「テクノリバタリアン」を読む(7)イデオロギーの境界、5/26改訂版

データサイエンティスト(テクノリバタリアン)は、「数学は、イデオロギーより優先する」と考えます。

 

数学には2つのレベルがあります。

 

第1は、解の存在証明のレベルです。

 

第2には、数値解を求めるレベルです。

 

第1のレベルは、従来では問題にされることがあまりありませんでした。

 

第2のレベルは、従来は人間が分担してきたレベルです。

 

このレベルでは、数学は、人間をサポートすることが多いです。

 

しかし、数学(コンピュータ)が人間を駆逐してしまった例もあります。

 

アルファ碁に代表されるようなボードゲームの世界では、人間は、数学(コンピュータ)に勝てません。

 

つまり、ボードゲームの名人は、陸上の選手のような価値しかありません。陸上の選手は、人間の中ではずば抜けた体力をもっています。しかし、ビジネスの世界では、陸上の選手の体力を活用するよりも、輸送トラックやフォークリフトを使います。

 

アマゾンでは、ロボットを使っています。

 

スポーツ選手は、ビジネスの世界で、特別な体力を使った働きはしていないけれど給与を受け取っています。

 

これは、普通の体力の社員並みの給与を受け取っていることを意味します。

 

あるいは、特別な体力を使って社会人スポーツで活躍して、企業イメージをあげる宣伝効果が期待されています。

 

エストニアは、DXに優れた徴税システムを導入しています。

 

エストニアでは、納税はスマホで済みます。

 

税務署の職員も、税理士もほぼゼロです。

 

つまり、日本にいる税務署の職員と税理士は、スポーツ選手のような価値しかありません。

 

西原なつき氏によれば、財政破綻したアルゼンチンでは、公務員のレイオフが行なわれています。(筆者要約)

 

アルゼンチンのミレイ大統領は、2024年3月末のイースター休暇の直前に「解雇通知や契約更新無しの通知が7万人に届く」と公式会見をしました。この発表では、ミレイ大統領は契約未更新という形で職員の切り捨てを実施できることを「とても光栄に思っている」と発言しました。

 

このリストラの目的は、政府職員の中で「実際には働いていないけれど登録されており給与だけ受け取っている」人を淘汰することにあります。

 

2024年4月までに解雇通知があった政府職員の人数は24000人で、7万人まであと46000人が解雇される計画です。

<< 引用文献

ミレイ政権発足から4カ月。変化していくアルゼンチン経済、「痛みを伴う改革」に国民の反応は? 2024/04/22 Newsweek 西原なつき

https://www.newsweekjapan.jp/worldvoice/nishihara/2024/04/4.php

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アルゼンチンでは、政府職員の中で「実際には働いていないけれど登録されており給与だけ受け取っている」人を淘汰する目的でリストラが行なわれています。

 

エストニアと同じレベルのDXの徴税システムが、日本に導入されれば、エストニアと同じように、日本の税務署の職員も、税理士も、「実際には働いていない」人になります。「実際には働いていないけれど登録されている人に給与だけを支払う」わけには行きません。

 

それをしたらDXの効果はマイナスになります。

 

つまり、マイナンバーカードの問題は、DXを導入後に「実際には働いていないけれど登録されており給与だけ受け取っている」人を淘汰することにあります。

 

この問題を放置して、レイオフする必要のないマイナンバーカードシステムをつくったらDXにはなりません。

 

エストニアのように、DXで優れた徴税システムを構築すれば、徴税は数学の問題になります。

 

マイナンバーカードが機能しない理由は、レイオフを前提としていないことと、担当者の数学のスキルが低いことが原因です。

 

DXで優れた徴税システムを構築してない場合には、正常な徴税をするためには、税務署職員の健康などに配慮する必要があります。徴税は数学の問題ではありません。徴税は、職員のやる気の問題にもなり、数学ではなく、イデオロギー(上司と部下の信頼関係)の領域問題になります。

 

野口悠紀雄氏は、最近にインフレについて次のように述べています。(筆者要約)

 物価が上昇して経済成長率がマイナスになっているのだから、これはスタグフレーションだ。つまり日本経済は深刻な事態に陥っていることになる。

 

 ところが、現在の日本経済について、これとは全く正反対の評価もある。物価と賃金が上昇しているので、「物価と賃金の好循環」が実現しつつあるとの見方だ。日本銀行はこの立場で、好循環が確認されることを前提に金融正常化を進めるとしている。

 

これはコストプッシュ・インフレーションのスパイラルに他ならない。それ(日本銀行の政策)は人々を豊かにするのでなく、経済を破壊する。

 

実質賃金指数は1996年をピークとして、その後、傾向としては継続して下落している。

(つまり、1996年以降、生産性は下がり続けている。筆者注)

 

賃金と物価の好循環を実現するためには、生産性の向上が必要であり、そのために金融正常化が必要なのである。日銀が言うように「賃金と物価の好循環が確認できたら、金融正常化する」のではない。それでは順序が逆だ。

