成長と分配の経済学(20)~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

アンシャンレジームの概要

 

(例示方式で、アンシャンレジームを簡単に説明してみます)

 

既に、「ヒストリアンとビジョナリスト第1章」をアップしてあります。

これを書いた時の前提は、以下です。

 

(1)各節が単独で読めるように、各節のテーマを一つにすること

(2)「ヒストリアンとビジョナリスト」以外の話題は、第2章以降に掲載することにして、第1章には入れないこと

 

こうした単純化の方針は、内容を読みやすくする上では大切です。

しかし、検討する現象が複雑な場合には、無理に単純化することはできません。

複雑な現象を考える場合には、ツールをつくる必要があります。

ツールは、基本的な概念でできていますが、いわゆる俗説を洗い流して、概念を再構築する必要があります。

問題が複雑な場合、問題を分析するツールも複数になります。

この方法では、本題に入る前に、複数のツールの説明をする必要があります。

 

ツールの説明は、具体例から入った方がよいのかもしれません。

 

厳密な説明は、後回しにする方法です。

 

以下に試してみます。わかりやすさを優先するため、要点は、詳しい説明に入り込まないことです。

 

1)アンシャンレジー

1-1)簡単な説明

 

旧作「ヒストリアンとビジョナリスト」のテーマは、変わらない日本の原因を考えることでした。

「西暦2000年のアンシャンレジーム」のテーマの設定は、現状は変わらない日本ではなく、アンシャンレジームにシフトしている日本だと考えます。

 

世界各国は、現在、DXによって、デジタル社会に移行しつつあります。

 

DXとアンシャンレジームの違いは、次のようなレジーム・シフトの図式で書けます。

 

DX:

今までのレジーム(部分的なデジタル化を含む) => DX => デジタル社会のレジー

 

アンシャンレジーム:

今までのレジーム(部分的なデジタル化を含む)=> アンシャンレジームにシフト =>デジタル以前の社会のレジー

 

1-2)具体例

 

大手新聞などで、紙の新聞が、デジタルよりも優れているといった記事をよく掲載します。

 

デジタル教科書は、紙の教科書より悪いといった情報操作をします。

 

しかし、デジタルには、紙にないメリットが沢山ありますので、紙とデジタルを併用することはあると思いますが、紙だけに戻ることはありません。

 

筆者は、デジタル書籍は、わかりにくいところは、印刷をして、繰り返し読んだり、赤線を引いたりしています。目が疲れたら、文字を拡大したり、自動音声で読み上げ機能をつかうこともあります。

 

このようなメリットを無視して、「紙が、デジタルより優れている」と結論づけるのがアンシャンレジームです。

 

アンシャンレジームは、DXが実用化して、従来のレジームの旗色が悪くなってから、強化されています。

 

世界各国は、現在、DXによって、デジタル社会に移行しつつあります。

 

アンシャンレジームは、DXを排除して、デジタル社会のレジームにシフトすることを阻止しようとします。

 

アンシャンレジームは、鎖国をするようなものですから、経済に破壊的な効果があります。

 

これが、「西暦2000年のアンシャンレジーム」のテーマの設定、現代日本の最大の問題点は、現状が変わらない日本ではなく、アンシャンレジームにシフトしている日本だと考える理由です。

もちろん、正面切って、DXに反対とは言いにくいので、「紙が、デジタルより優れている」というように、DXのネガティブな面を強調するわけです。

デジタル教科書を印刷して、読んでいけない訳はありませんので、「紙が、デジタルより優れている」という論理は、最初から破綻しています。実際に印刷して見ると、学習しているところの10ページ前後で十分なので、重い教科書を運ぶ必要がなく便利です。

霞が関では、未だにファクスを使い続けている組織が多く、河野太郎行政改革担当大臣(当時)が「中央省庁のファクス廃止」を発表したときにも、各省庁から400件を超える反論が寄せられています。これも、アンシャンレジームです。

 

アンシャンレジームは、日本経済に対する破壊的行為です。これを続ければ、日本経済は、どんどん貧しくなっていきます。

 

1-3)アクターと組織

アンシャンレジームは、そのことによって利益のある人が、アクターになって進めています。言い換えれば、DXが進むと困る人がいるので、その人がアクターの候補になります。

企業が、DXを進めるのは、それによって、企業価値が高まり、利益が増えるからです。つまり、企業の利益を第1に考えれば、DXを遅らせる理由はありません。これは、株式会社の原則です。株式会社の中に、DXを遅らせることで、企業の利益を犠牲にしても、個人の利益を追求する人がいる場合、これは、組織マネジメントの失敗です。ですから、悪者探しをする前に、組織のバグを取り除く必要があります。

ここで、注意しておきます。DXは、異分野の融合を促進するので、縦割りでないフュージョンな世界が次々に出現しています。そのような場合には、業界、学問分野、省庁などの縦割りの世界は、大きなダメージを受け、アクターになる可能性があります。つまり、アクターが、マイノリティではなく、マジョリティになっている可能性があります。

筆者は、陰謀論を唱えたい訳ではありませんので、アクターの推定は、今回はここまでにします。