもらうしか、経済を持ち直す方法はありません。





引用文献

 

岸田政権が注力する「リスキリングで資格取得」の時代錯誤 本来学ぶべきスキルとは 2022/10/29 週刊ポスト 大前研一

https://www.moneypost.jp/960065