このテーマの完結へが先延ばしになっていたので、ここでは、力まないで、とりあえず閉めておきます。
最初は3回分くらいのでつもりで書きだしたのですが、構想が大きくなって延びてしまいました。伸びきってそのままも良くないので、今回は、無理意をせずに、終結することを目指します。
生産関数の課題
今回のテーマは、かなりテクカルですが、計算論的思考からすれば、容易な内容です。
経済学の基本は、需要と供給です。数学的には、需要を表す方程式と、供給を表す方程式を作って、連立して解けば、交点の座標が求まります(注1)。
WIKIによれば、生産関数とは次のものです。
コブ・ダグラス型生産関数 生産量Y が生産要素の同次関数としたものである。チャールズ・コブ(英語版)とポール・ダグラスによって1928年に提案された。
但し、A は技術進歩などで変化するスケール係数、αは労働分配率、βは資本分配率と呼ばれ、0 < α < 1 , 0 < β < 1 を満たす。コブ・ダグラス型生産関数の代替の弾力性は1である。
これは、人、モノ、工場(土地付きの生産施設)があればものができるという考え方です。
ここでのポイントは、3つのうちの何かが不足すれば、他があっても生産量は増えないということです。
ところで、ソフトウェアの生産では、生産よって消費されるのは労働者の時間であって、モノは減りません。パソコンの電気代はかかりますが、電気代と生産量はあまり関係しません。
労働力の労働生産性には、非常に大きな個人差があります。
有名なIBMのプログラマーの生産性調査では、最も優秀なプログラマともっとも生産性の低いプログラマの差は26から27倍ありました。とはいえ、これは、プログラムを組める人の間での比較です。プログラムを組めない人との比較では、分母がゼロに近づくので、その差は無限大になります。プログラムの世界では。優秀であれば、給与を10倍ばらってもおつりがきます。こうしたモデルは、コブ・ダグラス型生産関数には全く乗りません。
計算論的思考の生産性
コブ・ダグラス型生産関数の世界であれば、生産の制約は、人、モノ、工場(土地付きの生産施設)いずれかですので、政策的に、お金を優先的に投入することで、生産がふえて、経済が回ります。
しかし、IT化した世界では、生産性決める要因は優秀なプログラムコードであって最大のネックは人材です。
これは、例えば、スマホのゲームを作る場合を想定すればわかります。優秀なプリグラマがあれば、あとは、ほとんどなにもいりません。
今までは、ゲームのように、プログラムコードが直接生産ラインを動かして物を作ることはありませんでした。
しかし、IT化の進展によって、3Dプリンターのように、プログラムコードが直接生産ラインを動かすようになりました。これは、今までの生産システムを時代遅れにしっつあります。
たとえば、果物の温室栽培を考えます。今までは、人間が1日1回見回って、問題のある箇所を調整していました。しかし、栽培ロボットであれば、24時間連続して、毎時間ごとに順に栽培状況をチェックしてまわることができます。このような場合には、篤農家がかんばっても勝ち目がないとと思われます。そうしますと農業に必要な資質は、計算論的思考で、優秀なコードを生み出すことになります。
計算論的思考は、ごく最近に3Dプリンター等の手足を得るまでは、アイデアがアイデアで終わる膨大な無駄な作業でした。こうした無駄に取り組めるためには、当面食べることに困らずに、何をしても生きていけることが前提になります。過去の学問体系を作った人に資産階級が多いのはこうした理由です。
IT化を成功させるためには、生産関数的な思考をやめる必要があります。
まとめに変えて
IT化に対応することは、米国でも中国でも容易ではありません。かなりの数の労働者がおちこぼれてしまいます。これは、米国と中国に共通する課題です。社会全体が豊かになることが難しくなります。これは、中国では、暴動などのリスクが増加することを意味します。米国でも、基本的には同じです。
これからは、生産関数で表されるような大量生産の時代は終わってしまいます。つまりみんなが豊かになり幸せになることは難しいのです。実際に、米国では、1990年頃から、平均的な労働者の賃金上昇は止まっているといわれています。一生懸命に働けば豊かになれるという命題は崩れつつあります。そのときに、共同体を維持するための共通の目標を持たせることができるのか、それを、あきらめて、パンとサーカスをばらまく方法を目指すのかの岐路に来ていると思います。
中国は、香港で国家安全維持法を成立させました。中国の行く先は、ほぼ、パンとサーカスになってしまったように思われます。こうした思想統制とIT化は同時に成り立つと、中国の指導部は考えているようですが、実際には、IT化には自由な発想が不可欠なので、その反動が出てくるようにも思われます。
パンとサーカスの選択は日本についても当てはまる問題です。ただし、日本の共同体は江戸時代に作られたシステムをつよくひきずっているため、表現形はことなってきます。この点については、稿を改めて論じたいと思います。
注1:需要と供給で価格が決まるというのが、経済学のセントラル・ドグマです。これを、サイエンスとして、検証することは容易ではありません。単純に考えれば、検証データとして得られる価格は、1点のデータだけです。この場合には、需要曲線と供給曲線でなくとも、この点を通る2本の曲線の方程式を選べば、どの曲線の組み合わせでも、数学的には正解になります。経済学の入門テキストは、この点を無視しいます。こうした検証なしに、従来から使われた手法を説明するには、ひとこと「失われた年代記によるとAccording to the lost chronicles」と書くとよいと、最近知りました。
生産関数 wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E7%94%A3%E9%96%A2%E6%95%B0
Cobb–Douglas production function wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/Cobb%E2%80%93Douglas_production_function