ドキュメンタリズムが破綻するとき~ドキュメンタリズムの研究

(ドキュメンタリズムが破綻する事例を紹介します)

 

ドキュメンタリズムは、文書の形式が整って入れば、その内容は問わないというルールです。

 

内容の問題点が表面化するまでは、ドキュメンタリズムは維持可能です。

 

そのためには、内容のモニタリングを行わないません。

 

しかし、内容の実体が、表面化して、ドキュメンタリズムが崩壊することがあります。

 

1)日野自動車エンジン不正問題

 

これは、2022年3月4日に、日野自動車の社内調査によって日本国内向けエンジンの排出ガスや燃費の不正が発覚した問題です。

 

ここまで、不正が表面化しなかった理由は、ドキュメンタリズムにあることは言うまでもありません。この事件は、日野自動車の社内に、ドキュメンタリズムが蔓延していたことを示しています。

 

2)保育園バス置き死亡事故

 

2021年(令和3年)7月29日に福岡県中間市の私立保育園の送迎バスの車内に5歳児が置き去りにされ、熱中症が原因で死亡しました。

 

2022年(令和4年)9月5日に静岡県牧之原市にある認定こども園の通園バスの車内に3歳女児が置き去りにされ、熱中症が原因で死亡しました。

 

どちらも書面、あるいは口頭でのチェックを強化していましたが効果がありませんでした。

 

書面あるいは、口頭で、行政指導するのは、典型的なドキュメンタリズムですが、文書の内容と実際のバスの通園が、一致する必然性はありません。

 

この問題は、通園バスに、センサーをつけることを義務化し、その費用を補助する方向で進んでいます。

 

3)知床遊覧船沈没事故

 

2022年(令和4年)4月23日に北海道斜里郡斜里町で発生した遊覧船「KAZU I」の海難事故です。

 

GPSプロッターによる「KAZU I」の過去の航跡記録を分析したところ、届け出た基準経路とは異なる運航を繰り返していたことが判明しています。

 

GPSプロッターは2021年6月以降は船から取り外され会社に保管されており、事故当日は船体に搭載されていませんでした。

 

「KAZU I」に関連する2021年5月15日、及び2021年6月11日の事故に関しても運輸安全委員会による調査が行われています。

 

GPSプロッターの分析は、事故発生後に行われています。

 

事故までは、届け出が正しければ、問題がないというドキュメンタリズムが行われています。

 

4)まとめ

 

ドキュメンタリズムは形式主義です。書類を作成するには、膨大な時間とコストがかかりますが、その時間とコストは、安全性の向上には直接はつながりません。届け出とは異なる行動を取る可能性があります。

 

2022年10月08日現在で、保育園バスについては、安全装置の9割を補助にする方向で調整が進んでいます。

 

しかし、補助金を増額する方法は、保育園の経営努力を妨げ、自由競争を排除するので、経済学では、否定的な方法です。

 

安全装置には、2つの問題点があります。

(1)GPSプロッターのように、安全装置は、取り外されたり、スイッチがOFFになっていることがあり得ます。

(2)保育園バスの置き去り以外の問題に対して、安全装置は効果がありません。

 

近代経済学の標準的な考え方は、許認可指導ではなく、市場原理を使う方法です。保育園については、情報の非対称性を解消することが基本です。

 

例えば、父母が保育園を選択するときに、どのような安全対策がなされてるかを判断できるような情報開示を義務づけます。

 

保育園に対しては、保険をかけることを義務づけます。

 

保険会社は、保育園の安全対策のレベルを判断して、保険料を決めます。

保育園バスがある場合には、安全装置をつけて、警備会社が、常時監視することが基本になるはずです。

 

こうした保険や安全装置には費用がかかりますが、その補助は保育園に対して行うのではなく、父母の保育料に対して行うことが基本です。父母は、安全対策のコストパフォーマンスのよい保育園を選択します。安全対策の不十分な保育園は、児童を集められなくなり、廃業します。こうしたことを実現するためには、保育園の認可を容易にする必要があります。

 

現在は、保育園の認可のハードルを高くして、保育園が赤字にならないように、参入障壁をもうけています。こうすれば、質の悪い保育園が残ってしまいます。

 

2020年8月26日のKYOUDOによれば、文部科学省は8月26日、全日本私立幼稚園連合会の業務上横領事件に絡んで起訴された前会長らから飲食接待を受けたとして、官房長や、幼児教育担当の前官房審議官等の6人を減給の懲戒処分にしています。

 

補助を業界にばらまいて、幼稚園や保育園が赤字にならないようにすれば、幼児教育の質が低下して、接待が発生します。それには、死亡事故につながるリスクもあります。補助金が、選挙の票に繋がっている可能性もあります。天下りがリンクしている可能性もあります。こうした問題を回避するには、補助金は、父母に支払う必要があります。

 

もちろん、選挙の票がからむと、問題は難しくなりますが、普通の経済学は、それを乗り換えるべきだと考えます。

 

まとめますと、ドキュメンタリズムに注目すれば、問題点を見つけることが容易になります。

 

引用文献

 

飲食接待で文科省幹部ら6人を懲戒処分 2022/08/26 KYODO

https://news.yahoo.co.jp/articles/0e5fcddf0b856ebea62f15da06fa7acbdea1be21