非常事態宣言はどうして延長されたか(その2:西浦モデルの問題点)~コロナウィルスのデータサイエンス(45)

政府の判断基準

非常事態宣言を延長して、3日もたたないうちに、感染者数が減ってきたとか、1週間以上感染者がゼロの県があるという話になってきました。判断基準のあいまいさの問題点が出てきています。

まず、非常事態宣言が、行動制限を要求するものであることを確認しておきます。

非常事態宣言を延長するか否かの判断基準には次の3つが考えられます。

  1. 行動制限率に基づく

  2. 感染者数に基づく

  3. 行動制限モデルによる推定感染者数に基づく

 

1.は、現在の非常事態制限は、必要な制限量に達しているか否かで判断します。この方法は、リアルタイムで使える長所がありますが、次の点に留意が必要です。

制御したい目的変数は感染者数のはずです。行動制限が満足されても、感染者数が減れなければ、目標の意義はありませんし、逆に、行動制限が目標以下でも感染者数が減少すれば、過大な目標設定になります。

2.はわかりやすいのですが、行動制限の結果しての感染者数の変動には2週間のタイムラグがあるといわれていますので、最近の行動制限に関してはつかえません。これは、非常に大きな問題で、専門家としての訓練を受けていない人が、タイムラグを実感することは困難です。「マスコミの報道をみていると、連休中は非常事態宣言で、人出が8割減った。新幹線もガラガラだった。」という報道があり、そのあとで、「東京都 新たに23人感染確認 5日連続で100人下回る」という感染者数の情報を聴くと頭の中で結び付けてしまいがちです。また、「東京都、新型コロナウイルス新規感染23人確認 39日ぶりに30人を切る」という報道は、感染者数が減ったことを印象づけますが、これも、「ファースト・アンド・スロー」のカーネマンの言葉を引けば、少数の法則で、極端な値の次は、平均に近くなるのが普通です。これを書いているのは、8日の13時ですが、夕方にニュースで確認したいと思います。

3.は2種類のモデルがあります。

  • ベイズ更新で、実効再生産数を推定する方法で、Rt Covid-19に米国の例がありますが、時間遅れは6日になっていますので、7日前の実効再生産数を推定します。

  • もう一つは西浦モデルです。

いずれのばあいでも、現時点もできるだけ近い日の実効再生数を推定して、行動制限の効果を評価し、行動制限を(継続、強化、弱める)のいずれをとるかを決めます。

 

西浦モデルの課題

5月4日に専門家会議は、非常事態宣言に延長に関する提言を行っていますが、そこで引用されている実効再生算数は1日の提言にのっているものです。3日間何をしていたのかと突っ込みたくなりますが、それは、さておいて次に進みます。

図1が1日の提言にあつ東京都の西浦モデルです。

図2は、いつもこのブログで使っている東京都の感染者数の推移です。

図3は、2つ並べてみました。感染者数の形はにています。西浦モデルの感染者数のピークは3月27日です。

7日移動平均をとった実際のピークは4月11日です。西浦モデルではなぜ、ピークがずれるのか不明です。すくなくとも、モデルは実績にあっていないとは言えます。

図4は、2つの図をピークが合うように重ねてみました。縦横の軸の刻み幅は、ここでは、西浦モデルの図を変形して合わせました。これは、実績図の方日付軸が密で、こちらを変形すると日付の目盛りがつぶれるためです。比較すると次のことがわかります。

  • ピークの感染者数はほぼあっています。

  • ピークの立ち上がりは、西浦モデルが急であるが、実績との差は小さいです。

  • ピークからの現象は、西浦モデルが急で、実績ははるかに緩やかです。

  • 日付のシフトに問題がなければ、最終的な実効性生産数は4月29日まで計算されている。

  • 日付のシフトを認めなければ、西浦モデルは、東京都の感染者数を全く説明できいていない。

 

 

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図1 東京都の西浦モデル(1日の専門家会議資料から引用)

 

 

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図2 東京都の感染者数の推移(行動制限スケールの右軸は省略)

 

 

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図3 東京都の西浦モデルと感染差者数の比較1

 

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図4 東京都の西浦モデルと感染差者数の比較2

 

実効再生産数は非常事態宣言延長の判断の基準になったか

判断基準は3.の西浦モデルであったはずです。

2.を使った印象操作が行われている可能性はありますが、それは、あくまで、都合の良い結論を引き出すための印象操作や洗脳にすぎません。

西浦モデルの実効再生算数に関する記載を下に、引用します。問題点は2つあります。

4月10日の実効再生産数0.5は日付のシフトがなければ正しいですが、日付をシフトさせないと実績には全くあいません。これでよいのでしょうか。

4月10日が選ばれたのは、実効再生算数が0.5で、これより小さいと、非常事態宣言が延長できなくなるためであった可能性が高いです。4月12日の実効性生産数がグラフを見れば、約0.2です。これから先は、さらに小さくなるはずです。まわりくどく「直近20日間は推定感染者数と実効再生産数を過小評価する可能性があるため、データを省略している」と書いてありますが、これは、実効再生産数が既に0.1を切っているため発表できなかったという事実の言い換えではないでしょうか。西浦モデルのピークからの減少は、実績よりはるかに急になっているので、それは、当たり前なのですが、そうすると、「4月10日の実効再生産数0.5」はナンセンスになります。

結論からいうと、科学的な判断でなく、感染数がまだ予定し数より多いので、非常事態宣言延長というシナリオがまずあって、それに合うように、説明することがもとめられただけで、実効再生産数は意思決定には関係しなかった、政治指導であったと考えられます。

 


5月1日の専門家会議の資料

東京都の4月10日の実効再生産数は0.5 (95%信頼区間:0.4, 0.7)に低下し(12日はグラフからは0.2)

横軸は推定感染時刻.黄色が推定感染者数、青が実効再生産数(青い影が 95%信頼区間)である。実効再生産数の推定においては右側打ち切りを考慮した推定を実施しているが、潜伏期間と発病から報告までの遅れのため、直近20日間は推定感染者数と実効再生産数を過小評価する可能性があるため、データを省略している。


 

 

Rt Covid-19

https://rt.live/

5月1日の専門家会議の資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_1