アーキテクチャ(8)

政治アーキテクチャとソリューショニズム

霞が関のソリューショニズムが問題にされないのは異常です)

 

1)ソリューショニズムの拡散

 

ソリューショニズムをここでは、伊藤穣一氏に準じて、問題に対する対処療法と考えます。

 

例によって、外国の文献をありがたいものとして紹介する人文科学者は多数います。

 

モロゾフ氏の「ソリューショニズム」はかなり人気があります。

 

モロゾフ氏は、IT業界のソリューショニズムを批判しました。

 

アーキテクチャを考えれば、その批判は、表面的に思われますが、IT業界にも、モロゾフ氏のいうような対処療法がないとはいえません。

 

伊藤穣一氏は、対処療法としてのソリューショニズムには注意すべきという立場です。

 

クーンのパラダイムは、提案者の意図を離れて独り歩きして、非常に幅広い意味に使われ、人気のキーワードになりました。クーンはこうした誤用法が気になったようですが止めることはできませんでした。

 

モロゾフ氏のソリューショニズムも、提案者の意図を離れて独り歩きして、非常に幅広い意味に使われ、人気のキーワードになっています。モロゾフ氏は、自らが誤用法を拡張しているようにも見えます。モロゾフ氏は、研究者ではなく、ビジネスマンなのでしょう。



ソリューショニズムという言葉が拡散していくのは、パラダイムと同じように、今まで、頭の中でもやもやしていたものが、ソリューショニズムというキーワードをつかうと簡単に明快に説明できるからだと思われます。

 

対処療法は今までもありましたが、対処療法を政治イデオロギーに格上げしたのは、モロゾフ氏が最初だと思われます。これは、原因がわからないので対処療法を使っているのではなく、政治的利益のために、意図的に、対処療法が使われているという主張です。拡張して考えれば陰謀論にも見えるので、インパクトがあります。ソリューショニズムに人気があるのは、このあたりが原因と考えます。

 

政治イデオロギーに踏みこむと、議論が収拾しなくなるので、ここでは、ソリューショニズムをあくまで対処療法と考えます。とはいえ、利益誘導のために、意図して、対処療法を選択する可能性はあります。フランス革命の前のアンシャンレジームは、王権神授説でした。この並びで書けば、現在の日本のアンシャンレジームは、ソリューショニズムかも知れません。

 

対処療法も、アーキテクチャの1種ですが、他に方法がない場合の緊急避難で使うべき、アーキテクチャです。アーキテクチャは、本来は、問題の領域を分割して、領域間の相互関係を考えるアプローチです。対処療法は、症状と対策しか問題にせず、その対策の効果は検証しない方法です。

 

例えば、インフレ(症状の改善)と低金利(対策)は対処療法です。インフレは、ウクライナ戦争でも起こります。このような隠れた要因はいくらでもありますから、対処療法が効果があるとはいえないので、使ってはいけないというのがデータサイエンスの基本です。エビデンスは、対処療法を回避するキーワードです。

 

この問題を、日銀は、ソリューショニズムに陥っていると書くと、日銀が、何か後ろめたいことをしているように響きます。その響きには、政治イデオロギーの匂いもありますが、そこまでいかなくとも、問題の原因を科学的に考えていないということは、データサイエンスの範囲でいえます。

 

マッカーシズムまでいくと行き過ぎですが、ソリューショニズムを洗い出せば、データサイエンスの範囲で、税金が無駄使いされないエビデンスに基づいた政策を進められるという点で意味があります。

 

2)霞が関の政治アーキテクチャ

 

ソリューショニズムが、日本の政治にどのように組みこまれているかを考えるには、現在の問題の多い政治アーキテクチャの分析からスタートすべきです。

 

筆者は、現在の政治アーキテクチャは、次の2つのレイヤーからなっていて、問題解決をするレイヤーがないソリューショニズムに陥っていると考えます。

 

(1)合法性のレイヤー

 

(2)ソリューショニズムのレイヤー



2-1)合法性のレイヤー

 

合法性のレイヤーは、違法か、合法か、違法であれば、罰するレイヤーです。

 

ここでは、問題を設定して、問題が再発しないアーキテクチャは検討されません。



日野自動車の不正、統一教会問題も、合法性のレイヤーで扱われます。

 

国会で、大臣や議員が、統一教会とは関係がありませんと答弁することは、問題を合法性のレイヤーで扱っています。

 

議員(公務員)は、全ての国民の代表であって、特定の国民の代表であってはいけないというのが建前のルールです。

 

霞が関文学と呼ばれる答弁も、合法性のレイヤーで扱われます。

 

このレイヤーは、予算を必要としない特徴がありますが、実効のある問題解決には結び付きませんので時間の無駄です。国会答弁のほとんどは、このレイヤーに属します。

 

