黄金のガチョウの死(2)円安とガチョウ(改訂版)

(2)円安とガチョウ

 

2-1)エンジニアの存在

 

日本経済にとって、黄金のガチョウとは、優秀なエンジニアであり、優秀な労働者です。

 

経済発展の第1は、生産性の向上を図れるエンジニアの存在です。

 

2023年には、NTTデータなどの若いITエンジニアが、GAFAに転職してます。

 

優秀なITエンジニアがいなくなるのは、黄金の卵を生むガチョウがいなくなる黄金のガチョウの死を意味します。

 

一方では、マイナンバーカードに見られるように、ITベンダーは、昔ながらのシステムを孫請けで作っています。

 

つまり、ITベンダーには、まともな仕事はありません。

 

マイナンバーカードの議論を聞いていれば、ITエンジニアは、出来るだけ早く転職しないとまずいと感じるはずです。

 

トラック、バス、タクシーの運転手がいない、ホテルの従業員がいない人手不足の問題があるといいます。

 

労働市場があれば、運転手の賃金は、上がります。

 

英国ではブレグジットやコロナ禍に伴い、2021年に、大型トラックのドライバーが「歴史的な」人手不足に陥りました。イギリスを代表する高級スーパーマーケットのウェイトローズは、大型トラックのドライバーに上級管理職と同程度の給与を提供しました。

 

英国では、東欧から低賃金労働者を受け入れてきた産業では、ブレグジット新型コロナウイルス感染症の大流行が相俟って移民労働者の流入が閉ざされ、国内の労働力不足が深刻化しています。

 

人手不足を受けて、賃金が上がっています。

 

日本の管理職はポストで給与をもらっています。

 

中には、窓際族のように、仕事をしない人も多くいます。

 

大型トラックのドライバーが、管理職より給与が高い理由は、大型トラックのドライバーの方が、管理職より大きな利益を生み出すからです。

 

ここでは、大型トラックのドライバーが、黄金のガチョウになっています。

 

これが、ジョブ型雇用であり、労働市場です。

 

大型トラックのドライバーの給与が上がれば、生産性を上げてもらわないと、コストがかさみますので、トラック運送のDXが極限まで進みます。

 

大型トラックのドライバーの給与が高ければ、DXにかなりのコストをかけても元がとれます。

 

日本の人手不足は、給与が安いことが原因ですから、給与をあげて、DXを進めれば問題は解消します。

 

バスの運転手の給与を上げて、自治体の持ち出しを減らせば、パス料金をあげる必要があります。

 

それでも、バスがなくなるよりは、マシです。

 

バスの乗車券を1年分の前払いの回数券にして、収入を確保する方法もあります。

 

この場合、観光客などの1度限りの乗客の料金を、回数券の2倍程度の設定にすることも考えられます。

 

ライドシェアも、もちろん有効です。

 

人手不足になった原因は、年功型組織を維持するために、労働市場を破壊したことが原因です。

 

正規雇用を、安い正規雇用の代りに使いました。

 

その結果、スキリングしても給与が増えなくなりました。

 

安い賃金で人を雇えれば、DXを進める必要がなくなりました。

 

正規雇用の人の賃金を正規雇用と同じレベルにして、なおかつ、スキルを評価して、スキルに応じたジョブ型雇用をしていれば、非正規雇用の人の中から、黄金のガチョウが生まれたはずです。

 

ジェンダー差別をせずに、女性にも、男性と同じ給与を支払い、昇格のチャンスを与えていれば、管理職(黄金のガチョウ)になった女性もいたはずです。

 

これは、過去の20年の間に欧米で起こったことです。

 

日本では、黄金のガチョウを殺してしまったのですから、人手不足になるのはあたりまえです。

 

円安で、企業の業績は過去最高を更新しています。

 

しかし、企業によっては、人手不足で、生産不足の製品があります。

 

自動車は、2021年末から、納期が異常に長くなり、2年経っても解消する気配はありません。

 

これは、生産システムが崩壊しているからです。

 

ものをつくる黄金のガチョウは死んでいます。

 

一方で、自動車メーカーの利益は過去最高です。

 

ものをまともに作って売れないにもかかわらず、利益が過去最高になるのは異常です。

 

これは、円安バブルと思われます。

 

ガチョウがいなくなっているので、そのつけが出てくるはずです。

 

人手不足の企業に免税処置をしても、ガチョウが増える訳ではありまでん。

 

2-2)大学の現状

 

日本のガチョウの中核は、エンジニアです。

 

少子化で、18歳人口は半減しています。

 

大学の定員は逆に増えています。

 

選ばなければ、勉強せずに、大学に入れます。

 

