アーキタクチャ(28)

ヒストリアンがビジネススクールに勝てないわけ

 

(ヒストリアンの経験年数では、ビジネススクールに勝てない訳を説明します)

 

1)若い管理職

 

最近では、企業でも、管理職の年齢制限を緩めているところが出てきています。

若い年齢でも管理職に応募できるということで、新聞では良く紹介されるようになりました。

 

しかし、筆者には、こうした記事は、年功型賃金体系が正常であるという視点で書かれていることに違和感を感じます。

 

ジョブ型雇用では、ビジネススクールを卒業して、5年程度で、企業幹部になる例は珍しくありません。そもそも、アメリカでは、雇用に際して、年齢で差別することは禁止されています。

 

年功型賃金体系からどうして、ダイレクトに、ジョブ型雇用に切りかえないのか、中途半端な年功型賃金体系の管理職の年齢制限の緩和という方法をとるのか、この中途半端な方法にメリットがあるのか、不明です。

 

筆者は、デジタル社会へのレジームシフトには、ジョブ型雇用は必須と考えていますので、「年功型賃金体系の管理職の年齢制限の緩和」は、問題をこじらせるだけと考えます。人生100年時代であれば、リカレント教育を3から4回繰り返して、リセットがいつでも可能な雇用体系しか使えません。知識は10年もすれば、使えなくなるので、リカレント教育を受けていない高齢者は、浦島太郎で、こうした人が幹部を牛耳っている企業は、デジタル社会へのレジームシフトに取り残されます。

 

一方、日本では、ビジネススクールを卒業して、5年程度で、企業幹部が勤まるのかという疑問を持っている人も多いと思いますので、この点を考えてみます。



2)テストで点数をあげる方法

 

Aさんは、前回の期末試験で良い成績をあげられませんでした。

 

そこで、今回は、奮起して、期末試験対策用の問題集を購入して、模擬試験の問題は、すべて解きました。

 

こうして、期末試験に望んだのですが、点数は5%のびましたが、結果からすれば、努力しただけの大きな改善がみられたとは言えませんでした。

 

3学期制の期末試験は、1年に3回しかありません。1年たっても経験値が3ポイントしか増えません。

 

そこで、Aさんは、期末試験対策用の問題集の模擬試験で、経験値をあげる工夫をしました。

 

模擬試験を沢山解いて、経験値をあげましたが、成績は上がりませんでした。

 

この事例が、経験値の増加が能力の増加につながらないことを示しています。

 

Aさんと同じように、成績が振るわなくて、期末試験対策用の問題集を購入して、模擬試験の問題は、すべて解いたBさんがいます。

Bさんは、Aとは違って、次の期末試験では、著しい成績の上昇が見られました。AさんとBさんの解いた模擬試験の数が同じであれば、2人の経験値は同じです。

 

にもかかわらず、Bさんだけに成績の上昇がみられた理由は何でしょうか?

 

Aさんは、模擬試験の問題を解いて採点しました。

 

Bさんは、模擬試験の問題を解いて採点し、その後、間違えた問題を、できるようになるまで繰り返し解きました。

 

違いはこれだけです。

 

模擬試験の問題を解くことはヒストリーで経験値があがります。しかし、経験の中には、適切でなかった活動(間違えた問題)もあります。ヒストリーは、再構築して、同じ間違いを繰り返さないようにしなければ進歩しません。

 

ここで注意しなければならないことは、模擬試験の採点結果が50点を越えていて、及第点であっても、間違えた問題は、解きなおすべきだということです。

 

3)ビジネススクールのケースメソッド

 

ビジネススクールのケースメソッドでは、経営計画で改善すべき点を徹底的に洗い出して健闘します。これを繰り返すことで、適切でない経営判断(間違えた問題)を減らすトレーニングをします。

 

ケーススタディには、正解があるが、ケースメソッドには正解はないと勘違いしている人もいます。

 

経営が傾いた企業Fの過去のデータを使い、企業Fの建て直し計画をケーススタディに取り上げた場合、その後、企業Fが業績回復していたら、その事例が成功したケースで、ケーススタディの正解であると考えている人もいます。これは、間違いで、ケーススタディでも、実際に行われた経営より、更に、業績回復につながる可能性のある経営戦略があれば、実施さた経営戦略ではなく、更に、業績回復につながる可能性のある経営戦略を正解にしなければなりません。50点を越えた(業績が回復した)から、その経営戦略が正解ではありません。

 

間違えた問題を、できるようになるまで繰り返し解くという方法は、PDCAと同じです。エラーを見つけ、エラーが再発しないように学習する訳ですから、学生は、PDCAが唱えられる以前から、行っていました。

 

ここまで書けば、筆者の言いたいことが推測できると思います。

 

歳をとったヒストリアンは、確かに、経営の経験値が高いです。しかし、経験の質は、あてになりません。高度成長期から1990年頃までは、かなりいいかげんな経営をしても、企業は成長しました。日本の人口は増えていましたし、朝鮮戦争ベトナム戦争の特需もありました。競争相手の中国は、世界貿易から切り離されていました。

 

つまり、企業経営の試験問題は、誰でも解けるほど簡単だったのです。この場合には、誰が経営者になっても大きな差は付きません。

 

1990年以降は中国が世界貿易に参入し、2000年頃から、本格的に活動します。日本の人口はピークを迎え減少します。

 

1990年以降は、企業経営の試験問題は、急に難しくなります。しかし、1990年までの簡単な試験問題で自信をつけた人が、年功型雇用で歳をとって経営者になります。勤務年数の経験値はあります。しかし、間違えた問題を解きなおして、同じ間違いを繰り返さない努力をする習慣がありません。企業経営の難しい試験問題を解く能力はありませんでした。

 

そこで、持ち出してきた経営は、1990年までの経営の再現(アンシャンレジーム)です。

 

円安と賃金低下(正規社員の給与の抑制と非正規社員の増加)で、輸出品を安くして、貿易黒字を出す方法です。しかし、年功型雇用では、社内失業を抱えていますので、労働生産性が上がらず、対中国では全敗になります。同じ間違いを繰り返さない努力はしませんので、この間違いがエンドレスで繰り返されます。年功型雇用の経験や年齢の価値は、この程度のものです。MBAと比較できる訳がありません。

 

1990年以降、MBAをもった若年層が経営者になっていたら、日本は現在のようにはなっていなかったと思います。確実に成功していたとは断言できませんが、難しい経営問題を解く能力がありますし、少なくとも、同じ間違いが繰り返されることはなかったはずです。

 

という訳で、「管理職の年齢制限を緩めている」という記事をみると、筆者は、日本企業は間違いを繰り返さない学習ができているのか、疑問に感じます。