「真実」と「事実」
トランプ大統領が今回の選挙で勝てなかった、大きな原因のひとつは、コロナウィルスの拡大にあります。
トランプ大統領は、コロナウィルスの被害が拡大しているという「事実」は認めず、コロナウィルスの抑え込みに成功しているという「真実」をツィートし続けたのです。その結果、コロナウィルス対策が後手にまわり、感染を拡大してしまったと非難されています。この非難が、トランプ大統領から、バイデン候補に票が流れた原因でした。「真実」は常に、「事実」に反しているわけではありません。ただし、「真実」は、エビデンスをチェックして、「事実」と遊離しないように、常に、気を付けて軌道修正しないと、「事実」から、離れてしまい、ついには、「事実」に反するようになってしまいます。
コロナウィルスの感染が始まったばかりのころには、トランプ大統領の「真実」も、「事実」とそんなに大きく、食い違っていたわけではありません。しかし、感染が拡大しても、エビデンスに合わせて、「真実」を軌道修正することを怠って、同じ「真実」を発信し続けたのです。トランプ大統領が、コロナウィルスの感染拡大を認めて、対策を行ったのは、被害が拡大してからでした。
したがって、アメリカのコロナウィルスの感染拡大の一部は、トランプ大統領による人災であるという意見も出てきます。
さて、以上を参考に、今回の日本での感染拡大を考えてみます。
まず、現在は感染が拡大しています。
第1は、東京都は1か月で、1日当たりの感染者数が1000人になるというものです。
11月12日の東京都の新型コロナウイルスモニタリング会議は、新型コロナウイルスに感染した人の7日間平均は前回の約165人から約241人と大幅に増加、100%を超えると増加傾向の指標となる増加比は147.7%になり、これが1カ月続くと1日あたりの感染者は約4.8倍の1160人程度になるという見通しを示した。
東京都の小池知事は18日夜、BSフジの「プライムニュース」に出演し、東京都の1日の新規感染者数が1,000人になることを念頭に、対策を進める考えを示した。
この2つはかなり変です。といのは、2週間後の感染者数は現在の状態できまっていますが、その先については、これからの対応で変化するはずで、どうすべきかが欠けています。
原因については、次の報道がありました。
新型コロナウイルスの感染が急拡大していることについて、日本医師会の中川俊男会長は18日の会見で、政府の旅行支援策「Go To トラベル」が「きっかけになったことは間違いない」との見解を示した。
加藤勝信官房長官は18日午後の会見で、新型コロナウイルスの感染者が増加している中で、11月21、22、23日の3連休を前に国民に対してしっかりとした感染対策を呼び掛けると述べた。ただ、一律に県をまたぐ移動について自粛を要請する考えはないことも明らかにした。政府の旅行支援策「Go To トラベル」についても、「感染防止策によって旅行による感染リスクは低減できる」として、引き続きトラベル事業を推進していく考えを示した。
どちらもエビデンスがなく、事実ではなく、「真実」を述べているように思われます。
というわけで、かなり、トランプ大統領に似てきています。これが続けば、コロナウィルスの拡大は人災になります。
エビデンスー>「事実」->「真実」の修正ー>問題の解決策
のサイクルが回っていなければ、人災になる可能性は高いと思います。
Google予測の評価
上記の1か月後1000人という数字がでて、すぐ、11月19日の東京都の1日の感染者数は500人を越えてしまいました。
折角ですから、Google予測を見ておきます。図1はいつもの東京都の7日平均の感染者数の推移です。
Google予測は、日単位なので、これも同じく、7日移動平均をかけたものをEstimatedで表しています。
Google予測では、11月15日ころから、感染者数がいったん減ってから、増加する予測になっています。図1をみると、Google Transitデータが連続して下がったところでは、感染者数の増加が止まる傾向が見られます。これが何を意味するかといえば、Google Transitのデータが低下するところは連休のところです。つまり、連休になると、自宅にこもる人が増えて、Google Transitが減少して、感染者数の増加が止まる傾向があります。ところが、連休になった時のGoogle Transitの低下の大きさは、最近になるほど小さくなっています。連休効果が薄れています。つまり、連休になっても自宅にこもらずに出歩く人が増えているわけです。これは、Go Toトラベルの成果と思われます。Go To事業とコロナウィルスの因果関係を考える場合には、介入をつかった分析が有効であると申し上げました。しかし、Go Toトラベルの場合には、その介入効果は、Go Toトラベル事業が始まった時ではなく、その後の連休の時に大きく出ると考えられるわけです。Google予測が、過去のデータを使って機械学習していると、Go Toトラベルの効果が、正確にはモデル化されておらず、連休時の感染者数の減少を過大に推定している可能性があります。
もうひとつの問題点として、Google予測に、転記ミスがある可能性があります。表1に最近のGoogle予測(11月16日作成版)と最近の感染者数のデータを比較しました。問題は、11月17日の予測値130.5人です。この値は、あまりに小さいです。しかも、予測データはグラフとCSVファイルで公開されていますが、CSVファイルの予測値は11月18日からしかなく、この値は、グラフから読み取ったものです。この値が転記ミスであれば、一時的な感染者数の減少を過大に推定している可能性があります。
一方、感染拡大の増加率(グラフの傾き)は実測と予測でよく似ています。
そこで、予測値を実測値にスムーズに繋がるように平行移動したものが、図1のEst2です。こちらの予測値では、11月17、18、19日の移動平均の実測と移動平均のGoogle予測に大きなずれはありません。なので、筆者としては、現時点でのGoogle予測には、何らかの問題があると考えています。
図2に移動平均の検査数と感染者、移動平均でない陽性率を示しています。スケールを合わせるために、陽性者数は10倍しています。感染者数の増加の原因は検査数の増加と、陽性率の増加がきいています。陽性率が増加していることは、検査数が増えているにもかかわらず、数が十分でない可能性を示唆しています。これを考えると、今後の感染者数の変化はトレンドより大きくなる可能性が大きいです。そうなれば1か月後に1000人もあり得ます。ただし、2週間から先は、予測の問題ではなく、対策の問題なので、その点は間違えないようにしたいです。
表1 最近の感染者数とGoogle予測
日付 | ma感染者数 | ma経路不明数 | ma予測感染者数 | Google予測感染者数 |
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11月17日 | 309.9 | 177.3 | 286.5714 | 135.0 |
11月18日 | 335.0 | 191.9 | 277.5558 | 253.8906 |
11月19日 | 356.4 | 261.0073 | 277.1602 |
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COVID-19 感染予測 (日本版) 11月16日版
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NHK特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/
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都内の最新感染動向
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/
https://www.google.com/covid19/mobility/ Accessed: <2020.11.19>11-17version.