(5)時定数と差分
5-1)時定数
原因がx(t)、結果がy(t)の場合で、y(t)=f(x(t))とかける場合には、タイムラグはありません。
y(t)=f(x(tーz0))の場合には、Z0のタイムラグがあります。
Z0は、時定数と呼ばれます。
これは、数式で書けば簡単ですが、文章で書くことは困難です。
6月末に期末試験がある学生が、1か月前から、試験勉強をする場合、Z0は1か月になります。
試験勉強の成果がきっかり1か月遅れで発生することがありません。
学生は、1か月前の5月末に試験勉強をしていると思われますが、通常は、6月中旬にも、試験直線の6月末にも勉強していると思われます。
これらを並べると、畳み込み積分のモデルになります。
モデルは、現実を単純化していますので、畳み込み積分のモデルではなく、単純な時間遅れのモデルでも、必要な精度の予測が出来れば、問題はありません。
ここまでの10行の内容を数学を使わないで、書くことは1冊の本をもってしても、不可能の思われます。
Xが、経済対策であり、Yが、所得の伸びであるとすれば、、数学を使わないで、経済を分析することは不可能です。
人口変化や人材育成は、時定数の大きな現象です。
ここまでの検討では、結果を固定して、原因の時間をずらして検討しています。
5-2)差分
次に、原因を固定して、結果の時間をずらして検討してみます。
これは、先ほどの試験勉強の例で言えば、5月末の試験勉強は、どこに影響するかという問題です。この勉強は、さしあたり6月末の期末試験を目指しています。しかし、その影響は、2学期の成績にも影響を与えるはずです。さらに言えば、大学の入学試験にも影響を与えると思われます。
1原因、1結果モデルでなくなると、現象は複雑で、数式を使わずにモデルを記載することは不可能です。
多くの現象は、多原因・多結果モデルでしか説明できません。
多原因・多結果モデルが今まで使われてこなかった理由は、このモデルを解くことができなかったからです。
つまり、問題を解きやすいように、現実を極端に単純化してきました。
データサイエンスは。ビッグデータをモデル化します。
これは、多原因・多結果モデルを部分的には解くことが出来るようになったためです。
さて、多原因・多結果モデルを解くには、データサイエンスのスキルが必要なことがわかりました。
とはいえ、若干のヒントはあります。
5月末の試験勉強の影響が、6月末の期末試験だけでなく、2学期の成績や、大学の入学試験にも影響を与えていることを分析するには、差分に注目すればよいです。
5月末に試験勉強をしなければ、6月末の期末試験だけでなく、2学期の成績や、大学の入学試験の結果も悪くなると予想できます。
つまり、成績が上昇傾向にあるのか、下降傾向にあるのかをみれば、全体のトレンドからみた5月末に試験勉強がわかります。
5-3)評価関数
因果モデルを考える場合には、結果(評価関数)の設定が重要です。
経済政策の評価は、成長と分配です。
成長は、経済成長であり、賃金の伸びになります。
分配は、最弱者の所得になります。
ジニ係数は、将来の最弱者の所得には関係しません。
ジニ係数は、タイムラグを無視したモデルなので、格差の是正指標にはなりません。
憲法に記載された、健康で文化的な最低限度の生活をおくる権利は、最弱者を対象にしています。
これからすれば、年金の計算は、標準世帯ではなく、最弱者世帯に対して、行う必要があります。
最弱者世帯に、十分な年金がいき渡らないのであれば、賃金を上げる必要があります。
これは、分配の原資をどこが負担すべきかという問題になっています。
130万円の非課税枠の議論は、ぼぼ無駄になることがわかるはずです。