早稲田大学では、推薦入試やAO入試の割合がすでに5割強程度になっています。

 

学力試験の受験をする学生は、定員の半分程度です。

 

早稲田大は2021年に政治経済学部が共通テストの数学I・Aを必須にするなど全学で入試改革を実施した結果、受験生が、前年比約12%減の9万1659人と、10万人を一挙に割り込んでいます。

 

とはいえ、早稲田の倍率(志願者数÷合格者数)は5倍を超えています。一方で、関西の難関国立大の併願先である同志社大などは3倍を割っています。

 

一般に、倍率が3倍を切ると、入学試験の学力の識別率が低くなります。

 

倍率2倍をイメージすれば、次になります。

成績上位20%は、何度試験をうけてもほぼ確実に合格します。

成績下位20%は、何度試験をうけてもほぼ確実に不合格になります。

成績が中位の60%の受験生は、2回受験すれば、1回は合格します。

 

高専の卒業生のうち、大学に編入する学生は2021年度で24%います。国立大学の工学部に、高専から毎年750人ほどが編入しています。各国立大学は、高専からの編入生を学年定員の3%から4%受け入れています。2021年度の編入先では、東京大学に18人、東京工業大学に26人、九州大学に57人など、難関大学も含まれています。

 

早稲田大は、2024年4月の入学生から、理工3学部で、全国の高等専門学校(以下、高専)を対象とした指定校推薦による編入制度を導入します。

 

高専は中学卒業後の15歳で入学し、5年で卒業することから、編入は3年次からという大学が多いです。一方で、難関大学では2年次からの編入になる場合もあり、早稲田大も2年次の編入を計画しています。

 

早稲田大学の例を見れば、まともなエンジニアになれそうな学生の数は激減しています。

 

エンジニア候補の学生は取り合いになっています。

 

しかし、ここには、因果モデルがありません。

 

企業は、ジョブ型雇用をしないので、スキルがあっても、給与が増えず、学生は勉強しません。

 

アメリカや中国では、多数のITエンジアが活躍しています。

 

優秀なITエンジニアの給与は、医師より高いです。

 

早稲田大が、2021年に政治経済学部が共通テストの数学I・Aを必須にするすると受験生が激減しました。

 

これは、受験生が、数学I・Aができなくとも、給与に反映されないと考えていることを意味します。

 

数学I・Aができなくとも、給与に反映されない」と考えているのは、受験生だけではありません。

 

数学I・Aができれば、給与が上がる」のは、スキルが給与に反映されるジョブ型雇用の世界です。

 

経団連は、2024年も、年功型雇用を維持して、春闘を続けるといっています。

 

つまり、大学で、エンジニアのスキルを習得しても、経団連は、給与に反映させないといっています。

 

過去30年間の間に、コンピュータサイエンスとデータサイエンスは、劇的に拡大しました。1990年と2023年の書店の売り場に占めるコンピュータサイエンスとデータサイエンスの割合を比べれば、それは、一目瞭然です。しかも、それは、和書に限定されています。

 

コンピュータサイエンスとデータサイエンスの進歩のスピードが余りに早く、改訂版が頻繁にでること、日本のエンジニアの数が激減してしまったこともあり、現在では、90%以上の書籍は、洋書でしか入手できません。

 

DXが進まない原因は、政府と経団連が、DXより、年功型雇用の維持を優先したいといっている点にあります。

 

エンジニア候補の学生は、大学が必死になって人材ハンティングをしても、増えることはありません。

 

これらを勘案すると、18歳人口の減少比率より、エンジニアのガチョウの減少比率がより高くなっていると思われます。良質なガチョウの数は、1990年の8分の1程度と思われます。

 

これは、新聞やWEBの記事を見ればわかります。

 

数式やプログラムコードが書かれた記事は皆無です。

 

あるソフトがAIを使っている場合、どのようなAIを使っているかは、数式やコード梨には理解できません。それがないので、AI関連の記事は、全て、「AIを使って」で済まされています。

 

エマニュエル・トッド氏は、良質なエンジニアの数が、国力を決めるといいます。

 

これは、ガチョウの数が国力を決めると言い換えることも出来ます。

 

日本の国力は、1990年の8分の1程度になっているはずです。

 

その数少ないガチョウのうち、特別に優秀なガチョウは、日本では、働き場がないので、海外を目指しています。



ガチョウがいなくなった日本で、土地バブルの崩壊と同じように、円安バブルが崩壊すれば、これから、バブルのツケを払っていくことになると思われます。

 

参考文献

 

早稲田大が「優秀な高専生」の確保に本格参入 2023/05/29 日経ビジネス 田中 圭太郎

https://business.nikkei.com/atcl/author/19/082300366/