能力評価と香港の高度人材獲得戦略~経験科学の終わり

(高度人材に関する世界と日本の認識ギャップを説明します)

 

1)能力評価

 

能力評価の方法について書く計画ですが、ちょっと寄り道になりますが、認知バイアスを指摘することは重要なので、高度人材獲得戦略について考えてみます。



2)本国の施政方針演説

 

香港の高度人材獲得戦略をみると、人材評価に関する世界と日本の現状認識にはギャップが大きいです。

 

新しい香港政府トップのジョン・リー(李家超)行政長官は10月19日、就任後初の施政方針演説を行い、香港に世界中から優秀な人材を呼び込みたいと述べています。



香港では、頭脳流出が深刻化しています。この問題に対処するため、リーは年収250万香港ドル(318,475ドル、約4800万円)以上の人物や、世界トップ100の大学を卒業後に少なくとも3年の実務経験を持つ人を対象に2年間の新たなビザを支給すると発表しました。

 

リーは、他にも人工知能(AI)やフィンテック、新エネルギーなど戦略的に重要な産業で事業を行う中国本土や海外の企業を誘致するため、特別オフィスの開設や、優秀な人材を採用する専門チームの設置などの施策を発表しました。彼はまた、香港で事業を行う企業を誘致するため、300億香港ドル投資ファンドを設立する方針も示しました。

 

シンガポールが月収 3 万 SGD(21,000ドル、年収252,000ドル、約3800万円)以上の人材にビザを発給することを発表しているための対抗措置ともいえます。

 

本国には投資推進局があり、2021年から、優秀人材入境計画(QMAS)をすすめています。

 

資料を添付しておきますが、日本政府が、人に投資するといっている内容と比較すれば、「日本政府の人に投資」は、グローバルスタンダードでは、スタート地点にも、達していないことがわかります。

 

香港政府は、少なくとも、次の形で、政策を提示しています。

 

問題=>問題解決のプロセス

 

また、現在の日本政府のように、矛盾した政策を同時に提示していることは少ないです。

 

人権と経済のバランスには、クレームをつける人がいるでしょう。



3)日本の現状

 

2022年11月12日のニュースで、葉梨康弘法相は「死刑のはんこを押す時だけがトップニュースの地味な役職」などと発言して更迭されています。

 

その少し前には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との関係が問題視された山際大志郎氏が、10月24日に経済再生担当相を辞任しています。

 

経済問題は、マスコミの視野からは消えています。

 

「問題=>問題解決のプロセス」は完全にどこかにいってしまいました。

 

日本にも、外国人の在留資格の高度人材制度があります。

 

これは、複雑なポイント制になっています。



最低年収基準があり、高度専門・技術分野及び高度経営・管理分野においては、年収300万円以上であることが必要です。

 

なお、このポイントの計算は、年収と年齢のクロスの表になっています。

年収の上限は、1000万円です。

 

つまり、1000万円を超える年収の外国人は想定していないことがわかります。

 

年収1000万円は、シンガポールと香港の基準では、優秀人材に該当しません。

 

つまり、日本政府は、外国人の高度人材(優秀人材)を呼び込むつもりはないことがわかります。

 

年収1000万円は、シンガポールと香港の基準では、中程度の人材と思われます。

 

年収300万円では、中程度の人材にもならないと思われます。

 

ここのところの円安で外国人研修生(実体は労働者)の帰国が進んでいます。

 

年収レベルは、300万未満で、人材としてのスキルは期待していないと思われます。

 

筆者は、年収3000万円以上の外国人人材が日本にこない理由は、日本企業が、高度人材の能力評価ができないためと考えます。

 

外国人人材が初めて来日する場合には、日本国内では就業の経験がありませんので、日本国内の就業の経験によらない能力評価が必要です。

 

シンガポールと香港の企業は、高度人材の能力評価ができるので、年収3000万円以上をはらって外国の人材をスカウトします。

 

経団連は、この期に及んで、まだ、春闘のベースアップをするつもりです。

 

春闘のベースアップは、個人の能力評価をせずに、経験の多い高齢者に、高い給与を重点的に支払うシステムです。

 

このシステムを採用する限り、個人の能力評価は不要です。

 

日本の企業は、春闘のベースアップを続けた結果、個人の能力評価が全くできなくなっています。

 

現代の科学技術は高度化していますので、科学技術立国をめざすのであれば、能力を評価して、世界中から高度人材を呼び戻す必要があります。

 

最近の中国の科学技術レベルは、論文の評価では、米国に並んでいます。

 

中国は、そのために、過去10年以上、高給を払って、世界中に流出した高度人材を呼び戻しています。

 

