レジームシフトと問題の分析~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(レジームシフトの概念をつかうことで、変わらない問題点の見通しが良くなります)

 

1)レジームシフトの概念

 

ジームシフトは、元は海洋生態系の概念で、エコシステムAが、エコシステムBにシフトしてしまうことをさします。そのシステムの入れ替えに伴い、非可逆的な変化が発生すれば、復元Restorationは出来なくなってしまいます。エコシステムが劣化しても、システムAのレジームに止まっていれば、低いコストで復元が可能になります。

ここに、10地区の環境復元プロジェクトエリアがあったと仮定します。10地区のいくつかはまだ、エコシステムAに止まっていて、いくつかが、エコシステムBにレジームシフトしていると仮定します。

予算制約の元で、どの地区を優先的に復元すべきかを考える場合に、レジームシフトの有無は、重要な情報を持っています。

 

生態系で、問題にされるレジームは、変わらないこと(レジームシフトしないこと)がベターです。また、パラダイムとはことなり、レジームは、観測値から推測する状態になります。

 

エコシステムの基本は食物連鎖ですが、レジームシフトの原因は、人間活動であることが多いので、駅システムには、人間活動も組み込まれています。

 

2)変わらないの日本とレジームシフト

 

本書のテーマは変わらない日本の原因を考えることです。

 

日本経済も、エコシステムですから、レジームシフトの視点で、変わらない日本を論じている人がいても不思議ではありませんが、検索にかかったのは、次の1冊だけでした。この本は、在庫はなく、オンデマンドプリントで入手可能ですが、この本のレジームシフトは、あまり拡がらなかったことがわかります。

 

  • 日本の金融政策 -- レジームシフトの計量分析 2006 田中 敦  有斐閣

 

世界中で、経済のデジタルシフトやDXが進んでいます。

 

例えば、経済産業省は、「DX推進指標」を、取りまとめています。

 

  • デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました 2019/07/31 経済産業省

https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html

 

しかし、このモデルは、DX投資を増やせば、DXが進むという根拠のない単純なモデルに基づいています。

デジタルシフトにも、レジームシフトにも、シフトという単語が使われていますが、共通のフレームワークでは、扱っていないようです。

 

生態系では、レジームシフトの前と後では、投資の有効性が全くことなります。このことを経済システムに当てはめれば、ある企業のあつまり(業界、エコシステム)で、まともな市場経済環境が劣化して、レジームシフトがおこると、その後では、投資の有効性がなくなります。

 

今回は、レジームシフトという概念を日本経済に持ち込むことで、問題点の整理ができるか、試してみます。

 

(1)日本経済のレージームシフト

 

日本経済は、1990年のバブル前後で大きく変わっていますので、その後の30年は変わらない日本が続いていますので、1990年代に、日本経済のレジームシフトが起こったと考えられます。

 

例えば、2000年以降、中国の安価な製品に対して、日本製品は、価格競争力がなくなり、工場の海外移転、円安、非正規雇用の拡大で乗り切ろうとしてきました。2000年以降、日本製品、特に、弱電製品の価格競争力がなくなることは予想されていました。その時に、良いものを安くを続けるという戦略と高品質高価格製品を製造するという2種類の戦略がありました。

前者は、全敗で、後者は、中間財や生産財では、成功している部分もありますが、消費財では、ほとんど失敗しています。

つまり、この20年で、日本の弱電業界は、レジームシフトしてしまったように見えます。

 

2022年に入ってインフレが明確化してきました。

 

2020/07/05のNewsweekで、加谷珪氏は、「1970年代に発生したオイルショックをきっかけとするインフレでは、日本企業は省エネ技術などに先行投資を行い、イノベーションを背景に生産を拡大することでインフレを克服した」として、技術開発なしに、今後、インフレを乗り切ることは難しいといいます。

 

  • インフレ長期化に勝つ方法はただ1つ...かつての日本はその「成功例」だった 2020/07/05 Newsweek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/07/post-192.php

 

1995年に科学技術基本法が出来て、科学技術予算は、増えています。しかし、科学技術で、食べていける企業は、一部に限定されます。IC製造、IT、製薬などは、技術競争力がありません。企業は、内部留保を持っていますので、技術開発投資に向ける資金はありますが、あまり使われていません。

 

科学予算の配分は混迷しています。

 

1996年の衆院選から小選挙区比例代表並立制小選挙区300、比例代表200)が実施されています。

公共経済学によれば、国は、公共財に投資すべきであって、民間から資金調達できる分野に投資をすれば、政府の失敗が発生します。国の科学技術予算は、基礎研究やビッグサイエンスに重点的に配分されるべきで、民間から資金調達のできるベンチャーに投資すべきではありません。ところが、小選挙区制の反映で、国家では、すぐに成果がでそうな研究に、予算を配分します。このような予算があれば、民間企業は、内部留保をとりくずして、技術開発はしません。国のベンチャー助成は、成功を求めますので、ベンチャー助成の中身は、ベンチャーではなく、改良型の技術開発になってしまいます。こうして、政府の失敗が起こります。

 

このように、科学技術基本法の結果、確かに、レジームシフトが起こったのですが、それが、科学技術立国に向かっていない可能性もあります。

 

このように、資金や制度が変わるとエコシステムは変化します。問題は、その変化が、非可逆的なレジームに変化しているかです。

 

このようなレジームシフトが起こると、今までの、産業振興政策は、全く有効ではなくなります。

 

2)世界経済のレジームシフト

 

次は、世界経済ではレジームシフトが起こったが、日本経済は、そのレジームシフトに乗り遅れたというモデルです。

 

生態学のレジームは、変わらないことがよいことなのですが、デジタルシフトやDXでは、変わることがよいことになりますので、レジームシフトを起こす条件を満たすべきということになります。

また、レジームシフトは、いつでも予算をつければ、起こせるものではなく、適期を逃すと、膨大な投資をしても成果が得られなくなります。

 

具体的な例を考えます。

米国の大学を卒業した場合の初任給は、以前から、学科によって大きく異なりました。IT系の学科を卒業した方が給与が高ければ、優秀な学生が集まります。

 

給与が上がれば、定員も増え、教える教師も増えます。

 

日本で、ITを教えようとしても学生があつまりません。ITどころか、高等学校から、文系と理系に分かれていて、大学では、数学を使わない文系の学科を卒業しても、初任給は変わりません。

 

2022/07/07の日経新聞の1面には、高度人材不足で、機械損失があるといいます。また、日本は、教育投資が少ないことが指摘されています。しかし、日本は、数学を使わない文系の学科を卒業しても、初任給は変わりません。つまり、教育投資は回収できません。

 

米国の大学では、レジームシフトが起こりましたが、日本では、レジームシフトが起こらなかったわけです。

昔のIBMの調査では、優秀なプログラマとそうでないプログラマの生産性の差は、26倍あります。これは、給与に10倍差をつけても、おつりが来ることを意味しています。この生産性比較は、プログラマの間の差ですから、プログラムの書けない人(=生産性0)の人との比をとれば、無限大になってしまいます。

初任給400万のところを2000万で雇っても、5倍の差にかなりませんので、できる人に対しては、十分に安いです。

 

ジームシフトをつかって考えると、日本経済の停滞の原因は、できる人でも安く雇うので、だれも、スキルをあげない点にあります。

 

最近では、公務員の希望者が、減っているので、公務員試験に数学を外す自治体もでています。これをみると、日本だけが、世界と異なったレジームの中に取り残されていると思われます。

 

引用文献



インフレ長期化に勝つ方法はただ1つ...かつての日本はその「成功例」だった 2020/07/05 Newsweek 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2022/07/post-192.php