露光とダイナミックレンジの問題(2)~RGBワークフローへの道(3)(darktable3.0第99回)

ゾーンの表示方法

前回は、平均グレーは、撮影する光の場の代表値としては、使いものにならないことを確認しました。

そのとき、現実の世界のダイナミックレンジは小さいものを例にとっています。カメラやフィルムのダイナミックレンジとして想定した8EV似内に現実世界のダイナミックレンジが収まっています。

8EVの標準露出処置の図を説明します。

なお、以下では、このタイプの図をダイナミックレンジの転写図と呼ぶことにします。

サンプル1の図には3本のバーがあります。一番下が、目で見るリアルの世界、中段が、ネガまたはRAWに、上段がポジまたはjpegに対応します。数字で書かれたバーの長さがダイナミックレンジを表しています。ダイナミックレンジはEVであらわされます。バーは左に向かって光が少ないほう、右に向かって光が多い方を表します。左端が黒、右端が白になります。各バーの数字は、EV単位のダイナミックレンジを示すと同時に、フレーム内のゾーンに対応します。画像のフレームを目で見た場合に目のダイナミックレンジは20EVありますので、フレームの中の明暗のグラデ―ションに1EV単位で等EV線を引いて分けると20ゾーンに分けることができます。目で見える世界のEVが20を超えた場合の解釈は2種類可能です。

  • 第1は、ダイナミックレンジが20EVであるということは、全てのデータは、20EVの中に収まることを意味するという解釈です。この解釈ですと、計測器を使って光のエネルギーを測定して、そのダイナミックレンジが20を超えた場合には、20EVを超える実世界が、20EV以内に変換されることになります。一番単純な考え方は、両端の1と20のゾーンが調整をして、2から19のゾーンは物理的に計測されたゾーンに対応するという解釈です。

  • 第2は、目のダイナミックレンジを越えている部分は20EVの外側にあるという解釈です。つまり、20EVの外側に、白飛び、黒飛びに相当する部分があると考えます。この場合には、ダイナモックレンジは22EVではないかという突っ込みもありありそうです。白飛び、黒飛びを別に設定すると、1EVと20EVを特別扱いしなくて済みます。

ここでは、2番目の立場をとります。こうすると、ネガとポジの8EVの時の白飛び、黒飛びもダイナミックレンジの外に位置することになります。また、ダイナミックレンジの数字は、全て同じ幅になります。

ゾーンという用語はアダムスが、フィルム時代に考えました。このとき、アダムスの手元にあったものは、自分の目とネガとポジ、そして、それらの白と黒の濃淡だけでした。ですから、アダムスのゾーンの説明は、色の濃淡でゾーンを分けるのです。アダムスの世界は、アナログで、ピクセルもありませんでした。画像のある部分だけを指すためには、ゾーンという概念が必要だったのです。

デジタルカメラでは、画像の単位はピクセルで、特定の画素のEVを計測できます。このとき、黒飛び、白飛びしたピクセルにはデータがありませんが、露光のブランケット撮影をすれば、20EVまで、測定レンジを上げることができます。つまり、EV値は、デジタルな値としてピクセル単位で計測可能なのです。現在のデジタルカメラでは、ゾーンをダイナミックレンジを表すEVで考えてた方が自然です。

言い換えますと、デジタルカメラでは、EV値と、グレーの色は独立しています。ですから、この2つの概念は分けて考えた方が理解が容易になります。この2種類のゾーンが混乱すると非常に理解が困難になります。筆者はゾーンシステムがわかりにくい理由は、ダイナミックレンジから考えたゾーンとグレーの色から考えたゾーンが混在しているためではないかと考えました。そこで、以下では、次の2つを区別します。

DZ:ダイナミックゾーン:ダイナミックレンジから考えたゾーン

CZ:カラーゾーン:グレーの濃度から考えたゾーン

以上の前提で、図の説明を続けます。下段のリアルの世界は20EVと図では両端のオレンジ色のoutからなります。このゾーンには固定した色がついていて、18%グレーに相当するゾーン11を黄色で塗ってあります。18%がどこに来るかは、シーンよって、違いますが、ここでは、仮に11としています。アダムスは、リアルの世界と、ネガの世界のゾーン数をリアルがネガよりゾーンが多いとしていますが、この部分は、カラーソーンとダイナミックゾーンが混在した説明になっています。この図では、20EVはダイナミックゾーンで、カラーゾーンの数は不明です。カラーについては、18%グレーの属するダイナミックゾーンと1EVが黒、20EVが白であることを示しているだけで、その途中については、ゾーンを設定していません。

次に撮影をしてネガを作ると、リアルの世界から、8EVに相当する部分を切り出すことになります。このとき、18%グレーの11ゾーンが同じ18%グレーに対応するために、ここでは、中央のネガの5番ゾーンに対応するように露光を設定します。ネガのカラーゾーンは1から8の数字で表されています。ここでは、ダイナミックゾーンとカラーゾーンの区切りは一致しています。カラーゾーン1のデータはリアルの世界のダイナミックゾーン7のデータに対応します。DZの横の数字は、リアルの世界のどのダイナミックゾーンに対応しているかを示しています。

