「歴史は繰り返すか」は、統計的因果モデルで解決済みの課題です

1)因果モデルの構成

 

因果モデルは、「原因ー>結果」で記載されます。

 

プログラム言語では、「IF(原因)THEN(結果)」(式1)でコーディングされます。

 

基本は、これだけですが、次の派生形があります。

 

1-1)多原因の場合

 

多原因の場合とは、原因が複数ある場合です。

 

原因=(原因1、原因2,原因3、..)

 

このように考えれば、多原因の場合でも、式1のままで対応することが可能です。

 

更に、次の様に拡張もできます。

 

原因1=(原因11,原因12,原因13,..)

 

原因1を主な要因として、原因2以降を、環境条件と考えることも可能です。

 

パンケーキを焼くには、小麦粉、バター、卵、牛乳、ベーキングパウダーが必要です。

 

これは、次の様に書けます。

 

原因1(材料)=(原因11(小麦粉)、原因12(バター)、原因13(卵)、原因14(牛乳)、原因15(ベーキングパウダー))



調理人が、材料をフライパンで、加熱します。

 

材料は、口に入りますが、フライパンと熱量は、口には入りません。

 

この場合も、以下のようにかけば、式1が使えます。

 

原因2=環境2=(フライパン、加熱、調理人)

 

パンケーキが焼けたという歴史を考えます。

 

再度パンケーキが焼ける(歴史が繰り返す)条件は、(原因1、原因2)、あるいは、(原因1、環境2)になります。

 

パンケーキを焼く歴史は、極めて単純なケースです、

 

戦争が起こる、経済が成長する、企業の売り上げが伸びるといった結果には、パンケーキより、複雑な原因が、かかわっています。

 

これらの原因をリストアップすることは、人間の脳の容量を超えています。

 

とはいえ、原因を一つに絞ることは無謀です。

 

1-2)確率変数

 

変数が確率変数で値が分布を持っている場合が多くあります。

 

原因の変数が確率変数の場合には、結果の変数も確率変数になります。

 

パンケーキの場合、「小麦粉」には、曖昧さがあり、確率変数になります。

 

小麦粉が強力粉であれば、パンケーキが焼け(結果)ます。

 

小麦粉の中に、薄力粉と強力粉が混ざっている場合、パンケーキが焼ける確率は、小麦粉の中の強力粉の確率になります。

 

言葉(オブジェクト、変数名)には、曖昧さがあるため、結果が確率変数になることは、頻繁におこります。

 

1-3)パターンマッチング

 

パンケーキの調理を物理法則または化学法則で記述してモデル化する場合には、材料(原因)と調理法(環境)は区別されます。

 

しかし、IFーTHENで表わされる統計的因果モデルで記述する場合には、材料と調理法の区別はありません。

 

原因がn個からなっている場合、原因は、n次元ベクトルで表現できます。

 

現在の材料と調理法は、n次元ベクトルで表現できます。

 

パンケーキが理想的に焼ける条件も、理想状態のn次元ベクトルで表現できます。

 

理想状態のn次元ベクトルと現在の状態のn次元ベクトルの間の距離が、近ければ、パンケーキが上手く焼ける確率は高くなります。

 

もちろん、小麦粉、プライパンなどの原因毎に重みをつけて、補正する必要があります。

 

こうすれば、因果モデルの推定、つまり、パンケーキの歴史が繰り返す確率が計算できます。

 

以上は、簡単にするために、ベクトルで説明しましたが、現実の原因は、テンソル変数になります。

 

テンソルによる因果モデルは、ネット販売のお薦め商品の推定に使われています。

 

2)高坂正堯氏の新著

 

高坂正堯(こうさか まさたか、1934年ー 1996年)氏は、日本の国際政治学者、社会科学者、思想家で、京都大学法学部教授でした。

 

高坂正堯氏は、1996年になくなっていますので、統計的因果モデル以前の世代です。

 

高坂正堯氏は次のようにいっています。

 

歴史はわれわれにそのまま正確な指針を与えてくれるものではない。それも当然で、「歴史はくり返す」という言葉は正しくないからである。同じようにみえてもどこかがちがう。 

 

 これは、統計的因果モデル以前の世代としては、妥当な表現です。

 

ジム・ロジャーズ氏は、「歴史は全く同じことを繰り返すのではなく、少しずつ形を変えながらも、何かしら似たような形で反復する」といいます。

 

ジム・ロジャーズ氏は、2023年の現在も現役のファンド・マネージャーです。

 

ジム・ロジャーズ氏の周囲には、統計的因果モデルを駆使するアナリストがいます。

 

つまり、ジム・ロジャーズ氏の発言は、高坂正堯氏の発言に似ていますが、背景は大きく異なります。

 

ジム・ロジャーズ氏は、「歴史上、通貨安で、経済を再生させた国はありません。日銀は、金利を、市場に委ねるべきです」といいます。

 

「歴史上、通貨安で、経済を再生させた国はありません」という表現は、無条件否定なので、統計的因果モデルで確率を計算する必要はありません。

 

注意すれば、パターンマッチングをつかった確率計算を使わなくとも、作成できる因果モデルがあります。

 

ロジャーズ氏は、2019年に、「これから1~2年のうちに、リーマンショックを遥かに超える、我々が生きてきた中で最悪の経済危機が起きると予想している。なぜなら、世界中の負債額が史上最悪の数字を記録しているからであり、これに米中貿易戦争も絡んだら、とんでもない大惨事になるだろう」といいました。



ロジャーズ氏の因果モデルは、確率計算をしません。そうなると、「これから1~2年のうちに」の部分の信頼性(根拠)は弱くなります。

 

2019年の課題は、米中貿易戦争でしたが、2023年には、ウクライナ戦争とカザ戦争が起きています。ここ2年に限れば、毎年新しい戦争が起きています。

 

2020年には、パンデミックが発生しました。

 

2023年4月には、アフリカのスーダンで、武力衝突が起きています。10月3日現在、スーダンでは少なくとも540万人の住民が戦闘により避難を余儀なくされています。12月現在、停戦交渉は中断しています。

 

平均すれば、2020年以降毎年1つの戦争状態が発生しています。

 

「歴史は繰り返す」のであれば、2024年も、新たな戦争が起こっても不思議ではありません。

 

「歴史は繰り返すか」は、統計的因果モデルで計算可能な確率の問題です。

 

数学のリテラシーなしで、推論することは不可能に思われます。

 

引用文献

 

「歴史は繰り返す」は正しくない...高坂正堯、30年越しの「新作」から考える「歴史を学ぶ」の本当の効用 2023/12/06  アステイオン

https://www.newsweekjapan.jp/asteion/2023/12/30.php

 

『お金の流れで読む日本と世界の未来』歴史は少しずつ形を変えながら、似たような形で反復する 2019/02/19 堀内 勉

https://honz.jp/articles/-/45106