世襲制政治とエコシテムの交代(2)

世襲制政治の課題

前回は、世界の経済のエコシステムが変化したのに、日本経済は、それに対応した新しい企業が現れていないことを申し上げました。今回は、政治のエコシステムについて考えてみます。

過去の日本の政治のエコシシテムの大きな変化は、明治維新と敗戦後のGHQによる再編と思われます。まずは、そこで、エコシステムの切り替えが、どのように起こったのかを見ることで、今後の政治のエコシステムの切り替え時に何が起こるのかを考えることができます。

明治維新では、幕藩体制が壊れ、中央省庁と県に組み替えられます。そして、代表は選挙によってえらばれますが、参政権は限られた人のものでした。また、形式的ではありましたが、主権は天皇にあるとされていました。また、官僚の養成システムとして帝国大学が作られます。

GHQによる再編では、中央省庁の一部に手が入り、内務省が解体されますが、そのほかの省庁は、緩やかに組み替えられて残ります。また、県は生き残ります。選挙権は拡大され、憲法が改訂され、国民主権が明記され、天皇は象徴として残ります。GHQによる再編の評価は非常に難しいです。というの、GHQは特定の理念を持っていたというより、旧勢力や旧システムを追放して、再び戦争を起こさせないという視点で行われ、統一的な視点に乏しいからです。とはいえ、選挙の結果、戦前には、認められていなかった反政府を掲げる野党が誕生します。しかし、野党は、反政府を旗印にしているだけで、具体的な政策提案能力はなく、政策提案は自民党が全て飲み込んだキメラのような政党になります。平成になって、野党が政権をとりますが、政策実行能力のないことが露見して、短期で終わります。コロナ対策を例にとれば、現在も野党は、政府の政策の弱点を指摘するだけで、有効と思われる代替案を提示できていませんので、当面は、政権は取れないと思われます。

さて、主題は、エコシステムの切り替えに対して何が起こったかという点です。

主役は2人います。

第1は、誰が議員になったかという点です。この点については、明治維新で、伊藤博文などのかつての下級武士が政治の主役にでたことが、強調されますが、実は、幕藩体制の大名も、明治になっても、県知事や議員になっている人がかなりいます。明治維新で、エコシステムは完全には変わったとはいえないのです。

この点は、GHQによる再編でも同じことで、戦前のエコシステムが一部は維持されています。そして、令和になっても、世襲議員が多いということは、議員については、古いエコシステムが残っていることを示しています。これは簡単に言えば、国会議員という身分制度が存在するということです。しかも、身分制度は、議員全般ではなく、国会議員にしか当てはまりません。地方自治体にはあまりに権限がないため、地方議員にはなり手がなくなりつつあります。世襲でない国会議員もいますが、例外で、田中角栄を除けば大きな権力を手にしたとはいえません。

第2は、官僚の養成システムとして帝国大学の卒業生です。戦線と戦後で、大きな差が生じたのは、戦後は法学部以外の卒業生は、エコシステムの変化に取り残されて権力の中枢から脱落したという点です。その意味では、法学部はエコシステムの変化に対応して戦後も生き残ったといえます。前世紀には、自民党がキメラ政党であったために、政策決定の実質を官僚が握ることも多くありました。しかし、2001年の宮沢喜一を最後に、官僚から総理大臣になった人間はいません。今世紀に入って、海外で働くことが普及して、国内を目指した、就職に縛られない生き方をする人が出てきています。2020年頃には、公務員の希望者は激減しています。これは、従来のエコシステムの崩壊によって、公務員として働くことのメリットがないと考える学生が増えてきたことを意味します。官僚の養成システムとして帝国大学が作られて100年になりますが、このシステムが機能しなくなってきています。つまり、官僚から見ると政治のエコシステムは交代しつつあります。

これは、官僚養成の法学という学問のエコシステムの交代でもあります。法律は手段であって、法学の本来の目的は民主的な政治を実現することにあるはずです。その手法が今までは、法律と選挙による代表制に限定されてきました、しかし、現在は、多様な方法で民意を組み上げることができます。ツィッターをつかっている政治家もいますが、筆者は、これは、過渡的な状況と考えています。政策課題の選択において、現在では、クラウドを通じて個人の意見を集約することは可能です。簡単にいえば、クラウドで毎日住民投票をしても、格段の問題は生じません。マイナリティの意見を政治に反映させるのであれば、こうした細かな意見集約が有効です。ただし、投票する時には、有権者であることが確認できること、逆に、集計するときには、個人情報がわからないようにすることが必要です。つまり、民主的な政治は、民意を有効に組み上げるITシステムの実装によっても可能なはずであり、法学部でも、こうした民主的ITシステムの実装方法を教育すべきと思われます。こうなりますと、文系と理系という区別はなくなります。政治が、ツィッターのような不安定な意見集約システムに依存していることは望ましくありません。より民主政治に適した意見集約や意見交換システムを構築すべきです。

筆者は、おそらく、こうした新しい民主主義のエコシステムが出てくるのは時間の問題であると考えています。こうした新しい民主主義のエコシステムの与えるインパクトは大きく、国内では、世襲政治家がいなくなり、国際的には、民主主義国家として認知される判断基準が明確になり、外交政策に大きな影響を与えるでしょう。

まとめます。日本の政治で、国会議員については、江戸時代から引き継いた身分制度に近いエコシステムが生き残っています。一方、帝国大学開設以来の官僚のエコシステムはほぼ崩壊してしまいました。その結果、今世紀に入って、相対的に権力の強い世襲の国会議員が権力を握る場面が増えています。つまり、国会議員は、古いエコシステムを温存するように行動し、エコシステムの交代を妨害し、結果として、経済成長を阻害します。しかし、これは、過渡期の現象であって、クラウドを使った新しい民主主義のエコシステムが出現するので、その時点で、国会議員の在り方が変わってしまうと考えられます。問題は、その時期が遅れると、日本経済は致命的な状態になるということです。