日米の高等学校の生態学のカリキュラムの違い~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(日米の高等学校の生態学のカリキュラムは異なります。米国のカリキュラムは、民主な環境計画の作成に参加するために必要なリテラシーの色合いが強く、より高度になっています)

 

1)米国の高等学校の生態学のカリキュラム

 

水生生態学の基本文献の中では、Stream Corridor Restorationが、バイブル的な位置をしめています。

 

日本の生態学の専門家で、この本に言及しない人も多いですが、こればかりは譲れません。

 

Stream Corridor Restorationの派生的な文献として、RestorationのBioengineeringを扱ったマニュアル、モニタリングやアセスメントの手法を扱ったマニュアルがあります。

 

筆者は、生態学の専門家ではありませんので、原則として原著論文は読みません。そのかわり、マニュアル、教科書、市民用ガイドなどで情報を得ます。これらは、2次情報ですが、1次情報をフィルタ―をかけて、選別し、エッセンスにしぼっていますので、時間の節約になります。市民用ガイドは、写真や挿絵を多用していますので、英語の能力不足を補うことができます。特に、生態学では、生物の名前が多く出てきますが、英語を日本語に変換しても、日本語のその生物をみたことがなければ、全く理解ができません。こうした場合には、写真や挿絵があれば、見ればわかるので、あえて日本語に変換する必要はありません。なので、まずは、市民用ガイドを探して読むことから始めています。

 

とはいえ、最初に、Stream Corridor Restorationを読んだ時には、全く歯が立ちませんでした。

 

これは、書いてあることがわからないというより、マニュアルを読むときに、前提知識となっているので説明なしに使っている内容があるということです。説明なしに、使われている用語や概念が理解できないのです。理解できないというのは、内容がわからないというのではなく、なぜ、その概念を使うことに問題がないのかという疑問が生じるということです。

 

この「変わらない日本」の原稿を書いているときに、高等学校レベルのCK12の生物学や生態学、あるいは、中学校レベルのCK8の生物学のテキストを検索して、内容をチェックしました。

 

その結果、Stream Corridor Restorationを理解するために必要な専門用語は、CK12の生物学や生態学、あるいは、CK8の生物学のテキストで理解すべき内容そのものであることがわかりました。

 

つまり、米国の大学入学レベルの知識があれば、Stream Corridor Restorationは理解できるようになっていたのです。

 

生態学では、市民の参加は不可欠です。これには、2つの場面があります。

 

(1)環境改善計画に対する市民参加

(2)ボランティアによる環境調査

 

1-2)環境改善計画

 

環境改善計画あるいは、環境復元計画には、市民参加が不可欠です。

 

個人が住宅を建てる場合にも、環境に配慮した設計を行います。

 

住民はそのためには、生態学とは何か、生態系はなぜ重要か、生態系を復元するためには、市民は何をすべきかを理解する必要があり、カリキュラムも、それに合わせてあります。

 

米国の生態学のテキストは、市民が生活することで、環境にどのような影響を与えているか、そのインパクトを小さくするためには、市民は何ができるかという視点が強くなっています。

 

また、環境復元(Restoration)の概念も、書かれています。

 

生態学のテキストは、概念と用語の理解に重点が置かれています。

 

ベルクマンの法則とアレンの法則はのっていません。

 

科学的方法論や統計処理、誤差などについて、念を入れて解説しています。

 

電子版で、Biologyのテキストが、862ページ、Biology-Iのテキストが1391ページ、Life scienceが、712ページ、あります。隙間も多いとはいえ、かなりな量が入っています。

 

米国では、電子教科書が普及した結果、1000ページを超えるテキストは普通になりました。

 

CK12は、WEB版、キンドル版は、フリーです。




2)日本の高等学校の生態学のカリキュラム

 

日本の高等学校の生物の教科書にも、生態学について、数章が割かれています。

 

しかし、ここには、市民として、社会参加に必要なリテラシーという視点は見えません。

 

日本の高等学校の生態学の内容では、Stream Corridor Restorationを読むには、知識が不足しています。

 

科学的方法論や統計処理、誤差などについては、ほとんど記述がありません。

 

対照実験に関する解説があるようですが、生態学では、レファレンスサイトはとりますが、厳密な対照実験はできません。

 

なお、対照実験は試験にはよく出るようです。

 

3)まとめ

 

米国の生物学の教科書の中では、生態系の理解のウェイトはかなり高いです。

 

市民として、環境にどのように関わって行くべきかを考えるための概念や知識、科学的な方法論の理解に焦点がおかれています。

 

実は、水生生態系の復元は、淡水では、川真珠貝に、海水では、牡蠣に焦点があてられ、社会運動として、環境復元が進められています。CK12 の生態学のカリキュラムは、それに、対応しています。

 

次回は、牡蠣の環境復元を例に、科学的方法論の有無が、問題解決に決定的な違いを生み出す理由を説明します。



引用文献

 

Stream Corridor Restoration

https://www.nrcs.usda.gov/wps/portal/nrcs/detailfull/national/water/?cid=stelprdb1043244

 

高等学校生物/生物I WIKIBOOKS

 

高等学校生物/生物II WIKIBOOKS

 

CK12 Biology