フレームワークの入れ替えの問題~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

1)議員連盟の課題

国会議員は、いくつかの議員連盟を作っています。議員連盟は、ある特定のテーマを推進することを目的としています。あるいは、族議員というグループがあります。

 

テーマの促進には、法律を作る方法と、補助金をつける方法があります。

補助金をつけるにも、法律が必要になります。そのための法律は使い捨てで、予定された補助金を配分後は、効果がなくなります。ですから、効果が継続する基本的な法律とは分けることにします。

 

実は、過去に、議員連盟が、基本的な法律の制定に関わった例は、科学技術基本法など一部に止まります。議員の活動は、補助金の半分に偏っています。

 

補助金で問題が解決する場合は、問題解決に必要なリソースがお金だけの場合です。

 

しかし、現在は、問題解決に必要なリソースがお金以外の場合も多くあります。

 

むしろ、お金以外の方が多いと思います。

 

例えば、最近では、コロナウイルス対策には、ほぼ無制限に近いお金を投入しています。予備費の金額をみれば、空前絶後です。

 

しかし、ワクチンの国産化は非常に遅れて実質は間に合いませんでした。

一時は病床が足りなくなることもありました。

 

補正予算や、配布されたコロナ関連予算が、使い切られていない場合も多くあります。

 

これから見れば、政治勢力を作って、お金を動かす方法では、問題解決ができないことがわかります。

 

2)エコシステムとフレームワーク

 

お金を動かすことで、問題が解決できると考えることは一つのフレームワークです。

そして、この補助金フレームワークは、有効に働かないわけです。

 

この場合には、金額を変えたり、目先のテーマを変えても成功する確率は低いと思われます。

 

というのは、この補助金フレームワークは、コロナ対策だけでなく、少子化対策、DX対策など、ことごとく良い成果をあげられず、変わらない日本に対応しているからです。

 

2022/05/09のアステオンで、川口貴久氏は、民主主義のハッキングについて論じています。

 

ポイントは以下です。

 

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民主主義のハックとは、市民の民主主義や社会に対する「信頼(trust)」を失墜させることであり、標的は人々の頭の中です。

 

政治不信は単に当時の政権や政治家に対する不信なのか、それに加えて政治制度全般に対する不信なのか、の2種類があります。前者は政権交代によって回復可能だが、後者は既存の政治制度(民主主義)の中での回復は難しい。

 

権威主義国の中では、民主主義への信頼を切り崩すために選挙干渉(選挙ハッキング)をしているところがある。

 

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この後、川口氏の検討は、過去に、選挙干渉があったかという検証に進みます。

 

筆者の関心は先の部分ではなく、「政治制度全般に対する不信」が、フレームワークの問題である点にあります。

 

政治が、関連団体からの指示と見かえりの補助金で成り立っている部分があります。

 

ここでは、その倫理的な是非を問題にしているのではなく、経済的な効果を問題にしています。

 

ウクライナの戦争で、実現が遠のいたとはいえ、ゼロエミッションが課題であることは間違いありません。それでは、過去にゼロエミッションを推進して来なかったかと言えばそうではありません。

 

太陽光発電を設置するために、1兆円以上の補助金がつぎ込まれました。政府が、企業に補助金という名目で、お金を振り込みました。

 

住宅の屋根や、農地を潰して、太陽光発電パネルが設置されました。

 

シャープを始めとする太陽光パネルのメーカーは売り上げを伸ばしました。

 

これで、めでたく、ゼロエミッションが達成できたのであれば、良いのですが、未だに、ゼロエミッションをすすめなければいなかいといっています。

 

太陽光発電パネルの補助金はなんだったのでしょうか。

 

第1に、太陽光パネルは、普及しましたが、太陽光パネルの技術は日進月歩です。

太陽光パネル補助金を導入したころに比べると、発電効率は上がり、価格は数分の1になりました。日本の太陽光パネルの製造メーカーは技術競争と価格競争についていけず、全て撤退しています。シャープは、太陽光パネルからの撤退だけでなく、液晶でも、技術競争と価格競争に負け、身売りしています。

 

補助金や円安誘導は、技術競争力と価格競争力をそいでしまうので、企業の業績は、短期的には上向きますが、中期的には企業を潰してしまいます。

 

太陽光パネルのストックは増えましたが、発電効率の悪い旧型を温存していますので、消費者の電気代はこれからあがって行きます。

 

以上は、補助金を導入した時点で、ほぼ予測できたことです。

 

最近では、九州のTSMCのIC工場に、6000億円の補助金が投入されています。この補助金の第1の受益者は、ソニーであるといわれています。そうすると、ソニーは、シャープと同じように、倒産リスクの高いくじを引いた可能性も考えられます。ソニーに限りませんが、最近では、過去最大の売り上げや、過去最大の利益を出している企業が多くあります。しかし、ここ20年売り上げが伸びなかったのは、日本のメーカーだけで、海外のメーカーは伸びていますので、自社と比較した過去最大にどれだけの価値があるのか、不安を覚えます。

