6月30日はもうこない~「2020年6月30日にまたここで会おう」を読んで

瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう」を読んで

瀧本氏は2019年8月に亡くなられたので、新著はないものと思っていました。しかし、2012年の6月30日の東京大学における講義を収録した本が4月に出ていました。タイトルは、2012年の講義の最後の瀧本氏の発言を引用しています。

2012年から8年間が経過しましたが、既に遠い過去のように思われます。2012年はモントリオール大学がディープラーニングで大きな成果をあげた現在のAI元年になります。iPhoneが出てきたのは2007年ですが、大きく普及したのは2010年代に入ってからです。この本の世界観はその前の時代のものであると思いました。瀧本氏は2019年に亡くなったので、瀧本氏の2020年6月30日は永久に来ない日付になりました。しかし、この本に書かれた世界観も現実とは、ずれてしまったと思われました。

2012年6月30日に東京大学に講義に参加した若者は300人いたそうです。2020年の6月30日はコロナ禍の下にありますから、2020年6月30日の再度の集会は、ネット会議でということになります。これは、半分冗談です。しかし、再集会ができないことをコロナのせいにして理解することは間違いだと思います。2012年にあった年功序列等の日本の社会システムは、明らかに崩壊してしまいました。これは、若者がベンチャーを起こしたからではなく、ITの決定的な力によります。これは、アルファ碁が人間に勝つような世界では、ビジネスのやり方を変えないと生き残れないということです。在宅勤務は、一時しのぎでなく定着しつつあります。今まで禁止されていた兼業が広く認められるようになっています。その意味では、この講義録を読むことはなつかしさを感じると共に、時代の変化の速度を実感しました。

瀧本氏は2019年に亡くなったので、晩年には、こうした社会システムの変換をみていたはずです。残念ながら、瀧本氏が晩年に見ていた世界観は誰にも分からなくなりました。この本には2012年日本社会と、その時の瀧本氏の世界観が記録されています。

 

  • 瀧本哲史「2020年6月30日にまたここで会おう」