春闘のベースアップをする」ということは、高度人材の獲得競争には関心がない、科学技術には関心がないということです。

 

関心があるのは、既得利権の温存ということだと思われます。

 

オープンワークによる2023年の東京大学の卒業生の就職人気ランキングでは、ベスト20の3分の1は、ジョブ型雇用の外資コンサルタントです。

 

第6位にNTTデータがはいっていますが、NTTデータは実質は、GAFA予備校化しています。

 

能力を評価できない無能な上司の元にいたら、努力は報われません。ジョブ型雇用の外資コンサルタントに人気があるのは、このためと思われます。

 

高度人材の獲得競争には関心がなく、春闘のベースアップを当然のように繰り返している企業は、デジタル社会型の企業にはなれませんので、先行きは、みえています。

 

2022年11月11日に、若手・中堅職員の離職が相次ぐ厚生労働省は、独自に総合職(キャリア)相当の職員の中途採用に乗り出すと発表しています。これは、問題の先送りにすぎません。

 

年功型雇用は、既に破綻していて、日本の企業の多く、日本の官庁は、人材獲得競争にとり残されています。

 

中心となる課題は、「個人の能力評価を評価して能力に見合う給与を設定する」ことです。

 

日本以外では、ジョブ型雇用ですから、「個人の能力評価を評価して能力に見合う給与を設定する」はできて当たりまえです。

 

問題は、日本だけが、「個人の能力評価を評価して能力に見合う給与を設定する」ことができないことです。



資料 QMASの概要

 

<==

 

優秀人材入境計画(Quality Migrant Admission Scheme

 

優秀人材入境計画(QMAS)は、香港に定住を希望する高度な技術や才能を持つ人材を対象とした制度です。QMASには産業部門・分野の制限はなく、入境前に就職先からの内定を得る必要もありません。QMASには、年齢、学歴、職歴等を点数化し評価する総合得点評価法(General Points Test)と、ノーベル賞受賞やオリンピックのメダル取得等のように活動してきた分野において国際的に認められた特筆すべき実績を点数化し評価する実績得点評価法(Achievement-based Points Test) の2種類の審査方法があります。

 

香港の優秀人材リスト(Talent List of Hong Kong)

同リストは、香港で需要のある、優先度の高い特定の職種に焦点を当てています。11 の職種が対象として定められており、廃棄物処理専門家、資産管理専門家、海上保険専門家、保険数理士、フィンテック専門家、データサイエンティストおよびサイバーセキュリティ専門家、技術革新・科学技術の専門家、造船技師、船舶技術者および船舶管理・監督者、クリエイティブ産業の専門家、紛争解決専門家および商事法務専門弁護士が該当します。優秀人材リストの要件を満たした場合、QMAS では、General Point Test で 30 ポイントが付加されます。

 

科学技術優秀人材入境計画(Technology Talent Admission Scheme (TechTAS))

 

同入境計画は、一定の条件を満たすテクノロジー企業が、香港で研究開発に従事する人材を香港域外から迅速に採用するための優遇施策です。対象企業は、まず割当枠を取得するための申請をする必要があります。創新科技署(ITC)から割当枠を取得後、対象企業はその枠に応じて、割当枠の有効期間である 12 か月以内に、研究開発人材の就労ビザ/入境許可を申請する際のスポンサーとなることができます。

 

==>



引用文献




香港が世界の優れた人材を歓迎 2021年7月 Invest HK

https://www.investhk.gov.hk/sites/default/files/IHK_Newsletter_Jul2021_Jp.pdf

 

中国・香港 ニュースフォーカス 2022/10/21 三菱 UFJ 銀行

https://www.bk.mufg.jp/report/chi200402/NF2022-12JP.pdf

 

香港行政長官が施政方針演説、海外人材確保と安全保障を重視 2022/10/19 ロイター

https://jp.reuters.com/article/hongkong-politics-idJPKBN2RE07J



人材流出に危機感の香港政府、「優遇プログラム」立ち上げへ 2022/10/28 Forbs Japan

https://forbesjapan.com/articles/detail/51445



外国人材の活躍推進 首相官邸

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/portal/foreign_talent/index.html

 

外国人の在留資格「高度人材」とは?複雑な「ポイント制」についてもわかりやすく解説!2022/08/23 みんなの採用部

https://www.neo-career.co.jp/humanresource/knowhow/b-contents-koudozinzai_190828/



「仕事が回らない」 厚労省が「キャリア官僚」募集 若手らの離職で 2022/11/11 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/dd0484c177dbe073d047f0ba80ad2a4f99b4068f