日本は如何にして発展途上国になったか(1)

(「逆戻り病」こそが、検討すべきテーマです)

 

1)逆戻り病

 

1ー1)アルゼンチンと日本

 

過去100年の間に先進国から、発展途上国に逆戻りした国は、アルゼンチンと日本しかありません。

 

いったん、先進国になった国は、経済発展に必要な資金、外貨、生産基盤、基礎教育によるリテラシー、良い治安を獲得します。これらの要素は、経済発展を続けるために有利に働きます。その点では、発展途上国は、先進国になるために大きなハンディを負っています。

 

日本経済は、過去30年間先進国の中で唯一成長しませんでした。

 

1-2)繰り返される間違い

 

2023年度の予算も非常に大きく、政府はこの予算で、諸問題の解決をすると言っています。

 

しかし、その話を真に受ける人は少ないでしょう。過去30年間、政府は毎年、似たような話を繰り返してきました。その結果、先進国の中で、日本だけが、1人当たりGDPや賃金が増えませんでした。

 

2023年度の予算だけが、前年度までと大きく異なっている訳ではありません。したがって、次の1年も、今までと同じように、賃金が伸びずに、進むと考えるのが順当な見方でしょう。

 

なぜなら、過去30年間、1人当たりGDPが伸びなかった原因が、2023年度だけ、取り除かれたとは思えないからです。

 

恐らく、2023年度の予算と政策にも、2022年度以前と同じように、どこかに根本的な欠陥か間違いがあり、その間違いがまた繰り返されるのでしょう。

 

2023年度の政策で問題が解決するのであれば、2022年度、あるいは、もっと前に問題の解決が進んでいたはずです。

 

少子化対策は、2023年度に始まった政策ではありません。過去30年間続けられてきた政策です。

 

少子化対策担当大臣は、2007年に設置され2023年に特命担当大臣少子化対策担当)は25人を数えています。

 

これから、少子化対策のように対策の名前をつけたポストを作っても、効果がないというエビデンスが見つかります。

 

2023年4月1日から、こども家庭庁が設置され、少子化対策担当大臣は、こども家庭庁担当大臣になります。

 

対策の名前をつけたポストを作っても、効果がないというエビデンスからすれば、こども家庭庁が設置されでも、同様に効果がないと考えるのが科学的なエビデンスに基づく判断になります。

 

デジタル庁が出来ても、DXは進まず、高度人材は流出しています。

 

DXが進んで、日本国内にも高度人材に見合う給与が払えれば、人材流出は起こらないはずです。それから考えれば、デジタル庁の効果は極めて限定的であるというエビデンスが得られます。

 

病気になった時に、薬を飲んでも、症状がどんどん悪化していく場合には、より効果の高い薬に切り替えないと患者は死んでしまいます。

 

変わらない日本と言われ続けていますが、日本経済のパフォーマンスは、先進国の中で、下がり続けて、もはや下がない発展途上国になっています。

 

しかし、政府は効果の怪しい薬(政策と予算)を毎年飲めと言います。

 

日銀は、「2013年以降の異次元の金融緩和を振り返り、成長や雇用増、税収増など様々な面で成果を上げてきた」といっていますが、エビデンスは示されていません。

 

異次元の金融緩和と成長や雇用増、税収増の因果関係は、データサイエンスでは、統計的因果モデルで検討可能な科学の問題です。印象や相関ではお話になりません。

 

政府は、科学的なリテラシーがないので、効果のある政策と効果のない政策の区別ができないか、意図的に、効果のない政策を繰り返しているように見えます。

 

1-3)逆戻り病とは

 

今までも、識者が、日本経済を成長させる方法について論じています。

 

その中には、効果が見込める生産性を向上させる提案も含まれています。

 

少なくとも、金融緩和より、生産性向上の提案の方が有効であることは目に見えています。

 

日本程の異次元金融緩和をしなくても、経済成長している国は、沢山あります。

 

端的に言えば、日本以外の先進国は、日本のような異次元金融緩和はしていませんが、毎年1人当たりGDPが増加し、給与も増えています。その1人当たりGDPの増加は、主に生産性の向上によってもたらされています。

 

こうして、日本は、シンガポールと香港は言うに及ばず、韓国と台湾にも1人当たりGDPで追い抜かれてしまいました。

 

OECDの先進国の金利と経済成長をプロットすれば、この問題は検証できます。

 

もちろん、各国の制度の違いがありますので、単純比較には、注意する必要がありますが、それは、エビデンスをチェックしなくてよい理由にはなりません。

 

一方、生産性を向上させる提案は政策には、全く採用されません。

 

つまり、日本経済が成長するには、有効な対策を提示(効きそうな薬を開発)しても無駄です。

 

日本経済は、先進国から発展途上国に逆もどりする「逆戻り病」にかかっています。

 

しかし、この患者は効果のありそうな薬(生産性を上げる手段)には見向きもせず、全く改善効果の見られない今までと同じ薬を引き続き飲み続けています。

 

それでは、日本経済が成長しないという病気(逆戻り病)は治りません。

 

そう考えると、「どうしたら効果のある薬を飲ませられるか」、あるいは、「効果のある薬を飲まない原因は何か」を考えないと、病気は治りません。

 

1-4)本書のテーマ

 

いままで、日本経済が成長しない原因は、成長に必要な何か(多くの場合は、資金や補助金)が足りないからだというモデルが採用されてきました。

 

しかし、エビデンスからみれは、このモデルは間違っています。

 

30年間膨大な補助金をばら撒いてきましたが効果は見られていません。

 

カルト宗教の信者になった人は、寄付をすれば救われると信じて、教団に、膨大な寄付をして破産してしまいます。

 

日本の有権者は、産業界に膨大な補助金をばら撒けば救われる(経済成長する)と信じて、税金を払い、赤字国債の発行を認めています。その結果、日本の財政には膨大な借入ができ、ほぼ破産状態にあります。

 

この2つの問題は、同型です。

 

日本が発展途上国に戻ったのは、その内容をチェックせずに、間違った経済成長対策を信じて、同じ間違いを繰り返し続けたからです。ここに、「逆戻り病」があります。

 

「逆戻り病」こそが、検討すべきテーマです。