 

話を戻します。

 

補助金フレームワークは、日本の政治のコアな部分です。しかし、補助金フレームワークは、賞味期限を過ぎていると思います。

 

例えば、デジタル教育をする場合、選挙の支持団体は、教科書会社、学校、NHKなどだと思われます。現在、米国を中心に進んでいるデジタル教育は、かなりの部分が無償です。有償の場合には、無償では出来ないような、細かなフォローアップができることがセールスポイントです。これを実施すると選挙の支持団体は補助金をもらえるどころか収入が減ります。

 

イメージとしては、NHKは、公共財形成に関わる番組を無償にするようなものです。

教育番組は、全て、You tubeみることができ、テキストは、アマゾンで、無償で販売します。これは、学習塾にいって補習ができない、教材を購入する費用がない貧困家庭には朗報になると思われます。

 

この方式は、米国では、CK12財団や、Bookboonが行っている方法です。CK12財団のテキストの一部は、アマゾンで0円で販売しています。

 

こうしたデジタル教育は、貧困家庭だけでなく、発展途上国でも有効で、フィリピンなど英語が使える発展途上国では、英語版の無償のデジタル教材を既に、使っていて、教材面では、日本よりはるかに恵まれています。

 

民主主義の政治不信は、選挙干渉がなくとも、経済成長や所得向上につながる補助金フレームワークに代わる新しいフレームワークを提示できなければ、避けられないと思われます。

 

所得を上げる政策が全く効果を生まない反面で、貧困層救済という名目で現金をばらまく政治は、レームダックlame duck)です。新しいフレームワークを提示できなければ、日本は、発展途上国に戻るでしょう。発展途上国に戻ることが、現実には、どんな意味を持つかを知りたければ、これからのロシアがモデルケースに使えます。

 

第3章では、新しいフレームワークを考えます。その場合の基本となる切り口は、エコシステムになります。



なお、歴史にイフはありませんが、EUは、ロシアのエネルギー依存を減らすために、太陽光パネルを増やすと、中国依存になるという問題点を抱えています。

太陽光パネル補助金がなく、日本企業が、価格競争と技術競争に負けていなければ、世界の安全保障は全く違った姿になっていたはずです。日本が、太陽光パネルの生産国で、ゼロエミッションの希望の星になったかも知れません。

 

日本のIC生産は、もはや技術力も価格競争力もありませんが、その一因は、繰り返された補助金にあります。安全保障面から、IC生産にさらに補助金を入れるべきという国会議員もいるようですが、エビデンスに基づかない政策は、自殺行為です。(注1)

もちろん、補助金を打ち切るだけでは、ICも太陽光パネルも国際競争に勝てません。それは技術力がないからです。ジョブ型雇用をして技術力のある若手には、高級を払うこと、それを見て、数学や物理の履修者が増えるような世界でないと、国際競争には勝てません。




注1:

エルピーダ社長の坂本氏は、「熊本県菊陽町TSMCの工場を熊本県菊陽町に誘致するのは、建設費用8千億円のうち、半分の4千億円を補助では、補助金が少なすぎ、うまくいかない。米国の6兆円、欧州の17兆円とは比較にならない」と言います。坂本氏は過去には利害関係者だったので話半分で、鵜呑みにしないで分析する必要があります。とはいえ、IC関連の投資額が桁違いであることも事実です。日本が欧米並みの資金を準備するためには、補助金を広く薄くばら撒くのではなく、期間を限って、集中的に投入する必要があるという点では、正論でしょう。

一方、2022/03/06のJBPressで、湯之上 隆氏は、「エルピーダの教訓 破綻から10年(上)(下)」2022年2月25~26日、日経新聞と日経電子版の「日本の半導体、なお再編余地」と題するエルピーダ元社長・坂本幸雄氏へのインタビュー記事に対して、「まだそんなことを言っているのか」「まだ自分の失敗を認めないのか」「“教訓”という記事なのに何も“教訓”になっていないじゃないか」と批判しています。 IC関連の投資額は桁違いに大きいので、補助金では、いずれ回らなくなります。補助金を入れることは、価格競争を放棄していることになるからです。新聞をみていると、政府が、少額の補助金をあまりに多くの分野に貼り付けているので効果は期待薄だと思えます。

引用文献

 

エルピーダの教訓 破綻から10年」連載企画まとめ読み 2022/03/06 日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC043T20U2A300C2000000/

 

再びの半導体支援「うまくいかない」 元エルピーダ社長坂本さん 2021/12/29 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASPDW4SXMPD1ULFA031.html

まだそんなことを言っているのか!間違いだらけの「エルピーダ破綻の原因」2022/03/06 JBPress 湯之上 隆 

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69115

 

日本も無縁ではない「民主主義のハッキング」 2022/05/09 アステオン 川口貴久

https://www.newsweekjapan.jp/asteion/2022/05/post-60.php