このとき、リアルのDZ1からDZ6はダイナミックレンジの外になるので、ポジでは、黒のoutに対応します。同様に、リアルのDZ15からDZ20のデータは、白のoutに対応します。結局撮影で、ネガには8段間のEVを持つゾーンと、白飛びと黒飛びのある画像が得られます。

次に、ネガからポジに焼き付ける場合を考えます。ポジのダイナッミックレンジも8EVであるとれば、ネガとポジのダイナミックレンジを対応させないと、データが取りこぼれますから、1対1の対応がベストです。ネガと、ポジのカラーのグラデーションが類似していると仮定すれば、18%グレイはCZ5になります。ここでのリアスの世界のダイナミックゾーンとの対応はネガと同じ順番になります。

撮影により、リアルの18%グレイであるDZ11がポジのカラーゾーンに転写されます。

リアルの世界でポジに比較的きれいに転写されるのは、下段で青い色を付けたDZ9,10,11,12になります。グレィの色を付けたDZ7,8,13,14は見栄えが劣ります。アナログ写真の場合には、ダイナミックレンジが緩やかに変化するため、DZ5,6,15,16のデータの一部も取り入れられます。

デジタルの場合には、この部分は切り捨てられます。それ以外は、デジタルの場合には、ネガをRAWに、ポジをJpegに当てはめれば同じ議論ができます。

ポジについては、画面表示と紙印刷を分けて考える場合もありますが、当面は単純な方を採用します。

  

 

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ダイナミックレンジの転写図(8bit)その1詳細

 

 

上の図では前回のヒストグラムでのデータの切り出しに相当する部分には、対応がわかるように赤い四角をつけました。この方法は煩雑になって図が見にくくなるため、いかでは、次の図のように、赤い四角を外した図を使います。

なお、この図を作るためには、1か月近く、描いたり消したりを繰り返しました。なので、ここにはコピーライトを入れています。

 

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サンプル1 ダイナミックレンジの転写図(8bit)その1


 

露光の変更

次に、露光を変更すると、ゾーンの対応が、どのように変化するかを見ます。撮影時に、露光を+1EV増やしたとします。露光を増やすことによりより暗い部分まで写真に写るようになりますので、これは、ネガのダイネミックレンジが暗い方へ(左に)1目盛り移動することに対応します。

サンプル2の図は撮影時に露光を標準であるサンプル1より、+1EV変化させた状態を表しています。

ネガのカラーゾーンのグレイのグラデーションは変わらず、CZ5が18%グレイに対応しています。一方リアルの世界のダイナミックゾーンとの対応は1つずれて、DZ6からDZ13が転写されます。

ネガとポジの関係は、標準露光で焼き付けるのであれば、サンプル1と同じ関係になります。

その結果、18%グレイは、ポジのCZ5にありますが、このゾーンに転写されているリアルの世界のDZは10になり、1つずれます。リアルの世界の18%グレイはDZ11でしたので、同じ対象物に対しては1段明るくなります。

サンプル1では、18%グレイが、リアルのDZ11にあり、それが、CZ5に転写されましたので、18%グレイについては、適切な明るさが再現できています。ですから、サンプル1では、あえて露光を変化させる動機はありません。しかし、仮に、サンプル1の露光では、実際のグレイより、1段暗くずれて再現されていたとすれば、サンプル2のように、撮影時の露光を変化させることで、18%付近で正しいグレイの濃度が再現できることになります。

 

 

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サンプル2 ダイナミックレンジの転写図(8bit)その2

 

 

次に、サンプル3では、撮影時に、露光を一段上げて撮影し、ネガからポジへの焼きつけ時に、逆に1段下げる場合を考えます。

これは、通常よりも焼き付け時間を1段分早く切り上げることになります。ですから、18%グレイはCZ5で、CZ5に転写されるリアルのダイナミックゾーンはDZ11になります。ですから、この方法でもサンプル1と同じように、リアルの18%グレイのDZ11がポジの18%グレイのCZ5に転写されます。

しかし、この方法には致命的な欠陥があります。CZ8が白飛びしてしまいポジのダイナミックレンジが7EVに落ちてしまうのです。

結局、ポジとネガのダイナミックレンジが同じであれば、ずらして焼き付けすることは画質を落としてしまうのです。ですから、ネガとポジは連動します。

デジカメの場合には、JpegとRAWのダイナミックレンジに差がなければ、JpegとRAWは連動させるしかありません。

フィルムカメラもデジカメの多くの場合、ネガとポジを連動させる、あるいは、JpegとRAWを連動させる操作系になっています。

それでは、ネガとポジのダイナミックレンジが異なったら何ができるか、次回に説明します。

 

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サンプル3 ダイナミックレンジの転写図(8bit)その3