エビデンス革命の嵐の後

1)エビデンス革命の波及状況

 

エビデンス革命は、疫学・医学では、主流になりました。

 

また、データサイエンスの基礎理論のひとつになっていて、情報科学でも、主流になっています。ここでは、疫学に比べると、より広い裾野をもっています。

 

この2つの分野にまたがる認知科学でも、エビデンス革命は進んでいます。

 

その次は、混乱していますが、経済学、経営学、心理学(意思決定)だろうと思います。

 

エビデンスに基づく政策に係る、政治学、法学は、自然科学の基礎がないため更に、混乱しています。

 

ある、弁護士の人は、エビデンスに基づく政策は、数ある政策決定法のひとつに過ぎないと評価しています。

 

2)嵐のあと

 

エビデンス革命を数ある手法のひとつとみなすことは過小評価です。

 

医学では、薬の処方は、エビデンスに基づきます。

 

2023年現在処方されている薬のうち、エビデンスのある薬は、10%程度に過ぎません。

 

90%の薬の効果はエビデンスで検証されていません。

 

昔から使われているという経験科学に基づくもの、胃の炎症に効果があったので、他の消化器官でも効果があると類推して使っているものなどがあります。類推して使っている薬は、見たところ効いているようですが、ランダム化試験がなされていませんので、エビデンスはありません。

 

エビデンスのない90%の薬について、エビデンスがとられて、薬が効果がないという判定が出れば、それまでの効能は否定されます。

 

つまり、エビデンス革命が、それまでの学説を否定すれば、古い学説はなくなります。

 

研究者が、何年もかけて努力した学説でも、一瞬にしてなくなります。

 

エビデンス以前に、因果モデルの間違った使用も多くあります。経営学の論文では、過去の論文の60%以上に、因果モデルの間違いがあると指摘している人もいます。こうした間違いは、帰納を検証に使う場面で多発しています。

エビデンス革命が、それまでの学説を否定すれば、古い学説はなくなる」ということは、個別の論文が否定されるだけでなく、あるグループの論文がまとまって、否定される可能性を示しています。嵐の被害が大きな場合には、消滅する学問分野がでてきます。

 

エビデンス革命の嵐は、まだ、始まったばかりです。

 

嵐が通り過ぎたあとで、何が残っているかは、誰にもわかりません。

 

現時点で、はっきりしていることは、既にエビデンス革命が通り過ぎた分野を除けば、影響を受けない分野はないということです。

 

例えば、教育心理学では、ピアジェ発達心理学が使われていますが、ピアジェの研究方法は、エビデンスベースではなく、問題も多いです。とはいえ、発達心理学は、エビデンスに基づく検証が可能です。

 

教養や哲学は、嵐の影響をもろにかぶります。

 

エビデンスに基づく検証が不可能な形而上学は科学ではありません。形而上学としての哲学は、存在価値がなくなります。これは、パースが予測したシナリオです。パースは、検証不可能な哲学を捨てて、哲学的伝統に従いながら、検証可能なブリーフの固定化法として、プラグマティズムを提案しました。

 

エビデンス革命の嵐は、既に、来ています。

 

嵐の前と嵐の後では、世界は変わってしまいます。

 

3)生成AIとエビデンス革命

 

生成AIは、データサイエンスの理論に基づいて構築されています。

 

生成AIは、データサイエンス革命そのものではありませんが、データサイエンス革命を反映しています。

 

生成AIが、現在の仕事に与える影響を、帰納で分析する人が多くいます。

 

しかし、筆者には、帰納による分析は無駄に思われます。

 

生成AIが行う推論は、帰納だけではありません。アブダプションも取り入れられています。完全では、ありませんが、エビデンスに基づく検証を取り入れることも可能です。

 

つまり、帰納で問題を考える人より、生成AIの思考の方がはるかに柔軟です。

 

人間が、生成AIより賢いと考えることは、形而上学です。

 

自動翻訳のスループットは人間を越えています。

 

猫理論でいえば、「ねすみをとる(生産性を向上させる)ことができれば、白猫(人間)も、黒猫(生成AI)も、良い猫である」といえます。

 

このときに、黒猫を排除すれば、「ねすみをとら(生産性を向上させ)」なくなりますので、経済発展の機会を失うことになります。

 

タクシー・ハイヤー業界は、ライドシェアに反対していて、与党の議員の反対も多くなっています。これは、黒猫を排除する選択ですから、日本は、貧しくなります。

 

生成AIが弁護士などの知的労働者の仕事を奪うと予測する人もいます。

 

生成AI(黒猫)は弁護士(白猫)の代りができます。

 

生成AI(黒猫)の単独の利用を認めないことで、ライドシェアと同じように、生成AI(黒猫)を排除するのが、現在のガイドラインです。

 

弁護士の失業をさけるために、生成AI(黒猫)の単独利用をを排除する選択です。

 

これは、猫理論を無視していますので、日本はどんどん貧しくなります。

 

生成AIに仕事を奪われることは悪夢かも知れませんが、日本がどんどん貧しくなって、食料を輸入する外貨すら稼げなくなれば、それは、失業以上の悪夢になります。

 

日本以外の国は、猫理論(科学の方法)をつかって、GDPを伸ばしています。日本だけが、猫理論を無視して、利権の保全を優先して、どんどん貧しくなっています。

 

これは、過去30年の労働生産性やDXのデータを見ればあきらかです。

 

過去30年間、生産性を無視してきた日本が、今度方向転換すると期待できる根拠はありません。

 

背景には、科学的文化の欠如があります。

 

科学的文化が、欠如したまま、データサイエンス革命の嵐を乗り切れるか、不明です。

 

そもそも、科学的文化が欠如しているので、嵐が来ていることが認識されていません。