アーキテクチャ(14)

三本の矢とアーキテクチャ

(アーキテクチャの視点を使えば、経済政策はスタート時点で評価もできます)

 

1)政府の経済対策

 

政府は、過去20年間、景気対策やデジタル化推進の政策を進めてきました。

 

結果から見れば、それらの政策は、十分な効果を上げることができませんでした。

 

最近、政府は、デジタル庁を作って、デジタル化を推進するといっています。

 

このような政策に効果はあるのでしょうか。

 

これらの政策は、専門家の検討委員会の討議を経て推進されます。

委員会の委員は、一流大学の教授や著名な企業の重役など、その道の専門家です。素人が専門家の提言に、疑問を挟む余地があるのでしょうか。

 

仮に、専門家の提言が問題解決に十分な内容を含んでいるのであれば、問題は解決しているはずです。しかし、現実はそうなっていません。

 

つまり、エデンスから見れば、次の手順には、有効性は認められません。

 

(1)首相が基本政策を提案する

(2)専門家会議を開いて、提言書を作る

(3)提言書にしたがって政策を実施する。

 

つまり、疑ってみることは必要だと思われます。

 

2)アベノミクスの3本の矢

 

アベノミクスの3本の矢を例に具体的に考えてみます。

 

政府は、2012年12月に、GDP成長率3%を実現する「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の3本の矢の経済対策を打ち出しました。

 

2013年1月には政府と日本銀行で「物価上昇率2%」の目標を盛り込んだ共同声明をまとめ、その後金融緩和に積極的な黒田東彦総裁を起用しました。

 

1本目の矢の金融緩和は円安・株高でアベノミクスの基盤を築きましたが、目的とする2%のインフレは、ウクライナ戦争で、物価が上昇するまで実現できませんでした。

 

2本目の矢の財政政策は、財政赤字を増やしましたが、一時的な刺激策で、継続的な効果はありませんでした。

 

3本目の矢の成長戦略は、「道半ば」と言われ続け、めぼしい成果はありませんでした。

 

2014年1月、故安倍氏は、関係者一同を集めて官邸で「産業競争力会議」を開き、「私は、自らドリルの刃になって、(農業、医療、雇用の)岩盤規制分野に踏み込む覚悟でございます」と語りました。2014年6月に第二次成長戦略が、発表されました。ここまでの「産業競争力会議」「規制改革会議」「財政諮問会議」の報告や答申を合わせると、全部で300ページを超える戦略が発表されています。

 

エビデンスで評価する場合、提案した政策が実行された場合と、実行されなかった場合は、区別する必要があります。

 

実行されなかった政策は評価できないことは言うまでもありません。



第1の矢と第2の矢は実行されました。

 

第3の矢には、実行にたどり着いた目ぼしいプロジェクトや政策はありませんでした。

 

3)アークテクチャの視点

 

3本の矢をアーキテクチャの視点で整理してみます。

 

第1の矢と第2の矢は、過去に実施された政策です。

 

つまり、新しくプロジェクトのアーキテクチャを考える必要はありません。

 

過去のプロジェクトの設計図の数字だけを入れ替えて再利用すれば良いのです。

 

第3の矢には、プロジェクトの新しい設計図を描くためのアーキテクチャが必要です。

 

しかし、第3の矢のアーキテクチャは議論されていません。

 

第3の矢では、プロジェクトの設計図(ロードマップ)に必要なモジュール、レイヤー、ステージなどのアーキテクチャの部品が見あたりませんでした。

 

第3の矢には効果的に実施可能な設計図がなかったことがわかります。

 

このようにアーキテクチャの視点を入れるとプロジェクトの実行可能性が判断できます。

 

アーキテクチャの視点に基づく判定は、プロジェクトが始まる時点で評価できます。

 

第3の矢は、スタート時点で、実行可能ではないと判断できました。

 

アーキテクチャは、前例主義とは反対の概念です。

 

3本の矢を前例主義で実行可能な矢と、実行不可能な矢に分けてみれば、第3の矢は岩盤規制に切り込むわけですから、前例主義では不可能で、新しい設計図を描くためのアーキテクチャが必須なことがわかります。

 

4)デジタル社会のアーキテクチャ

 

以上は、3本の矢の経済政策の分析でした。

 

この本のテーマは、デジタル社会へのレジームシフトです。

 

ジームシフトが起こる場合には、前例主義は無効で、有害です。

 

新しい設計図を描くためのアーキテクチャが、レジームシフトを成功させる鍵を握っています。DX問題は、新しいアーキテクチャのサブセットのモジュールの問題にすぎません。工業社会のアーキテクチャを再利用して古い設計図を使い回している限り、デジタル社会へのレジームシフト問題は解決できません。

 

OJTや年功型雇用は、古い設計図を使い回し工業社会のアーキテクチャにしがみつく経営戦略です。デジタル社会へのレジームシフトが始まっている時代に、それを続けると何が起こるかはいうまでもありません。

 

「デジタル競争力ランキング2021」で見ると日本だけが先進国の中で、デジタルスキルのレベルが異常に低くなっています。以上のように考えると、その原因が、工業時代のアーキテクチャを維持していることにあると判断できます。

 

複雑なシステムを設計する概念として、1962年にサイモンは、モジュール化とアーキテクチャという概念を提唱しました。

 

それ以前に、フォードは、1913年に、部品の標準化、工程の分業化・機械化の徹底、コンベヤシステムを導入したフォードシステムを開発しています。

 

フォードシステムとアーキテクチャは似ている部分もありますが、大きな違いは情報の双方向性です。アーキテクチャでは、モジュールの間で、通信が行われ、モジュールの挙動は、通信でえられた情報によって変化し、柔軟性があります。

 

サイモンは、アイデアとしての双方向通信を述べましたが、その実装には、コンピュータネットワークが不可欠でした。

 

デジタル社会はクラウドシステムによるリアルタイムで更新された情報の共有が前提です。モジュール間の通信条件が大きく変化していますので、最適なアーキテクチャも変化します。



この文章は、Googleドキュメントで書いています。この文章は執筆者が1名なので、モジュール間の通信の影響はほとんど受けません。それでも、PCで執筆する場合と、タブレットで執筆する場合があり、クラウドストレージの利便性の恩恵があります。

 

会社などの組織で作成する文章は、分担執筆したり、添削したりすることが原則です。Googleドキュメントなどのクラウドサービスを使えば、一昔前では不可能であった分担執筆のアーキテクチャが非常に安いコストで実現できます。

 

こう考えると、デジタル社会にメリットを生かしたビジネスのアーキテクチャを設計できるか否かが、デジタル社会へのレジームシフトに生き残る鍵であることがわかります。

 

World Digital Competitiveness Ranking 2021

https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness/