アブダクションとデザイン思考(5)前例主義と設計図

(前例主義とカタログ販売には共通点があります)

 

1)前例主義・訓詁学権威主義

 

前例主義とは、どこかで、成功した方法をコピーしてくる推論です。

 

例えば、欧米で成功している事例を持ってくるという論理です。

 

「探求の学習が欧米では流移行している、ギフテッドの教育が欧米では行なわれている」、だから、日本にも導入しようといった推論です。

 

前提が異なりますので、コピー後の前例は、コピー前の前例とは異質なものに変質します。

 

これは、一般には、コンテキストの問題と解釈されますが、この表現は、曖昧で、混乱のもとになるので、筆者は、Casual Universeの違いとして整理しています。

 

前例主義のルーツは訓詁学で、エビデンスに基づかない形而上学で、科学的に間違った推論です。

 

日本では、訓詁学がルーツの科学的に間違った推論が横行しています。

 

「そんなことはXXにすでに書いてある」といった説明があります。

 

仮説命題は、「IF A THEN B」の命題が、あるCasual Universeに対して成り立つことです。Casual Universeエビデンスに対応します。



そんなこと(B)だけを、切り離しても意味がありません。

 

エビデンスを無視して、空気を読む推論も、ルーツは、訓詁学にあると推測できます。

 

経済政策でも、クルーグマン氏がこういったということが話題になることがあります。

 

これは、科学を無視した権威主義です。経済学が科学であれば、同じエビデンスに基づけば、誰でも同じ推論が出来なければなりません。

 

クルーグマン氏の推論も、大学の学部学生の推論も同じになるはずです。違いが出るとすれば、それは、使用するデータの違いに依存します。



クルーグマン氏は、著名な経済学者なので、アメリカの経済データについては、インサイダー情報に近い非公開データにアクセスできるかもしれません。

 

しかし、アメリカ在住のクルーグマン氏が、日本の非公開データにアクセスできるとは思えません。

 

なので、差が出るはずはありません。

 

著名な人物の発言は、それが、根拠となるデータ(エビデンス)に基づいているのであれば、尊重すべきですが、データに基づかない場合には、全くあてになりません。

 

著名な人物の発言が、信頼できるという権威主義は、古典に書いてあれば正しいという訓詁学にルーツがあり、現実(エビデンス)を無視する非科学的な推論です。

 

見た目では、クルーグマン氏の発言の引用と、欧米で流行している探求の学習の導入は、異なりますが、そこで使われている推論は、訓詁学の前例を踏襲する推論です。

 

訓詁学では、出典の仮説の正しさを問題にしません。

 

仮に、出典の仮説が正しくとも、欧米の仮説の場合、その仮説の正しさは、欧米にあるサンプル(Casual Universe)に対して検証されたもので、日本に持ち込めば、変質してしまいます。

 

2)設計図の世界観

 

前例主義を主張する人は、設計図の価値を認めません。

 

つまり、デザイン思考や、科学的な推論を否定しています。

 

これを読んで、読者が、気にならないのであれば、読者は、非科学的な推論に洗脳されている可能性があります。

 

政治家は、有権者にアピールしやすい大規模土木工事が好きです。

 

政治家が予算獲得運動をして、高速道路や橋などが出来れば、政治家は、自分が作った高速道路や橋だといいます。

 

この世界観は、リアルの物にのみ価値があるという点で科学とは相容れません。

 

今は、12月です。

 

日本では、年末には、第九の演奏会が多く開かれます。

 

第九の演奏をするために必要な要素は以下です。

 

(P!)楽譜

(P2)指揮者、オーケストラ、合唱団

(P3)事務局

(P4)会場(練習会場を含む)

(P5)費用支出(会場費、ギャラ、事務費)

(P6)費用収入(チケット代、補助金

 

自治体や企業がスポンサーになって、チケットフリーで、演奏会を開く場合もあります。

 

東京都がスポンサーになれば、東京都の演奏会になります。

 

政治家が、東京都に働きかけて、文化事業の一旦で、第九の演奏会をする場合も考えられます。

 

高速道路や橋と同じように、考えれば、この場合にも、政治家が、行なった第九の演奏会になります。

 

しかし、これは、政治家の発想です。

 

アートや科学の世界では、この論理は通用しません。

 

第九の演奏会ができるためには、第1に、ベートーベンの楽譜があり、第2に、楽譜を読み解いて音にできる指揮者とそれに協力するオーケストラと合唱団がいるからです。

興行の能力の高い事務方がいることは、演奏会を実施する上の必要条件ですが、事務方の能力が、演奏の質を左右する割合は、あまり高くないと考えられています。

 

例外は、オペラで、事務方の興行の能力が、結果を大きく左右するため、指揮者からは、伏魔殿と呼ばれることもあります。

 

科学の世界は、デザイン思考なので、基本的な評価基準は、よい設計図(楽譜)になります。

 

設計図を実装するには、予算と人が必要ですが、それは、科学の成果とは切り離して評価されます。

 

科学の世界では、だれが設計図を作ったかが問題になります。

 

政治家が予算をとって、チケットフリーの演奏会が実現しても、ベートーベンの第九の楽譜は、政治家の業績になることはありません。

 

それを主張すれば、著作権侵害になります。ベートーベンの楽譜の著作権は既に切れていますが、それでも、問題外の主張になります。

 

これから前例主義は、設計図の価値を無視していることがわかります。

 

科学技術予算の多くは、政治家の満足のために消費されています。

 

科学技術で大切なことは、デザイン思考で、良い設計図(問題解決のための仮説)を作成することです。大きな予算をつければ、大きな成果がでる訳ではありません。

 

