1)成長の限界とSDGs
1-1)成長の限界
成長の限界は、システムダイナミックス(連立上微分方程式)をつかって、経済発展が、地球の容量を超えることを示しました。
2023年時点で、経済が地球の環境容量を超えているという主張もありますが、よくわからないという判断が実際です。
地球の容量を超えるか否かを判断基準にする方法には、フットプリントがあります。
エネルギーや水などのフットプリントに注目する方法です。
環境容量も、フットプリントも、積分値に注目しています。
積分値に注目する問題点は、いつ行動を起こすべきかというスタート地点が明確に示せない点にあります。
1ー2)SDGs
SDGs(持続可能な開発目標)の「持続可能性」とは、定常状態をイメージします。
環境容量とフットプリントを問題にする場合には、物の生産や消費が継続的に増加する世界です。ここでは、微係数はプラスです。
一方、SDGsの世界では、物の生産や消費は定常状態に達し、微係数はゼロになります。
イントロ部分がついて、イントロでは、増加しますが、その後平衡状態に達する場合を想定することもありますが、ポイントは、イントロ部分ではなく、平衡状態にあります。
2)ボーナスとオーナス
ボーナスとオーナスは、人口の年齢構成について使われます。
これは、微係数がプラスの増加のあとで、微係数がマイナスの減少が起こるイメージです。
アップのあとでは、ダウンが来るという風に言い換える事もできます。
ボーナスとオーナスは、成長の限界と持続可能性に関連していますが、この間の関連が論じられることは少ないです。
成長の限界も、持続可能性も、経済成長が永遠に続くはずはないので、どこかでストップをかける意図があります。
ところが、ストップをかける合理的な方法は、提案されていません。
経済成長は、生産性の向上によってもたらされます。
生産性の向上は、時間当たり、あるいは、労働者一人当たりの生産性を意味します。
生産性が向上するとつくるものの量が増えます。
これが、所得が上がって、貧困問題が解消するメカニズムです。
このため、政府の政策では、経済運営(景気維持)が重要なテーマになります。
人口ボーナス期には、経済成長は比較的容易です。
人口ボーナス期には、貧困問題の解消が進みます。
人口ボーナス期には、ものの生産量が増えて、環境破壊が進みます。
人口ボーナス期には、生産と消費が増加し、持続可能性は問題になりません。
人口オーナス期には、経済成長は困難です。
経済成長のためには、人口増加を相殺するだけの成長率(生産性の向上)を確保する必要があります。
しかし、日本は、生産性が向上しないばかりか、貧困問題によって、人口の減少が加速しています。
人口オーナス期には、貧困問題が進みます。
人口オーナス期には、ものの消費量が減ります。
だからといって、対策をしなければ、環境破壊が進みます。
人口オーナス期には、生産と消費が縮小するため、持続可能性がありません。
3)システムの平衡状態
システムを制御するときに、平衡状態に保つことは、容易ではありません。
ドバイでのCOP28で、12月3日、日本は、交渉の進展を妨げる国に授与される不名誉な「今日の化石賞」を受賞しています。
しかし、日本は、人口が減りますので、CO2の発生量は減ります。
人口減少にともないCO2の発生量を減らす点では、日本は、世界の最先端をいっています。
COPには、交渉によって、経済成長(生産性の向上)を維持したまま、CO2の発生量を抑えられるという暗黙の前提があるように見えます。
しかし、ドイツは、CO2の発生量を抑えた結果、経済成長が鈍化しています。
経済成長が鈍化すれば、貧困問題が拡大します。
これが、発展途上国が、CO2の削減に協力的でない理由です。
日本も、人口が減少して、CO2の発生量は減っていきますが、経済成長はなく、貧困問題が深刻化しています。
人口オーナスは、成長の限界からみれば、理想的な状態です。
人口オーナスは、縮小過程なので、平衡状態としての持続性はありませんが、CO2の量のような環境負荷を減らすという点では、理想的な状態です。
少なくとも、人口ボーナス期に比べれば、環境負荷はこれから更に大きく悪化する可能性は小さいです。
財源は、限られています。貧困問題、つまり、人口減少の解消以上に、CO2の削減が優先するという主張は、多くの発展途上国や、先進国の貧困層には受け入れがたいと思われます。CO2が増えて、災害が増えるとしても、その前に、貧困が原因で、死亡するリスクが高ければ、その政策は支持されません。
人口オーナスを、理想的状態と考える人は少ないと思われます。