(データの死が、日本経済の立ち直りの足枷になります)
1)データの死
日本経済が、再び成長軌道にのるためには、産業構造の再編が不可欠です。それを阻害している最大の原因は、年功型雇用です。年功型雇用は、クラッシしますが、既に、軟着陸できる時期は過ぎてしまっているので、レジームシフトが、大きな混乱を伴うことは不可避と思われます。
これは、簡単に言えば、年功型が崩壊して、ジョブ型に転換した時点で、失業者がでること、再就職には、学びなおしが不可欠になることを意味します。
産業構造の再編は、俗に、データ資本主義に言われるような産業構造への転換を意味します。
データ資本主義が実現可能な理由は、データサイエンス(データ集約型科学)が、利潤の根源になるからです。
2022/07/22のDIAMONDO onlineで、野村総合研究所社長の此本臣吾氏は、「全員が先鋭的なデータサイエンティストやプログラマーである必要はなく」、「ITスキルそのものより、ロジカルにものを考え、ものごとを整理する能力が必要とされるでしょう。たとえばどんなアズ・ア・サービスが有効なのかを見極め、それを実現するためにはどんなアルゴリズムが必要なのかを考える力です。これは、いわゆる文系であっても持ちうる一般的な論理的思考能力です」といっています。(注1)
ここで、「一般的な論理的思考能力」は、データ集約型科学の論理でなければ、科学になりません。
企業経営に伴う作業は、次の手順を踏みます。
科学的な思考 => 仮説と検証方法の設定 => コーディングと実装
ここで、科学的な思考は、AB論理の帰納法ではありません。データサイエンスは、AB論理の帰納法の有効性を否定しています。(注2)
なので、「一般的な論理的思考能力」は、誤解を招きやすい表現であると思います。
さて、産業構造が変わって、「一般的な論理的思考能力」を持った人が増えれば、日本企業は復活するでしょうか。
筆者は、そうならないと考えます。
それが、今回のテーマのデータの死です。
2022/07/17 Yahooニュース「深刻化する水害、損害保険料は値上げへ -リスクある地域は大幅にアップするのか?#災害に備える」の一部を要約します。
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大規模な災害の頻出で多大な保険金を支払うため、火災保険の収支は、2018年度はマイナス5225億円、2019年度はマイナス2878億円と赤字になった。損害保険料率算出機構は火災保険の「参考純率」を、2018年に+5.5%、2019年に+4.9%、2021年は+10.9%に引き上げた。
2022年3月に金融庁の有識者懇談会は、洪水浸水想定区域図(ハザードマップ)のデータを基にしつつも、高リスクの地域の保険料が極端に高くならないように配慮するといった案を提示しました。
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要するに、自動車の損害保険のような事故エビデンスから評価されてリスクに基づく、保険料のグレードわけが存在せず、一律になっています。
また、金融庁は、「高リスクの地域の保険料が極端に高くならないように配慮する」といった保険市場への介入を維持したいようです。
自動車の損害保険と同じように、水害を含む火災保険の掛け金を変動させれば、リスクの高い地域には住まないはずです。欧米では、洪水対策では、フラッドプレーン(flood plane)指定の設定が第1で、フラッドプレーンの住宅には、水害保険がかけられません。
この記事を読んで驚くことは、エビデンスのデータがないことです。
データ集約型科学は、データを元に推論をします。
まず、エビデンスのデータはどこにあるのかが検討のスタートになります。
水害についていえば、河川の決壊箇所、湛水エリアのGISデータが、過去50年分あれば、リスク評価ができます。洪水浸水想定区域図(ハザードマップ)はエビデンスではないので使い物になりません。
これは、交通事故で言えば、実際の事故のデータベースに相当します。
河川の決壊箇所、湛水エリアのGISデータが公開されると、河川計画よりも、実際の安全性が、高い流域、低い流域が、すぐに、判別できます。そうすると、河川計画は、改訂する必要が出てきます。これは、官僚の無謬主義とは相いれませんが、データサイエンスとは、エビデンスを元に、不断の改良をするアプローチです。
河川計画を見ればわかりますが、過去の計画の誤差やずれに関する記述はありません。
「エビデンスを元に、不断の改良をするアプローチ」は、水害だけでなく、あらゆる分野の問題を科学的に解決する場合の基本です。水害は、単なる例示であって、特に、水害を問題にしている訳ではありません。産業振興、教育、コロナ対策などあらゆる分野で、エビデンスの計測と、政策の実施効果の評価がなされていません。
こうしたエビデンスの計測やモニタリングは、政策の本体の予算とセットで、組み込まれている必要があります。
日本は、こうした問題を科学的に解決するアプローチを放棄し続けました。
日本は、途上国より進んでいると考えている人がいたら、それは、間違っています。
たとえば、メコン川流域には、欧米のODAが入って、ファクトデータの収集とデータベース化が進んでいます。
進み方はゆっくりですが、ともかく、毎年進歩します。
日本では、エビデンスデータの計測、データベース化、公開は進んでいません。
つまり、ここには、データの死があります。
途上国のデータは生きていて毎年改善されています。
データは過去に遡って収集できませんので、データの死は、日本が変わらない日本から脱却するときの起きな足枷になっています。
注1:
「全員が先鋭的なデータサイエンティストやプログラマーである必要はなく」では、データサイエンティストは、高度なITスキルの持ち主であるという前提で、話が展開しています。
一方、筆者が、データサイエンス(データ集約型科学)という場合は、スキルよりも、科学の理論を理解しているかという点に照準をおいています。
注2:
AB論理は、原因がA,結果がBという、「IF A THEN B」型の論理を指します。
これは、帰納法で多用される論理です。
データサイエンスは、最低でも「IF A AND B THEN C」型のABC論理しか成り立たないと主張します。
詳細は、別の回に述べます。
引用文献
野村総合研究所社長に聞く「デジタル資本主義で、日本企業が生き残る道」2022/07/22 DIAMONDO online
https://diamond.jp/articles/-/306685
深刻化する水害、損害保険料は値上げへ -リスクある地域は大幅にアップするのか?#災害に備える 2022/07/17 Yahooニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/b9e2c1cfe3e33862df10fd26fd37fe3b5b3399b5