2023年の春闘は、最近にない賃上げ率でしたが、物価上昇が賃金上昇を上回っていますので、実質賃金は減少しています。
つまり、実質賃金(=名目賃金上昇ー物価上昇)の差分が問題であって、賃上げ率は生活には関係のない指標です。
近代経済学の知見によれば、経済活動は概ね微分方程式で記述できます。
実質賃金が減少するような経済活動が変化する場合には、そのモデルには、微分方程式が必要です。
日本では、大学と高等学校の教育が、文系と理系に分かれていて、文系では、微分方程式を学びません。
高等教育をうける全ての学生が微分方程式を学ばない国は日本だけです。
1980年に計算科学が発達して、それまで、答えの求まらなかった微分方程式の答えが、簡単に求まられるようになりました。
微分法手式が立てられれば、ボタンお押すだけで、スマホやコンピュータが答えを出してくれます。公式を覚える必要がありません。式の意味が理解できれば良いだけです。
従って、微分方程式は、必須のカリキュラムなのですが、日本だけが必修のカリキュラムになっていません。
さて、ここでは、微分法方程式の解説をするつもりはありません。
微分方程式を立てるまえには、微分の考え方を理解する必要があります。
微分と聞くと、頭の痛くなる「イプシロン-デルタ論法」を思い出す人もいると思いますが、実用数学においては、「イプシロン-デルタ論法」は、完全に無視されています。
計算科学は、「イプシロン-デルタ論法」を無視しています。
例えば、実質賃金(=名目賃金上昇ー物価上昇)は、差をとっているので、差分になります。期間は、1年前の値との比較が多いです。
この1年という期間は、「イプシロン-デルタ論法」のデルタ時間より、はるかに大きいですが、そこは、無視して、差分は、微分の近似であるとして、検討がなされます。
つまり、差分(=微分)が理解できれば、微分方程式の入り口に到達できます。
次の文章の間違いが判りますか?
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社会保障制度に関しては、日本の年金制度の仕組みとして、高齢者の年金を生産年齢人口が負担する方法で成り立っているため、人口オーナスが進むほどに現役世代の負担は重くなる。1950年には現役世代12.1人当たり1人の高齢者を支えていたのが、2019年には2.1人当たり1人を支えなければならない状況となり、負担が大幅に増加している。なお、現状が継続した場合、2060年、2110年時点では高齢者1人に対して現役世代がそれぞれ1.3人、1.2人となる見込みであり、高齢者と現役世代の人口が1対1に近づいた「肩車社会」が到来すると言われている。
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この文章は、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」を問題にしています。
しかし、問題は、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」でなく、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」の変化率です。変化率とは、期間を1年にとった場合の差分になります。
「高齢者と現役世代の人口が1対1に近づいた『肩車社会』」は実現不可能で、その前に破綻がおこります。
この議論には、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」の変化率は変えられない運命であるという暗黙の前提があります。
「高齢者1人に対しする現役世代の人数」の変化率は、人口、婚姻率、出生率、寿命の関数です。
現役世代を労働者すると考えれば、退職年齢の関数でもあります。
つまり、差分の考え方が理解できていれば、問題は、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」の変化率を改善する方法であって、「肩車社会」をいう馬鹿げた妄想を振り回すことはありえません。
問題は、「肩車社会」の回避にある訳ですが、政府は政策の目標を回避しています。
実際に、高齢がが進んでいるEUでは、「高齢者1人に対しする現役世代の人数」の変化率が、政策の決定因子になっています。
微分方程式、少なくとも、差分が理解できなければ、朝三暮四の世界になってしまいます。