古典的なシステムとデジタルシフト~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(制御工学・システム工学の基本的な考え方は、社会科学でも有効です。古典的なシスエムは、エコシステム理解とデジタルシフトの入り口です)

 

変わらない日本問題を考えるときに、制御工学のシステムとして、日本の社会システムを見るとめまいを覚えます。

 

1)制御工学の考え方

 

制御工学は、1入力、1出力の古典制御と、多点入力、多点出力の現代制御に分かれます。後者が実用化したのは今世紀に入ってからで、制御の範囲で解決できる問題は少ないのですが、わかりやすい古典制御(古典的なシステム)で話を始めます。

 

エアコンを例にとれば、制御したい目的量(出力)は、室温です。制御量(入力)は、インバーターの出力です。入力を変えても直ぐに、出力は変化しませんので、そのタイムラグを見越して、制御量を決める方法は、古典制御になります。

 

ここで、目的量と制御量の概念は、重要です。この間にリンクが張られていて、室温が下がりすぎたら、インバータの出力を弱め、室温が上がりすぎたら、インバータの出力を強めます。(注1)

 

自動温度制御は、人間が、温度計を見るか、体感温度で判断して、エアコンの出力レベルを調整する代わりをしています。

 

2)行政システムの考え方

 

次に、制御工学の考え方を行政システムに当てはめます。

 

ポイントは、課題に対応した目的量と制御量のとり方で、正解はありません。

 

次は、一例です。

課題は少子化です。

 

目的量は、出生率とします。

 

制御量は、職員の処遇とします。給与やポストを目的量の変動に合わせて変化させます。

 

都道府県を出生率、人口、人口密度、過疎化などの要素によって、仮に4種類の類型に分けます。

 

次に、ランダムに4種類の類型の比率が一定になるように、ランダムに振り分けをして、都道府県を6つのグループに分けます。どのグループにも、人口の多い県も、人口の少ない県も含まれ、グループ間の差が無視できるようにします。

 

職員を担当する都道府県グループに分けて、6つに分けます。

 

テスト期間を例えば、3年とし、その間に、職員の異動は原則しないことにします。

 

例えば、目的量である出生率の増加が、6グループの平均より、良い職員グループの給与は増やします。目的量である出生率の増加が、6グループの平均より、悪い職員グループの給与は減します。

 

これは、経営学のABテストの一種でもあります。

 

目的量は、毎月計測し、次の月の月給に反映させます。(注2)

 

ジョブ型雇用であれば、成績の一番悪いグループは、3年後に解雇されます。

 

こうすれば、3年後には、実現可能な少子化対策がわかっているでしょう。

 

課題を解決するためには、課題を解決できるようなシステムを作る必要があります。

 

目的量は、政策評価エビデンスです。エビデンスを計測して、エビデンスを制御できる制御量を変化させなければなりません。

 

エアコンの調子がおかしい場合には、目的量と制御量のフィードバックに問題がありますので、このフィードバックを改善しなければ問題は解決しません。

 

エアコンの調子が悪いので、扇風機を買ってきて、風を回すことはできますが、制御システムに組み込まれていない要素の効果がランダムでしかありません。室温が高すぎる時には、扇風機は効果がありますが、室温が低すぎるときに、扇風機を回すことはありません。しかし、この時に、扇風機を回さないのは、人間が、体感温度をもとに、スイッチをオフにするフィードバックをしているからで、フィードバックのない場合には、暴走します。

 

少子化対策で、こども庁をつくる話は、制御工学で考えると扇風機を購入する対策に見えます。こども庁の目的量と制御量は、明らかではありませんので、制御工学で考えると、こども庁が少子化対策に効果があるとは思えません。

 

3)アナロジーか、現実か

こども庁が扇風機であるというのは、アナロジーです。

 

読者が、アナロジーは現実ではないという感想をお持ちであれば、筆者は、読者が、デジタルシフトの怖さを理解していないのではないかと心配になります。

 

読者が、職員グループを6つにわけて、給与を変動させること、3年後に成績の悪い職員はレイオフすることは、アナロジーとしては理解できるが、現実には不可能であるとお考えであれば、読者は、デジタルシフトに乗り遅れています。

 

職員は、人間という生物なので、レイオフすることは容易ではありません。

 

しかし、6つの職員グループが行った少子化対策を実施するには、必ずしも人間が必要なわけではありません。

 

6種類の少子化対策アルゴリズムで、記述できれば、ソフトウェアが、職員に代わって、少子化対策を実施することができます。職員をレイオフすることは容易ではありませんが、出来の悪いアルゴリズムを捨てることは、日常茶飯事です。

 

人間の行っていることをコンピュータのアルゴリズムに置き換えることはデジタルシフトの一部ですが、出来の悪いアルゴリズムを捨てて、出来の良いアルゴリズムに置き換えることで、コンピュータのパフォーマンスは、直ぐに人間を越えていきます。

 

被写体の画像識別問題では、コンピュータが人間を越えていますが、今後は、同じように、コンピュータが人間を超える分野が増えていきます。それは、人間は、アルゴリズムの更新が苦手なためです。

 

次章では、ネットワークを形成するエコシステムを考えたいのです。複雑なエコシステムの前に、単純なフィードバックシステムでも、システムを考えたアルゴリズムの更新が行なわれないとデジタルシフト社会には取り残されるでしょう。

 

注1:

これは、フィードバック制御です。この他に、例外的なフィードフォワード制御もありますが、これを使うことはまれなので、ここでは、無視しています。

 

注2:

現実には、公務員の給与や昇格は、予算とポストの獲得に連動しています。つまり、目的量は、課題解決割合を示すエビデンスに設定されていません。