2-2)ソリューショニズムのレイヤー

 

このレイヤーでは、問題のキーワードに対して、キーワードの名前を付けた予算が組まれます。名前を付ければ、予算ソリューショニズムでしょうか。

 

キーワードの名前を付けた予算が組まれることは、問題が解決できることを意味しません。

データサイエンスでは因果関係は、エビデンスにを計測して、評価することが原則です。

 

2022年8月29日のPRESIDENT Onlineで、山下 一仁氏は、「『税金9兆円を投じても農産物生産量は減少』日本の食料自給率がまったく上がらない根本原因」というタイトルで、食料自給政策を批判しています。そして、「(自民党は、)50年間も実施して失敗した政策の繰り返し」をしていると指摘しています。

 

ここで問題にしたいのは、農業政策にかぎりません。「XX年間も実施して失敗した政策の繰り返し」があれば何でもかまいません。

 

新しい政策が始まったとき、その政策に効果があるか否かはわかりません。政府は、効果があると主張します。新しい政策が、山下氏のいうように、「失敗した政策の繰り返し」でない限りは、エビデンスがなければ、始める前に政策にダメ出しはできないと考える人が多いと思います。

 

新しい政策が、「失敗した政策の繰り返し」か否かは、主観的な判断を含みますので、水掛け論になります。

 

こうして、山下氏の主張は、結果が出るまで、退けられます。

 

ところが、モロゾフ氏のソリューショニズムは、対処療法は、スタート時点で、その政策のダメ出しができると主張します。

 

月に向かってロケットを打ち上げる例を考えると分かり易いと思います。

 

政府は新しい政策は、失敗するリスクはあるが、成功するかどうかは実施してみないとわからないロケットのようなものだと主張します。これは、「失敗した政策の繰り返し」ではないと主張します。

 

この論理では、月に向かってロケットを打ち上げれば、到達しないリスクはあるが、月に到達するかも知れないといいます。

 

しかし、ソリューショニズムの主張はクレイジー―です。

 

ソリューショニズムの場合、効果の判定はしないので、そのためのエビデンスデータは収集しません。エビデンスのデータによると、政策Aの効果は、40%の確率でしか発現しないが、政策Bの効果は70%の確率で発現するという数字が出ます。エビデンスがあると、フリーハンドで好きなことができなくなるので、まずい訳です。

 

月ロケットは、カルマンフィルタ―で軌道修正します。データをとって、予定軌道とずれていた場合には、ずれを軌道修正をします。これがないと月ロケットは、月には到着できません。

 

しかし、ソリューショニズムの論理は、軌道修正をしなくとも、月に着くかも知れないという主張です。だから、筆者は、その主張はクレイジーだと考えます。

 

8月29日に2023年の予算概略数字が出てきました。

 

予算書を見て、政策がエビデンスに基づく軌道修正を含まないソリューショニズムになっていれば、その政策の効果がでる確率は低いです。

 

どのくらい低いかは、エビデンスのデータがなければわかりませんが、ベイズ統計では事前情報が入手できなければ、一般には、中立の仮定をとりますので、これを採用すれば、成功する確率は50%です。

 

ロケットでは、打ち上げの成功確率の低い会社のロケットをやめて、成功確率の高い会社のロケットを使えば、少ない予算で、数多くのロケットを月に到着させられます。

 

同じように、政策も成功確率の低い政策をやめて、成功確率の高い政策をとることで、税金を有効に使うことができます。

 

3)AIと予算管理のインターフェース

 

「政策も成功確率の低い政策をやめて、成功確率の高い政策をとることで、税金を有効に使う」というアルゴリズムはどこかで見た風景です。

 

これは、アメリカの資産運用会社が、メタの「ブレンダーボット3」のようなボットに組み込んでいる株式売買などの資産運用アルゴリズムと同じアーキテクチャです。

 

つまり、財務省や、政府に任せておくよりも、優秀なボットを開発して予算管理した方がずっと税金が安くなることを意味しています。

 

ジョン・エチェメンディ氏の言葉を再度引用します。

 

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それは AIの分野がもはや、テクノロジー情報科学だけのものでなくなっているからです。この分野は、全知的学問分野をカバーしています。そして、情報科学者、エンジニア、プログラマーだけでは、答えが出せない疑問が出てきたのです。いま答えを出すべきなのは、経済学者や哲学者、法の専門家たちです。私たちは、こうした疑問に答える努力をしなくてはならないと感じています。

 

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政府が予算ソリューショニズムから抜け出せない限り、政府がAIボットに勝てる可能性はほぼゼロです。

 

引用文献

 

「税金9兆円を投じても農産物生産量は減少」日本の食料自給率がまったく上がらない根本原因」 2022/08/29 PRESIDENT Online  山下 一仁

https://president.jp/articles/-/60699