アーキテクチャ(15)

ビジョンとアーキテクチャ

(実現可能なビジョンには、アーキテクチャが必須の条件です)



1)男女共同参画基本計画

 

前回は、3本の矢の3本目にアーキテクチャが設計できなかったことが、産業競争力が得られなかった原因であると分析しました。

 

ここでは、実際に、アーキテクチャを設計した例を考えます。

 

政府は、2020年12月25日 に、 第5次男女共同参画基本計画を閣議決定しています。

 

その一部を見ますと、例えば、「指導的地位に占める女性の割合についてモニタリングを充実させ、これに基づき必要な対応を加速させるなど、取組を強化する」と書かれています。

 

しかし、ここには、モジュールもアーキテクチャもありません。

 

つまり、第5次男女共同参画基本計画はビジョンとしての要件を満たしていません。



The Oxford Advanced American Dictionaryでは、vision を次のように説明しています。

 

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the ability to think about or plan the future with great imagination and intelligence

; synonym foresight

 

素晴らしい想像力と知性で未来について考えたり計画したりする能力

 

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Visionはviewの派生語ですから、見えるように描くことが語義になります。

 

同義語のforesightは、次のようになっています。

 

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the ability to predict what is likely to happen and to use this to prepare for the future

 

起こりそうなことを予測し、それを使って将来に備える能力

 

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2022年7月10日の参議院議員選挙では、当選者に占める女性の割合は28%(前回22.6%)で改善していますが、ロードマップにはないので、それをもって、 第5次男女共同参画基本計画に効果があったとはいえません。



2)クオータ制のアーキテクチャ

 

議会の女性比率は、1970年代の北欧のクオータ制によって大きく促進されました。

2022年9月現在のスウェーデンフィンランドデンマークの首相が女性であるのは、クオータ制の成果でもあります。

 

クオータ制は、女性の社会参加を可能にするアーキテクチャです。モジュールがあり、ロードマップが作成できます。

 

第5次男女共同参画基本計画は、国会議員のクオータ制導入のロードマップを示していません。男女共同参画は、クオータ制に限定されませんので、それに代わるようなアーキテクチャを設計して、ロードマップに載せれば、ビジョンになります。それがなされていないので、日本には、男女共同参画のビジョンがないことがわかります。

 

与党自民党は、政官財の利権のトライアングルに組み込まれていて、岩盤規制改革も男女共同参画も、本音はやりたくないのかもしれません。

 

マキャベリがいうように政治はきれいごとではないので、これには、致し方のない面もあります。とはいえ、次の2つの点で、現状でよいと諦めるわけにはいきません。

 

(1)デジタル社会へのレジームシフト問題

 

既得利権を守ると、デジタル社会へのレジームシフトで致命的な失敗を引き起こす可能性が高いです。これは日本が、発展途上国に戻ることを意味します。これは、一般国民にとっては所得の劇的な減少を引き起こし、耐えがたい経済的苦痛を与えるシナリオです。既に、その兆候が見られます。過去に、農業社会から工業社会へのレジームシフトに失敗した国、例えば、アルゼンチンをみれば、レジームシフトの失敗のダメージがわかります。

 

発展途上国に戻っても、利権の構造が残り、政官財の利権のトライアングルが残れば、利権の山分けができます。とはいえ、山分けできる原資が目減りしてしまいますから、利権構造が変化しても、既得利権者の実入りが増える代替案があると考えます。つまり、マキャベリズムに立っても、現状追認で諦める必要はないと考えます。

 

(2)野党の問題

 

英国の場合、クオータ制は労働党が導入しています。保守党にも女性議員はいますが、クオータ制はとっていません。

 

労働党は1993年にクオータ制を導入し、1997年の総選挙で女性議員の数を倍増させて政権を獲得しています。

 

同様に、考えれば、日本でも、クオータ制を導入する野党が出きて、女性議員の数を倍増させて政権を獲得するシナリオもあり得ますが、クオータ制を導入する野党はいません。

 

現状では、野党も、与党と同じように利権の構造にぶら下がることを考えているようにしか見えません。

 

例えば、N党は2022年7月の参院選で82人が立候補し、選挙区で1人あたり300万円、比例で同600万円の供託金、計約2億7300万円の支出となりました。この供託金は、没収されますが、6年で総額約20億円の政党交付金が入る見込みで、差し引きは黒字になります。つまり、N党は、政党交付金という利権を目当てに選挙を戦っていると考えられます。

 

これは、極端な例ですが、他の野党も似たような状況に見えます。

 

日本には、クオータ制を導入した野党がなく、選挙でクオータ制を導入を選択する投票ができないことは、かなり異常な状況です。

 

3)ビジョンの欠如

 

ビジョンはアーキテクチャがなければ、作ることができません。

 

クオータ制に限らず、日本には、問題解決のためのアーキテクチャを設計できる人材が少なく、ビジョンになっていない「計画書」(ビジョンもどき)が巷に氾濫しています。

 

前回、アベノミクスの第3の矢では、プロジェクトの設計図(ロードマップ)に必要なモジュール、レイヤー、ステージなどのアーキテクチャの部品が見あたらないと言いました。

 

ビジョンには、プロジェクトの設計図(ロードマップ)に必要なモジュール、レイヤー、ステージなどのアーキテクチャの部品があるはずです。こうしたアーキテクチャの部品のない「計画書」は、実現のためのロードマップがなく、ビジョンではありません。



政府は2022年6月1日、「第6回デジタル田園都市国家構想実現会議」を開催、地方における官民のデジタル投資を大胆に増加させるデジタル投資倍増に取り組む「デジタル田園都市国家構想基本方針(案)」を公表し、施策の全体像をまとめています。2021年度補正予算と2022年度予算案を合わせて総額5.7兆円を投じる計画です。

 

「デジタル田園都市国家構想基本方針(案)」は、筆者には、過去の全国総合開発計画を連想させます。全総は数回、繰り返されましたが、次第に掛け声倒れになって縮小して行きました。

 

1962年制定の第一次全国総合開発計画は、大都市の過密化と地域格差の拡大がすすみ、それらを防止する地域間の均衡ある発展を図ることを目標としています。1962年は、ソ連の計画経済の5か年計画が評価されていた時期でした。ここでは、計画経済の手法がコピーされています。

 

「デジタル田園都市国家構想基本方針(案)」の「デジタルは地方の社会課題(人口減少、過疎化、産業空洞化等)を解決するための鍵」という表現から、60年前と計画の本質が変わっていないように見えます。



本書は、デジタル社会へのレジームシフトを成功させるのは、アーキテクチャの問題であると考えます。良いアーキテクチャを含んだ設計図はビジョンになります。

 

「デジタル田園都市国家構想基本方針(案)」に良いアーキテクチャが含まれていなければ、そこには、アベノミクスの第3の矢と同じビジョンの欠如の問題があると考えます。

 

アーキテクチャがなければ、難しいプロジェクトは着手できず、政策は、予算の配分だけになり、予算にからむ利権優先の構造が保存されるだけで、デジタル田園都市国家は何一つ先には進みません。これはスタート前に分かることです。



デジタル田園都市国家構想実現会議

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html