プランBの条件~プランBの検討

(改良型では、プランBを作ることはできません)

 

1)暗黙の了解

 

デジタル社会へのレジームシフトが起こっていることは、恐らく、どの組織の幹部も認識していると思われます。

 

幹部は、それに伴って、ジョブ型雇用を取り入れざるをえないことも、薄々、感じていると思われます。

例えば、経団連は、今後の年功型雇用を維持することは困難であるといいます。

 

筆者は、年功型雇用を維持することに、何ら合理的な理由を見つけませんので、発言の真意は理解できないのですが、発言のスタンスは、現状に対して、改良型アプローチを続けることで、問題を解決しようとしています。

 

経団連の発言は、現在もいくつかの企業が行っているような年功型雇用に、ジョブ型雇用を混在させるイメージだと思われます。

 

2022年に公務員の定年を、60歳から65歳まで延長する方針が出されました。実は、60歳の定年も過去の定年延長で設定されたものです。

 

つまり、年功型雇用を手直しして行けば、その制度はまだ使えると考えられています。

 

しかし、エンジニアは、無理なく手直しで、機能が実現できる範囲は狭いと考えます。

 

10階建てのビルに、11階を載せても、壊れないとは思いますが、それを、更に、12,13階と積んでいけば、ビルはどこかで崩壊します。

 

通常は手直しは1回限りです。

 

現在の日本では、デジタル社会へのレジームシフトに対して、改良型で対応できるということが暗黙の了解になっています。

 

欧米のリスキリングは解雇と再雇用が前提なので、筆者は、年功型雇用を中止しない限り、リスキリングの効果がでないと思っています。つまり、年功型雇用の改良では、リスキリングはできないと思っています。しかし、筆者のように、改良型では対応できないと考える人は少ないように感じます。

 

2)改良型がダメなわけ

 

改良型では、デジタル社会へのレジームシフトに対応するプランを作ることはできません。

 

それは、簡単に言えば、改良型は、戦術であって、戦略ではないからです。

 

具体的な例をあげます。

 

政府は、看護師の医療行為の拡大を計画していて、今後医師会と調整をはかる予定です。

これを改良型で行うと、公務員の定年延長と同じように、どこで線を引くかという数字の議論になります。これが戦術です。

 

戦略で考えれば、症状のデータ、モバイルウォッチ等のデータ、AIなどの判断システム、医師、看護師、医療技師、薬剤師のトータルシステムの設計になります。

 

全体のシステム設計とモジュール設計が出来れば、次は、業務の分担と費用の支払いの最適化のための評価関数の選択になります。

 

例えば、20年程前に、医療費削減のために、売薬の制限を緩和して、それ以前よりも、強い薬を医師の処方箋なしに、消費者が購入できるようにしました。

 

医師はこれらの薬の購入歴を、把握していません。お薬手帳が唯一のデータです。しかし、把握できるシステムを作ることは容易です。これは、薬の飲み合わせによる事故を防ぐためには有効です。

 

看護師の医療行為の拡大が、全体の医療システムの戦略に従った戦術になっていれば、医療行為の範囲が変化しても、システムを変更する必要はなく、パラメータファイルの入れ替えだけですみます。

 

ところがこうした全体のシステム設計なしに、数字の調整だけをすると、数字の変更毎にシステムを作りなおす必要がでてしまいます。これはとんでもない費用と時間の無駄です。

 

問題を部分改良で行うことは、DXの障害になります。

 

一般に、部分改良は、ローカル・オプティマムですから、そこには、費用と人的資源の無駄が含まれることになります。



3)認知バイアスの可能性

 

年功型雇用で、同じ組織の中で、年齢の階段を登っていくと、仕事をすることは、ローカル・オプティマムを実現することになってしまいます。

 

そうなると、グローバル・オプティマムが想像できなくなります。

 

部下が何かを提案すると、「提案者は、自分で提案を実現しろ」という上司がいます。

 

これは、改良型の認知バイアスです。

 

提案を実現するためには、「組織+活動」が、必要です。

 

現在の組織で、対応できる提案(つまり改良型)であれば、提案者が「活動」すれば、問題解決ができる可能性があります。

 

しかし、組織を変えなければならない場合には、提案者は問題解決ができません。

 

組織を変えることが出来るのは、幹部だけです。とはいえ、年功型組織を維持することを選定すれば、幹部と言えども、組織の変えられる部分は限定的です。

 

タスクフォースのような活動が行われることもありますが、大抵は、併任辞令で、緊急避難です。

 

ある人が仕事で業績をあげられない場合、その原因は、本人の努力不足や能力不足のこともありますが、組織に問題があって、業績をあげられない場合もあります。

 

小宮信夫氏は、犯罪を防ぐためには、怪しい人に注意するよりも、犯罪を起こしやすい場所を減らす方が効果があるが、日本では、その対策はほとんどなされていないといいます。

 

これは、企業組織(=犯罪者の活動の場)、活動(=犯罪者の活動)と対比してみれば、日本では、企業組織を抜本的に組み替える戦略が欠けていることに対応しています。

 

大学の文学部で、博士課程を修了した人が就職できないオーバードクター問題があります。

 

大学の教員は、博士を雇わない企業に問題があるといいます。

 

大学院の学生の活動も、組織(学習する場)と活動の組合せです。

 

ジョブ型雇用になれた戦略的な発想では、企業にとって魅力のないカリキュラムを行っている学科の組織に問題があり、学習内容や組織を組み変えれば、博士の就職は改善すると考えます。

 

戦略的な発想では、データサイエンスが出てきた時代に、従来の経験科学の枠に留まれば、ローカル・オプティマムになるので、博士の就職が悪いのは当然であると考えます。

 

戦術によるローカル・オプティマムな問題解決が習慣や認知バイアスになっている場合には、説明や説得はほぼ不可能なので、唯一の解決法は世代交代かもしれません。



引用文献

 

「事件の起こる場所には共通点がある」犯罪機会論を構成する諸理論 2022/03/03 Newsweek 小宮信夫

https://www.newsweekjapan.jp/komiya/2022/03/post-3.php