<< 引用文献

政府の賃金上昇の価格転嫁支援は理解できない、なぜ「スタグフレーション」を進めるのか 2024/05/23 野口悠紀雄

https://diamond.jp/articles/-/344117



加谷 珪一氏は、専門家のインフレの分析について次のようにいっています。(一部は再度の引用)

日本でも物価上昇が顕著なってきた当初、多くの専門家が原油価格の高騰など、一次産品の値上がりが原因であり、その影響は一時的なものにとどまると主張していた。教科書でいうところのコストプッシュ・インフレであり、大規模緩和策で想定していたインフレとは異なるという理屈である。

 

コストプッシュ・インフレ、ディマンドプル・インフレという言葉は、学生などが分かりやすいように教科書で用いられている分類に過ぎず、インフレというのは基本的に複合要因と考えるべきだ。



不景気下におけるインフレ(つまりスタグフレーション)は非常にやっかいな現象であり、これに対処するには、企業の生産性を高め、付加価値を増大させることで賃金を上げるしかないのが現実だ。過去の歴史を見ても分かるように、スタグフレーションの克服には王道を追求するしか選択肢はない。

<< 引用文献

円安で国内消費は「壊滅状態」に…日本経済をぶっ壊す「スタグフレーション」のヤバい現状 2024/05/22 現代ビジネス 加谷珪一

https://gendai.media/articles/-/130306?imp=0

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加谷 珪一氏は、「インフレというのは基本的に複合要因と考えるべきだ」といいます。

 

野口悠紀雄氏は、日銀は、原因と結果を取り違えているといいます。

 

この2つは、数学の能力の問題です。

 

野口悠紀雄氏も、加谷 珪一氏も、「企業の生産性を高め、付加価値を増大させる」しか、解決策はないといいます。

 

上記は、税収システムを例に上げましたが、他の分野も同じです。

 

弁護士や医者の仕事のかなりの部分は、DXに置き換え可能です。

 

DXに置き換えれば、生産性があがります。

 

CNNは、次のように、伝えてtいます。

 米起業家イーロン・マスク氏は23日、仏パリで開催された「ビバテック 2024」の基調講演にリモートで登壇し、人工知能(AI)は私たちの仕事をすべて奪うことになるが、それは必ずしも悪いことではないと語った。

 

マスク氏は「おそらく私たちは全員仕事がなくなるだろう」と話し、仕事が「任意」になる未来について語った。「趣味のような仕事をしたければ、仕事をすればいい」「そうでなければ、AIやロボットがあなたの望む商品やサービスを提供してくれるだろう」

<< 引用文献

イーロン・マスク氏、「AIは私たちの仕事をすべて奪う」2024/05/24 CNN

https://www.cnn.co.jp/tech/35219312.html

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人工知能(AI)は私たちの仕事を奪います。それに、反対して、現在の雇用を優先して、低い生産性に止まれば、国際競争力がなくなり、経済が破綻します。

 

日本は、食料を輸入する必要があるので、飢餓になります。

 

ジム・ロジャーズ氏は、1年前に、次のように述べています。

もしあなたが10歳なら日本から出て、違う言語を学ぶことをすすめたい。あなたが40歳になるころには日本の人口は1億人を割り、日本という国にしがみついて生きていくことは困難になるだろう。

<< 引用文献

「10歳なら日本から出たほうがいい、40歳なら…」世界的投資家ジム・ロジャーズが提唱する"自己防衛策" 2023/03/10 President Woman

https://president.jp/articles/-/66947

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実際に、既に、日本人の高度人材は流出しています。

 

GAFAMは、日本のオフィスを拡張していますので、GAFAMを通じて、人材の流出は加速します。

 

「あなたが40歳になるころ」は、30年後です。しかし、人材流出が加速すれば、時間は更に短くなります。

 

「もしあなたが10歳なら日本から出て」とは、日本の大学の卒業資格が、紙屑になることを意味します。

 

DXを進めるか、現在の雇用体系を維持するかは、選択の問題です。

 

しかし、その選択が及ぼす影響は、数学ができれば、計算することができます。




問題を整理します。

 

数学の第2のレベルは、コンピュータが導入されるまでは、イデオロギー(人間関係)の領域で扱われていました。

1990年頃までは、コンピュータは、ソロバンがエクセルに変わったような利用法で使われ、イデオロギー(人間関係)の領域に介入することはありませんでした。

 

工業社会が、情報社会にレジームシフトする現象は、第2のレベルで、イデオロギー(人間関係)が、数学に置き換わるプロセスに対応します。

 

年功型雇用の企業では、新卒の採用について、人間関係を重視しています。この採用基準は、工業社会のものです。

 

イデオロギーを、上司と部下の信頼関係と書くと奇妙に感じるかもしれません。

 

功利主義以外のイデオロギーは、数式で表わすことができません。

 

コンピュータは、イデオロギーを理解することができません。

 

これは、イデオロギーは、形而上学であって、人間関係の空間にしか存在しないためです。