しかし、政治家は、設計図が読めないので、予算規模を問題にしたがります。

 

研究者も、予算が大きくなれば成果が出る訳ではないことをしっていますが、予算の増額を断ると、次に、予算が必要になったときに、獲得できなくなる可能性があるので、予算の増額に応じます。

 

生成AIのように、基本的な設計図ができて、実装段階になれば、予算が物をいう事もあります。しかし、政府のAI予算は、設計図を引くには、大きすぎて、領収書作りに振り回される反面、実装段階では、小さすぎると思われます。

 

いずれにしても、設計図の読めない人が、予算配分をすることには、無理があります。

 

3)設計図を引くこと

 

前例主義の問題点は、前例を引用する人は、科学的な理解をしていないことです。

 

ハウスメーカーの住宅展示場に行けば、モデルハウスが建っています。

 

このモデルハウスを前例として、同じような住宅を建築するために、必要な要素は、土地と資金です。

 

ハウスメーカーは住宅カタログを整備して、ユーザーは、カタログの中から、好みの住宅を選んで、前例主義で、住宅を建てることができます。

 

つまり、カタログ販売は前例主義になります。

 

カタログ販売の問題点を、購入者、販売者、製造者と評価者に分けて考えてみます。

 

3-1)購入者

 

購入者は、自分が本当に必要としているものではなく、必要としているものに近いものを妥協して購入します。

 

これは、オーダーメードの洋服と、レディメードの洋服の違いを考えれば理解できます。

 

家電製品では、パソコンは、箱にいれるボードを選べるので、若干オーダーメードになっていますが、例外に属します。

 

冷凍食品などの加工食品も、塩分や味付けをオーダーメートにすることは、理論上は、可能ですが、2023年時点では、病院の食事を除いては、実現していません。

 

最近では、Digital Gastronomy、Computational Gastronomyの研究が進んでいますので、時間の問題で、オーで―メードの加工食品を入手できるようになるかも知れません。

 

ここ2、3年で、自動電機鍋が、劇的に進化していますので、調理の素材は、オーダーメードで、加工済みを購入して、自動電機鍋を使って、各自の好みと健康状態にあった食事を取ることができる時代も、直ぐそこまできています。:

 

さて、オーダーメードの商品に慣れてしまうと、購入者は、本当に必要なものがわからなくなります。

 

書籍も、購入者は本当に必要とされている情報だけを、選抜し、毎週、電子ブックにまとめて、読めるサービスが可能です。

 

AIを使えば、かなりの精度で、必要とされている情報を抽出可能です。

 

この方法は、もちろん、義務教育の学習者にも適用可能です。つまり、一律のオーダーメードの教科書を使うことは、各生徒の理解の到達度と学習能力の差を無視していますので、不適切です。

 

ここで、大切なことは、レディメードでなく、オーダーメードでも、価格がほとんど変わらなくなれば、その時点で、購入者が、本当に自分が必要としているものは何かに、気付く点です。

 

3-2)販売者

 

レディーメードの商品の有能なセールスマンとは、購入者が何を求めているかを、判断して、購入者に向いた商品をすすめる人です。

 

以前は、購入者に負けない商品知識があるセールスマンもいましたが、最近は、セールスマンに、知識は不要になっています。

 

ネット販売の場合には、売れ筋のランキング、購入者が過去に購入した商品のデータをもとに、おすすめがランクされます。

 

3-3)製造者と評価者

 

製造者は、設計図をひいて、製品をつくります。

 

社内では、設計図のレベル、あるいは、試作品のレベルで、比較検討が行なわれます。

 

何枚も設計図を引いて、比較検討をすれば、良い製品ができますが、その費用負担は大きくなります。

 

ここで、手抜きをすると、半分素人の評価者からクレームがつきます。

 

例えば、レストランの評価ページで、採点をする顧客がいます。

 

シェフになる人は、自分の味覚にそれなりの自信があるはずです。

 

でも、顧客の高い評価を得られるのは一部です。

 

また、良い設計ができるためには、良い設計者が必要です。

 

アップルパイのレシピ(設計図)をコピーしてくれば、アップルパイは焼けます。

 

しかし、レシピ本にのっているりんごとは、大きさ、糖度、酸味が異なり、気温と気圧も違います。パイシートをつくる小麦粉と水も同じではありません。

 

その場合には、どこをどのように変化させればよいのでしょうか。

 

恐らく、この質問に、答えられるシェフは少ないと思います。

 

しかし、設計図が、自分で引けるレベルの知識とは、このレベルです。

 

冷凍のアップルパイの素材のセットを購入すれば、何も考えずに、アップルパイが焼けますが、そのスキルは、自動調理器以下になってしまいます。

 

4)まとめ

 

現在の日本人は、前例主義や、カタログ販売にならされて、科学的なデザイン思考ができなくなっています。

 

前例主義やカタログ販売は、科学的に間違った問題解決です。

 

教科書というオーダーメードの教材は、子供の頭のサイズを、無理に教科書のサイズに合わせる方法です。

 

目に見えれは、耐えがたく、みっともないはずです。

 

教科書やレシピの著作権は曖昧です。

 

100%オリジナルな教科書や、100%オリジナルなレシピ本をつくることは不可能です。

 

その結果、かなりへたな設計図が流通しています。

 

あと数年で、AIとDXは、オーダーメードの世界を広げると思われます。

 

そのときには、AIとDXに勝てない、まともなデザイン思考のできない教育では、誰も、見向きもしなくなると思われます。