図を使って考える~コロナウィルスのデータサイエンス(52)

緊急事態制限の解除

緊急事態宣言が一部解除されました。

とりあえず、関心は緊急事態でない対応に移ります。

解除の条件については、その根拠が示されていないので深入りしても意味がないと考えています。

むしろ、根拠を考える方が重要なので、そちらを、試みます。

ポイントは図で考えることです。

検討の前提条件の整理

  1. 現在の感染者数は実体の感染者数の代わりに使える。(検査数が少なく、感染者数のデータが全く使えないという仮定は用いない。)

  2. コロナウィルスの集団免疫が既にできていることはない。言い換えると、コロナウィルス問題の最終的な解決は、集団免疫または、ワクチン接種しかありえない。これは、1年以上かかる。

 

コメント1:2番目の仮定は、今が一番悪い時期ではない。おそらく、今後もっと厳しい時期が来る可能性があることを意味します。問題は、第1回目の非常事態宣言で、お金を大盤振る舞いしたことです。2回目以降はお金がないと人が動かなくなる可能性が大きいです。少子化問題でも、30年以上前から問題はわかっていたのに、先送りして、今に、至りました。コロナ対策でも、出口戦略無しに、問題の先送りが繰り返されています。

コメント2:スペインで抗体調査をしたところ、実際に感染した人は、1ケタ多いという結果になったようです。1.にも疑いはありますが、これは、別の機会に考えます。

経路不明の定義

図1は感染拡大の仕組みを示しています。第1世代がA,第2世代がB,第3世代がCです。この場合、B,Cは感染経路がわかっていて、Aが感染経路不明と解釈します。

感染率による対策の違い

図2は、感染率による対策の違いを示しています。

オレンジ色の丸が、感染した人、緑色の丸が感染していない人を表します。枠があるエリアを示します。

下の矢印がエリア外からの感染者の侵入を示します。水際対策です。

 図1との対比では、感染経路不明は、水際対策に対応します。

2月ころの状況は、左の図で、対策は、主に外部からの侵入を防ぐ水際対策です。この時は、行動制限をしてもまったく効果はありません。しても、しなくとも、感染者数の増加にはほとんど影響しません。

 

右の図は、感染者がエリアに多数混入してしまった場合です。EUの状況を想定してもらえればわかると思います。この状態になると水際対策は感染者の増加を抑えるためには、効果がありません。図で、感染した人と、感染していない人の間にシールドを書いてありますが、行動制限を行い、接触を減らす以外に方法はありません。

中央の図は、その中間です。水際対策と行動制限は双方ともほどほど効果があります。

このように考えると、感染率の違いで、水際対策と行動制限のバランスが異なり、対策に期待できる効果が違ってきます。

実は、SIRモデルは、閉鎖した空間を集中定数系モデルでといていて、水際対策がモデル化されていません。つまり、水際対策と行動制限(接触機会の減少)は共に、実効再生算数で評価されます。

専門家は、専門分野のモデルに当てはめて現象をみます。その結果、素人にはわからない現象の本質が理解でkるのですが、一方では、現象理解はそのモデルに大きく左右されます。SIRモデルでは、空間の広がりや、フローが無視されやすいと思います。

図2の仮定は、流体力学では、2種類の液体の混合過程ににています。

水際対策は、液体の流入で、移流と呼ばれます。一方、感染者と非感染者の接触は、拡散という現象ににています。2種類は、別々の物理過程としてモデル化されます。通常は、移流の効果が、拡散の効果より大きくなります。

逆に言いますと、EUのように水際対策の効果が期待できない状態では、非常事態宣言の管理は実効再生算数で決まってしまいます。一方、日本の場合は、左か、中央の図であると思われます。この場合には、実効再生産数で評価することは、妥当ではありません。なぜなら、実効再生算数には、行動制限(接触機会の減少)と水際効果の2種類の対策が、含まれているからです。水際対策の効果は、変動が大きいため、実効再生算数の変動が大きくなり、管理指標としては使いづらくなります。

専門家会議の管理指標に、人口当たりの感染率が出てきていることは、日本では実効再生産数が使いにくいということを示していると思われます。とくに、感染率が低い場合には、水際対策の影響が大きくなります。

感染率の低いエリアで考えるべき点

感染率の低いエリアでは、水際対策の効果をあげることが最重要課題になります。これに必要な方策は次です。

  • フローの監視制御:県境をまたぐ移動はしないようにという注意は喚起されていますが、公開された実測データはありません。また、許可証の提示を求めたり、県境で体温を測定しているところはごく一部です。

  • ゾーニングの見直し:奈良県知事が、通勤圏であって、県境をまたぐ移動は止められないという発言をしました。管理エリアを県境にとることが合理的ない場合も多いので、行政区域にかかわらず、水際対策で、分離しやすいエリアにゾーニングをすべきです。こうしたゾーニングは、今回のコロナウィルス対策だけでなく、次のパンデミックにも有効なので、感染者の増加が止まって一段落した時に、進めるべきです。

 

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図1 感染拡大の仕組み

 

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図2 感染率による対策の違い