ニュートン力学の論理

ニュートン力学は、A1A2B論理です)

 

1)A1A2B論理

 

A1A2B論理は筆者の造語です。

 

ラッセルの七面鳥問題と同じ内容ですが、名称から内容が推測しやすくなるので、最近は、A1A2B論理と呼んでいます。

 

因果モデルで、原因がA、結果がBの場合を、AB論理を呼ぶことします。

 

これは、科学的トレーニングをうけていない人間が多用する論理です。

 

ブログでは、「アクセス数を稼げる記事のタイトルの付け方」に、「数字を入れなさい」というアドバイスがあります。「~を解決する5つの方法」、「私が~する3つの理由」などです。更に、数が減ると「~をするたった一つの理由」、「~になるたった一つの理由」に行きつきます。

 

これは典型的な、AB論理です。

 

因果モデルで、原因がA1とA2、結果がBの場合を、A1A2B論理を呼ぶことします。

 

拡張すれば、原因がA1A2AA3で、結果がBの場合を、A1A2A3B論理などとAの数を増やすことは可能です。

 

しかし、「~をするたった一つの理由」が目を引くように、認知バイアスは、AB論理とA1A2B論理の間にあるので、認知バイアスを避けるには、A1A2B論理を考えれば十分です。これは、数学の行列を学習するときに、2X2行列が理解できれば、行列のサイズが大きくなっても、理解できることに似ています。

 

AB論理は簡単ですが、現実の世の中で、AB論理の因果律が成立する現象は皆無です。

 

問題があったときに、現象は、AB論理ではなく、A1A2B論理ではないかと考えないと、問題解決に、必ず失敗します。

 

例えば、少子化対策に、出産の助成金を増やします。ここでは、出産費用負担(原因A)が出産数の現象(結果B)につながるというAB論理が使われています。

 

論理的思考のレベルは、「~をするたった一つの理由」と同じレベルです。

 

これは筆者の仮説ですが、人文的文化と科学的文化(理論科学的文化)のギャップ、言い換えれば、経験科学と理論科学のギャップは、AB論理とA1A2B論理のギャップで説明できると考えます。

 

この仮説は、経験則なので、確信はありませんが、かなりの現象を説明できます。

 

例えば、政府の少子化対策は、科学的文化で考えれば、因果律を無視しているので、理解不能です。人文的文化で作成された政府の少子化対策は、A1A2B論理を使うこと理解が困難ですが、AB論理が主に用いられると考えれば、政策が出て来る背景は理解できます。

 

言い換えれば、問題解決にならない政策が繰り返される理由が見つかります。

 

こうした視点で見れば、マスコミ報道のうちのAB論理の記事は、読むに値しないことがわかります。

 

2)ニュートン力学

 

万有引力ウィキペディア)には次の様に書かれています。(筆者の要約)

 

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ニュートンは、太陽を公転する地球の運動や木星の衛星の運動を統一して説明することを試み、ケプラーの法則に、運動方程式を適用することで、万有引力の法則(逆2乗の法則)が成立することを発見した。これは、「2つの物体の間には、物体の質量に比例し、2物体間の距離の2乗に反比例する引力が作用する」法則である。力は、瞬時すなわち無限大の速度で伝わると考えた。

 

万有引力の大きさ F は、物体の質量をMとm 、物体間の距離をr、Gを万有引力定数と呼ばれる比例定数とすれば、次式になる。

 

    F = G ×  M × m /  ( r × r ) 

 

==>

 

万有引力は、力を、無限大の速度で伝わると仮定していますので、原因と結果の間にタイムラグはなくなってしまいます。つまり、万有引力は、因果モデルとして解釈しづらい側面があります。

 

とりあえず、上式の左辺を結果、右辺を原因を考えると、質量M、質量m、距離rと原因が3つありますので、上式はA1A2A3B論理です。

学校教育で、ニュートン力学を学ぶときには、最初に、次の3つの運動の法則が出てきます。

 

第1法則(慣性の法則

第2法則(ニュートン運動方程式

第3法則(作用・反作用の法則)

 

このうち、数式の因果モデルで、表現できるのは、第2法則(ニュートン運動方程式)だけです。

 

第1法則(慣性の法則)と第3法則(作用・反作用の法則)は、因果モデルの法則にはなっていません。

 

第2法則は、「質点の加速度a は、そのとき質点に作用する力Fに比例し、質点の質量mに反比例する」で、次式になります。

 

a = F / m

 

力学では、原因と結果の区別ができないので、運動方程式は次式に変形できます。

 

F = m × a

 

左辺の力Fを結果、右辺の質量mと 加速度aを原因と見なせば、これは、A1A2B論理になります。

 

以上のように、もっとも単純なニュートン力学でも、AB論理ではなく、A1A2B論理が使われています。

 

なお、加速度aは時間微分なので、ここから、ニュートン運動方程式を活用するには、微積分を駆使する必要が出てきます。

 

3)経験科学の課題

 

経験科学では、何か問題が発生したときに、現場に行って状況を記載する方法を採ります。

 

推理小説で言えば、殺人事件があると、ホームズのような探偵が現場にいって、データをあつめて、犯人を割り出す方法です。

 

推理小説は、犯人(原因)と、殺人(結果)から構成されます。クリスティは、「オリエント急行殺人事件」や「そして誰もいなくなった」で、この構成に、クレームを付けていますが、例外です。

 

つまり、例外を除けば、推理小説は、AB論理が成立するという前提で書かれています。

 

問題が発生したときに、現場に行けば、原因の候補が複数見つかります。一方では、既に消えてしまった原因もあります。地震津波の被害調査では、原因はわかっていますが、調査時点では、現場には、原因はなくなっていますので、痕跡から、原因を推定することになります。この場合は、物理現象なので、因果モデルが事前にわかっているので、原因が推定できる訳です。因果モデルが不明で、原因が不明確な場合には、原因を見落とすリスクが高くなります。

 

こうした失敗の積み重ねの中で、統計学では、事前に因果モデルを推定してから調査・実験を行うルールになっています。これは、統計モデルの推定値が実測値区に合わないという検証の成績を反映しています。

 

経験科学の問題点は、検証が行われないため、間違った推論が淘汰されない点にあります。

 

4)AB論理と数学

 

既に解決済みの問題を除く、ほとんど全ての問題は、AB論理ではなく、A1A2B論理を使うべきです。

 

しかし、現状は、圧倒的なAB論理の蔓延です。

 

どうして、A1A2B論理が広まらないのでしょうか。

 

現実の因果律は複雑なので、A1A2B論理でも不十分で、A1A2A3B論理や、A1A2A3A4論理を使うべき場合も多くあります。

 

しかし、統計学のノウハウでは、測定値にノイズが含まれている場合には、複雑なモデルは効果を発揮できません。

 

どこまで単純にすべきかは、ノイズの量によりますので、一概にはいえませんが、AB論理では、1つ以外の原因は全て見逃してしまいますので、A1B1論理から始めるべきです。

 

筆者は、AB論理とA1A2B論理のあいだにあるギャップは、数学であると考えます。

 

A1A2論理の場合には、A1A2の寄与の仕方を分けて考える必要があります。

 

「F = m × a」を思いだして下さい。これは、非常に簡単な数式です。

 

しかし、原因mと原因aが結果Fに関与する仕方を、文章で表現すればトンデモないことになります。

 

文章は、A1A2B論理程度の単純なモデルも記載することができないのです。