日本の安全とレジームシフト~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(日本の犯罪統計は、完全に時代遅れに見えます)

 

安倍元首相が演説中に銃撃されて死亡しました。

 

これから、出て来る議論は、次の2点と思われます。

 

(1)日本の社会は、安全でなくなったのか

(2)政治家や著名人の殺害を防ぐ有効な方法はあるか



1)日本の社会は、安全でなくなったのか

 

犯罪統計で時系列を見ると、 京都産業大学の田村 正博氏が指摘するように、殺人件数は減っています。

 

しかし、若年人口が減少すると犯罪件数は減ることがわかっているので、単純には、喜べません。

 

田村 正博氏は、「合理的選択理論」(犯罪は、犯罪をする人にとって、犯罪の予想メリットが予想デメリットを上回るから行われる)が成り立つという前提で論じていますが、殺人事件は、「合理的選択理論」にはのらないと思われます。

 

「合理的選択理論」は、生存に問題がない場合に、有効になります。しかし、とりあえず、生きることを優先する社会では、犯罪が増えます。

 

日本の過去のデータを見ると、失業率と自殺率の間には相関がみられますが、失業率と殺人件数の間には相関がありません。ニューヨークの場合ですと失業率と犯罪件数の間には、相関があります。レジームシフトが起これば、日本の犯罪もニューヨーク型になる可能性はあります。

 

「合理的選択理論」にのらない典型に、通り魔殺人事件があります。

 

平成23年までの通り魔殺人事件の時系列をまとめたレポート(法務総合研究所研究部報告50)をみれば、変動が大きすぎて、トレンドを検出できません。

 

2021/11/18のJIJI.comによると、次のようになっています。

 

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警察庁は全国の警察からの報告を基に、金銭目的など明確な動機がなく、路上などで通りすがりに不特定の人を刃物などで殺傷する事件を「通り魔殺人」として集計。発生場所を「人が自由に出入りできる場所」としているため、電車内などは含めていないという。

 

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つまり、通り魔殺人のデータは、過少である可能性があります。

 

平成24年以降のデータは、犯罪統計にありますが、これは、単年データで、SQLで使えるようなtidyなデータはありませんので、集計を諦めました。

 

これから、犯罪データは、データサイエンスの処理が行なわれていないことがわかります。

 

つまり、統計的には、「日本の社会は、安全でなくなったのか」は分析できていません。

 

データサイエンス的にみれば、使えるエビデンスデータを整備して、直ぐに使える形で公開していない場合には、本気度に「はてな」がつきます。これは、あくまで、サイエンスとしての評価ですが。更に、英語版を公開していれば、国際的なDXレベルの評価に耐えることになります。なお、こうしたエビデンスのデータベースは、公共財なので、公共経済学では、国や自治体が整備すべき対象になります。

 

現在の外交において、エビデンスデータの公開は、非常に重要なツールになっています。

 

2)日本の犯罪のレジームシフトの可能性

 

ジームシフトの概念は、環境以外の問題の対策を考える上でも有効です。

 

例えば、がんの治療では、早期発見が大切であると言われています。

 

がんは、ステージ4になると、ガン細胞が、血流にのって、体中に拡散してしまいますので、再発を防ぐことが難しくなります。

 

ステージ3までですと、がん細胞は、移動していませんので、患部だけを治療すれば良い訳です。

 

この現象も、ステージ3とステージ4の間で、レジームシフトが起こったと理解することができます。

 

犯罪の場合も、今まで、殺人事件の件数が下がってきているというヒストリーには、今後も、下がり続けるという根拠はありません。

 

2022/06/20のNewsweekで、小宮信夫氏は、次のように主張しています。(筆者要約)

 

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「同調性」は、かつて日本の高度経済成長に寄与した。「同調性」は、日本で犯罪が少ない原因でもある。しかし、これからの日本にとって必要なのはイノベーションを可能にする「多様性」である。「多様性」は、「協調性」とは共存できるが、「同調性」とは共存できない。今後、イノベーションが進めば、「同調性」が犯罪を抑える効果は薄くなり、「協調性」によって犯罪を抑える方法にシフトする必要がある。

 

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つまり、小宮信夫氏は、「同調性」から、「協調性」へのレジームシフトが起こると考えています。

その場合のドライビングフォースは、イノベーションです。

 

もうひとつは、所得格差の是正の失敗でレジームシフトが起こる可能性があります。「同調性」から、やっかみで、高度人材の足を引っ張ってはいけません。そうすれば、全員が貧しくなります。高度人材には、高給を払いつつ、所得格差の是正をする必要があります。ベーシックインカムはこうした手法のひとつですが、健康な人であれば、何らかの仕事をするか、ボランティアに応募してもらう方法もあります。



3)政治家や著名人の殺害を防ぐ有効な方法はあるか

 

2022/07/06のNewsweekに、小宮信夫氏が、ディフェンダーXの解説を載せています。

 

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人は緊張したとき、動かしたくなくても手が震えたり、声が震えたりする。挙げた手が静止して見える場合でも微妙に震えている。身体的・精神的なストレスによる一過性の「ふるえ」は顔の皮膚にも現れる。そうした表情筋の微振動を解析して、その人の現在の緊張度を測定しようというのが、ディフェンダーXである。

 

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つまり、監視カメラに、ディフェンダーXを使ったり、ボディガードのサングラスをディフェンダーXにするなどの対応が考えられます。

 

あるいは、選挙演説会場のリスク評価を事前に行い、予測リスクの高い会場は、変更するなどの方法も考えられます。ただし、前述のように、現在の犯罪データは、データサイエンスに使えるような形式と品質になっていませんので、道は遠いと思われます。

 

4)まとめ

 

現在の日本の犯罪率は、非常に低く、国際的には、安全な国に属します。しかし、今後、レジームシフトが起こる可能性は非常に高いです。特に、現役時代に、非正規採用で働いた人の場合、年金で食べていくことが困難になることは明白です。つまり、今後は、高齢者の犯罪率が増加する可能性があります。レジームシフトの考え方では、一旦、犯罪が増えてしまうような非可逆なレジームシフトがおこると元にはもどりません。このためには、犯罪が増加する前に、ベーシックインカム等の処置を施す必要があります。

 

現在のヒストリアンの問題が起こってから対応することでは、レジームシフトに間に合わず、コストが高くつきます。ただし、レジームシフトは予防保全ではありません。変化が、レジームシフトを伴わず、かつ不確実性があり、事後に対処した方が、コストが下がる場合には、事後に対処すべきです。このあたりは、EBM(Ecosysem-based management)と共通で、システムベースで、現象を把握して理解する必要があります。



引用文献








犯罪率は低くても、閉鎖性と同調圧力が引き起こす悪事は絶えない日本 2022/06/20 Newsweek 小宮信夫



自爆テロ型犯罪」を防ぐため、原因追究以外にすべきこと 2022/07/06 Newsweek 小宮信夫

 

「犯罪は増えていて凶悪化している」という誤解 田村 正博 京都産業大学

https://www.kyoto-su.ac.jp/faculty/ju/2019_03ju_kyoin_txt.html



通り魔殺傷、179件 94年以降、毎年発生―警察庁 2021/11/18 JIJI.com

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021111800157&g=soc

 

犯罪統計 2021 esats

https://www.npa.go.jp/publications/statistics/sousa/statistics.html

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00130001&tstat=000001162646&cycle=0&year=20210&month=0