浅川智恵子氏と科学技術未来館

(ジョブディスクリプションとジョブ型雇用とDXは切り離せません)

 

1)日経新聞の記事

 

2022年12月31日の日経新聞の一面の記事で、浅川智恵子氏が、2021年から科学技術未来館の館長を務めていることを知りました。

 

浅川知恵子氏は、大学の英文科を卒業したあと、専門学校でコンピュータをリスキリングして、学生インターンを始めとして、1985年に日本IBMに就職して、2009年には、IBMフェローになっています。

 

浅川知恵子氏は、身をもって、リスキリングした人です。



浅川知恵子氏は、事故の怪我がもとで、中学生の時に、視力をうしなって、視覚障害を持っています。

 

この記事を見ていろいろと考えるところがありました。

 

2)ジョブ型雇用と日本IBM

 

日本IBMはジョブ型雇用の企業です。

 

日本IBMは、レイオフを行い、それに対して、裁判を繰り返してきたことで知られています。日本IBMは、レイオフは、経営者の当然の権利であるという考えです。

 

浅川智恵子氏は、2004年に東京大学で博士号を取得していますが、IBMに就職した時には、博士号をもっていた訳ではありません。

 

日本のITベンダーは、ジョブ型雇用ではないので、浅川氏がIBMではなく、日本のITベンダーに就職していたら、現在の成功はなかったと思われます。

 

日本のITベンダーの社長で、最近、ジョブ型雇用に移行していると発言している人がいます。しかし、ここでいうジョブ型雇用は、年功型雇用を緩和しただけで、ジョブディスクリプションがありません。

 

ジョブ型雇用で、実績を評価するためには、ジョブディスクリプションが必須です。

 

日本IBMが、浅川智恵子氏に実力を評価できたのは、明確なジョブディスクリプションがあったからです。

 

ソフトウェアを作る時には、全体をモジュールに分割します。そして、各モジュールが行うべきジョブを明確に定義します。モジュールを組み立てることで、全体のソフトウェアが完成します。

 

ジョブ型雇用の組織でも、プロジェクトをモジュールに相当する部門ごとのジョブに分割します。ここで、各部門の行うべきジョブディスクリプションが出来上がります。各部門のジョブディスクリプションは更に、各個人のジョブディスクリプションに分割されます。

 

組織のプロジェクトのジョブ分割はソフトウェアのジョブ分割に対応しています。

 

その結果、DXの進展に伴い組織の一部をソフトウェアに置き換えることが可能になります。

 

ソフトウェアのバージョン管理は、大きくバージョン番号を変えるメジャーバージョンアップと、バージョン番号の端数を変えて、エラーの修正などをするマイナーバージョンアップに分かれます。メジャーバージョンアップでは、モジュールの追加や廃止が行われます。

 

この分類は、ジョブ型雇用の組織管理でも同じで、数年毎に、ジョブの見直しを行い、それに合わせて部門の改廃を行います。

 

3)ジョブ型雇用と企業の競争力

 

企業Aがあり、ジョブ型雇用をしています。この企業では、3から5年に一度、プロジェクトを見直して大改訂し、それに合わせて、ジョブディスクリプションを見直して、リストラを行います。解雇された社員には、リスキリングの機会とその間の医療保険の継続が保証されます。

 

企業Aは、プロジェクトの改訂の度に、ソフトウェアサービスのメジャーバージョンアップをしています。

 

企業Bは年功雇用をしています。リストラは基本的にしませんので、ソフトウェアサービスのバージョンアップはマイナーバージョンアップだけです。このため、DXの進展は緩やかですが、プロジェクトの継続性があります。

 

企業Aと企業Bが、同じようなソフトウェアを開発していて販売している場合、顧客は、どちらの企業のソフトウェアを購入するでしょうか。

 

