1.12 カーネマンの二重過程理論ー2030年のヒストリアンとビジョナリスト(新12)

(カーネマンの二重過程理論を考察します)

 

カーネマンは、「ファストアンドスロー」で、思考形態をシステム1とシステム2に分ける

二重過程理論(Dual process theory)を提示してます。人間の脳の思考を、処理が速い「システム1」と、処理の遅い「システム2」の2つのモードに分けています。

 

思考形態を2分類する理論は、カーネマン以前にも、多数あります。

 

カーネマンの2つのシステムの理解にもいろいろな解釈があり、混乱しています。

 

筆者は、次の様に解釈しています。

 

(1) システム2は、時間とエネルギーを膨大に消費します。このため、全ての思考を、システム2で処理することは不可能です。

 

(2) 狩猟生活をしていた時代の人類は、判断の遅れは食料の獲得を逃すので、速い判断ができるシステム1を中心に進化してきたと考えられます。

 

(3) システム1の中心は、過去の手順を繰り返すヒューリスティックです。過去の経験をできるだけ、焼きうつして行動します。狩猟の場合には、ヒューリスティックの採用の正否は、獲物の量で短時間に判定でき、フィードバックしてヒューリスティックが修正されます。農耕でも、農事暦のようなヒューリスティックが採用されますが、タイムラグが大きく、最終的な収量の変動原因が特定できないため、フィードバックによるヒューリスティックの修正は、困難になります。現在のビジネス組織でも、OJTのようなヒューリスティックが採用されていますが、フィードバックによる修正は、更に困難になり、同じ間違いが繰り返されることも稀ではありません。

 

(4) システム1とシステム2の双方のスイッチがONの状態では、システム2は作動しません。システム2は、システム1のスイッチをOFFにしないと作動しません。

 

この中で問題は、(4)です。

 

二重過程理論を、1桁+1桁の足し算は、システム1,2桁x2桁の掛け算は、システム2のように説明してある例が多いです。この説明では、システム1とシステム2の双方のスイッチがONの状態で、1桁+1桁の足し算は、システム1、2桁x2桁の掛け算は、システム2に、自動的に割り振られることになります。

 

つまり、課題の難易度を基準に、課題は、システム1とシステム2に適切に割り振られると考える説明です。この説明で、良ければ、(4)を考える必要はありません。

 

しかし、自動的な割り振りが機能しないので、(4)を考えるべき場面も多いと思います。

 

1)囲碁

 

囲碁には、定石があります。定石は、昔から伝えられてきた部分的に正しい打ち方のことです。初心者の基本定石を覚えつかいます。定石は、ヒューリスティックで、システム1を使う方法です。

 

上級者(有段者、高段者)になると着手の意味をしっかり考えて定石ではない手も打ちます。

 

これは、システム2に相当します。

 

まとめると、

 

入門者:システム1(定石)

上級者:システム2

 

となります。

 

上級者が、着手の意味をしっかり考えた結果の手が、定石になることもありますが、これは、システム2を使っています。

 

2)試験勉強

 

3日後に、期末試験がある場合、数学で、問題の意味を理解して、納得するまで勉強することは不可能です。その方法では、タイムアウトになって、試験の準備が完了しません。

 

こうした場合には、公式を暗記して、問題が出た時に、どれかの公式に当てはめて、解答を作ります。

 

つまり、時間のかかるシステム2を諦めて、システム1で、試験対策を行います。



3)まとめ

 

以上のように、本来は、システム2で対応すべき問題を、時間と労力を節約して、システム1で対応することが多く行われます。

 

囲碁では、初心者を卒業した段階で、定石のシステム1を封鎖して、システム2を使うようにしないと、上達しません。

 

数学も、システム1に頼っていると理解が進みません。試験では、カンニングが問題になることがありますが、それは試験で、システム1を評価するからです。試験で、システム2を評価するのであれば、カンニングは発生しません。これは、辞書も、公式集も、電卓も持ち込みできる試験になります。

 

      

システム1では、過去の手順を繰り返すヒューリスティックは、正否が直ぐにわからない場合には、修正がおこりません。        

 

定石は、部分的に正しい打ち方にすぎませんが、初心者は、定石の間違いを修正できません。   上級者になって、システム2を使うようになって初めて、定石から抜け出せます。

 

ヒューリスティックは、ヒストリーに基づきます。

 

つまり、

 

システム1=>ヒューリスティックで処理が速い=>ヒストリー=>ヒストリアン

 

の対応があります。

 

ここで、システム2の思考処理の結果は、ヒストリーから、独立しいるので、ビジョンと呼ぶことにします。

 

そうすると、

 

システム2=>処理が遅い=>ビジョン=>ビジョナリスト

 

の対応が考えられます。

これは、囲碁の上級者を考えれば納得できます。上級者は、可能性のある手筋を数手先まで予測して、その手筋の中から、ベストと思われる手筋を抽出します。これは、時間とエネルギーを消耗するシステム2そのものです。

 

ビジョンは、上級者にならないと作ることが難しそうです。

囲碁に見るように上級者になるには、トレーニングが必要です。

 

次回は、この辺りの検討を進めます。