DXに遅れないためにソフトウェアを購入するのであれば、企業Aのソフトウェアを購入する顧客はいますが、企業Bのソフトウェアを購入する顧客はいないと思います。

 

2023年の元旦の日経新聞で、経団連の会長は、企業は賃上げの努力をすべきだと言っています。

 

一方、日立は系列子会社を含めた37万人に、ジョブ型雇用を広げるといっています。

 

このことから、企業Aタイプが、日立で、企業Bのタイプが経団連であることがわかります。

 

あるいは、企業Aは、アメリカ合衆国株式会社で、企業Bは、日本株式会社と見ることもできます。

 

元旦に岸田首相は、年頭所感として「2023年は、歴史の分岐点にあり、戦後残してきた難題に答えを出す」といっています。

 

マイクロソフトが、「今までのバージョンアップで残してきた問題に全て対応するウィンドウズのバージョンアップをする」といえば、これはメジャーバージョンアップです。メジャーバージョンアップをする場合には、専用のチームをつくって、ソフトウェアを開発して、メジャーバージョンアップが出来れば、チームは解散しています。また、それに合わせて、プロジェクトの見直しとリストラをしています。

 

岸田首相はリスキリングが大好きです。

 

岸田首相の年頭所感を聞いて、2023年には、日本政府OSもいよいよメジャーバージョンアップするつもりだと感じた人はどれくらいいるでしょうか。

 

日本政府OSをメジャーバージョンアップすれば、少なくとも公務員の40%くらいはレイオフして、リスキリングしてもらうことになります。

 

IBMのリスキリングについては、次回に紹介しますが、2020年から始まったプロジェクトの見直しに伴うレイオフは社員の20%程度に及んでいる模様です。

 

IBMは、数年に一度は、プロジェクトの見直しとレイオフを行っています。

 

日本政府は、今まで一度も、プロジェクトの見直しとレイオフを行っていませんので、IBMと同じ20%の公務員の入れ替えでは明らかに不足していますので、40%(メジャーバージョンアップ2から3回分)の人員の入れ替えが必要と思わます。

 

省庁再編は効率が悪いから必要という説明は、ナンセンスです。ここには、解決すべき問題が明示されていません。

 

プロジェクトは、解決すべき問題に対して、必要なモジュールを組み上げることで、出来上がります。

 

たとえば、科学技術振興が目的であれば、そのために必要なモジュールは、大学、義務教育、国の研究所、科学技術未来館の啓蒙組織、科学研究の費用、産業補助金など多岐にわたります。これらのモジュールのジョブディスクリプションを書いて、それを基準に達成度をチェックして、問題点があれば、フィードバックして改善する必要があります。

 

特定のIC工場の建設費に補助金をつぎ込んでも、他のモジュールが回らなければ、効果はあがりません。

 

遠藤誉氏は、ハイテク国家戦略「中国製造2025」の作成には、エンジニアの丁薛祥氏が関与していた可能性が高いと推測しています。

 

キーワードを並べただけのハイテク国家戦略をつくることは容易ですが、それに、モジュール設計とジョブディスクリプションがなければ、戦略として機能しません。

 

現在のリスキリング政策には、スキル不足の人の解雇のモジュール、ジョブ型雇用による所得の向上のモジュールなどの必要な部品が考慮されていませんので、エンジニアの視点では、成功する可能性は低いと言えます。

 

また、リスキリングを必要とする課題は、何でしょうか。

 

結局、リスキリングは、科学技術政策の一部にすぎないと思われます。

 

リスクリングと「中国製造2025」をくらべると、「中国製造2025」の方が抽象度の高い上位の概念です。

 

「中国製造2025」は戦略ですが、リスキリングは、戦術にすぎないように思われます。



「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」あるいは、「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」は孫子の有名な言葉です。

 

次回は、IBMの戦略について考えてみます。

 

引用文献

 

習近平には後継者がいた⁈ 2022/01/01 遠藤誉

https://grici.or.jp/3860