ビッグモーターと日本企業の経営

 

1)最近の動向



 7月21日に、ビッグモーターは、読売新聞の取材に対し、車両修理の新規受け付けを停止したと明らかにしました。

 

7月21日の時事通信は、次のように伝えてます。(筆者の要約)

 

 

ビッグモーターは「CM中止を決め、各局に順次連絡している」と時事通信の取材に説明しました。エフエム東京の編成部は18日に中止の通知が届き、19日からCMの放送を取りやめたことを明らかにしました。

 

 ビッグモーターが18日公表した特別調査委員会の報告書によると、不正は北海道、東京都、京都府、福岡県など全国の約30拠点で発覚しました。車体にわざと傷を付けたり、必要のない修理を行ったりする手口で修理代を水増しし、損害保険会社から保険金を過大に受け取っていました。こうした不正は、2020年以前から行われていた疑いがあります。

 

兼重宏行社長ら経営幹部は調査委に対し、「不適切な行為が行われていることを全く知らなかった」と弁明しましたが、社長と副社長は22年1月、従業員から「不適切な行為が横行している」との内部告発を受けていました。調査委は「特段の調査も行わないまま、告発をもみ消した」と非難し、内部通報制度の不備を指摘しています。 

 

 

ビッグモーターが不正をした場合、その立証が課題になりますが、7月18日の時点で、ビッグモーターは不正を認めています。

 

これは、刑法でいえば、加害者が犯罪を求める発言をしたので、検察が操作を開始した手順になります。

 

特別調査委員会は、ビッグモーターの説明によれば、2023年1月30日に、青沼隆之弁護士を委員長に設立されています。なお、他のメンバーは、1月30日には公開されていませんが、7月18日の特別調査委員会の報告書を見ると、大谷晃大氏と正木道夫氏です。

 

特別調査委員会の報告書は、ビッグモーターが、損保ジャパン、三井住友海上東京海上日動火災の3社から、連名による「自動車修理に関する実態調査のお願い」の要請文書を受理した2022年6月6日を「基準日」として扱っています。

これから要請文書を上けてから、特別調査委員会が設置されるまで、7か月と24日が過ぎたことがわかります。

 

ビッグモーターによる特別調査委員会の説明は以下です。

 

 

当社は、先般の一部マスコミ報道における自動車保険金請求に関して、公正で適正な調査を行うため、当社と利害関係を有しない外部専門家から構成される特別調査委員会を設置いたしましたのでお知らせいたします。

 

特別調査委員会

 委員長 青沼隆之 弁護士 (シティユーワ法律事務所)

 

当社は、特別調査委員会の調査に全面的に協力してまいります。

関係者の皆さまに多⼤なるご不安・ご⼼配をお掛けしますことを⼼よりお詫び申し上げます。

 

 

7月21日の毎日新聞は次のように伝えています。(筆者要約)

 

 

斉藤鉄夫国土交通相は21日の閣議後記者会見で、中古車販売大手ビッグモーター(東京)が事故車両の修理代を水増ししていたとされる問題を巡り、同社からのヒアリングを近日中に国交省内で実施する意向を示した。

 

鈴木俊一金融担当相は21日、同社の保険金不正請求問題に関連し、金融庁が事実関係を確認中であることを明らかにした。同日の閣議後の記者会見で「悪質な問題が認められた場合は法令に基づいて適切に対応する」と強調。「事実であれば許されない」とも述べた。

 

 ビッグモーターは中古車を購入した顧客に損害保険の募集をしており、保険業法上の保険代理店にあたる。違反があった場合は所管官庁の金融庁が同法に基づいて対応する。

 

 

金融庁は、所管官庁ですが、報告書を鵜呑みにしているだけで、独自に調査できる組織はありません。あきまで、文書主義にすぎません。



2)経緯

 

中村 正毅氏によると、2022年6月6日を「基準日」以降、損保ジャパンは、不正請求の全容解明という必要不可欠な調査すらせずに、抜け駆けするかのような格好で7月25日から、ビッグモーターへの事故車(入庫)紹介の再開に早々に踏み切っっています。板金事業における水増し請求といった不祥事案は、保険業法上の報告義務がありません。中村 正毅氏は、損保ジャパンは監督当局に対する任意の報告であることを逆手に取り、最小限の説明で幕引きを図ったと考えています。

 

その原因はよくわかりませんが、中村 正毅氏は、2022年4月、損保ジャパンの白川儀一社長は、37人のごぼう抜きで大手金融機関では最年少の社長になっ点が関係していると推測しています。

 

7月25日の事故車(入庫)紹介の再開について、「業界を代表する損保としてあり得ない対応だ」。年間200億円近い保険料収入があり、大型保険代理店でもあるビッグモーターにおもねるような対応をとった損保ジャパンには、ほかの大手損保から強烈な反発の声が上がりました。

 

中村 正毅氏は、次の様に説明しています。

 

 

慌てた損保ジャパンは9月中旬、取引を再度中断したが、そうした稚拙な対応は「ビッグモーターとの間で、水増し請求を看過すると裏で握っていたのではないか」(前出の大手損保役員)との疑念を生むことになった。

 

損保ジャパンは以前から社員をビッグモーターに出向させており、現在は5人の出向者がいる。出向先は不正調査を担う部署(BPテクニカルサポート部)などだ。その目的について、損保ジャパンは現在、再発防止策の浸透やコンプライアンス(法令順守)体制の構築、板金部門の品質向上だとする。

 

だが、水増し請求問題の適正化に向けて出向者たちは果たして有効に機能していたのだろうか。むしろ「この数カ月間、事態が進展せず膠着していたのは、彼ら(損保ジャパンからの出向者)が寝転がっていたからではないのか」(大手損保幹部)と勘繰る声も上がる。

 

 

要するに、損保ジャパンは、ビッグモーターの利害関係者であったため、不正を見逃した可能性があります。



私鉄大手・東急グループをめぐる大手損害保険会社の価格カルテル問題で、金融庁が大手4社に対して保険業法に基づく報告徴求命令を出しており、2023年6月23日までに各社が経緯や調査の状況などについて報告しています。

 

その報告の中で、東京海上日動火災保険三井住友海上火災保険あいおいニッセイ同和損害保険の3社は、東急グループ向けの火災保険と賠償責任保険について保険料の調整行為(価格カルテル)があったとしていますが、損保ジャパンはカルテルを認めなかったようです。

 

板金などの価格は、市場価格ではなく、大手損害保険会社の指値で決まっているとも言われています。つまり、市場原理が働いていないことになります。

 

2022年12月15日、日本損害保険協会の会長として定例会見に臨んだ損保ジャパンの白川儀一社長は、ビッグモーターによる保険金水増し請求問題について「保険会社としてお客様や社会からの信頼は第一であり、不適切な保険金請求に対しては、毅然として厳正な対処をしていく」と述べました。




中村 正毅氏は、次の様に、特別調査委員会は、保険会社の圧力であったと説明しています。

 

 

ビッグモーター社はこれまで、水増し請求問題に対する自主調査の結果として、「(板金)工場と見積り作成部署との連携不足や、作業員のミスなどにより一部で誤った保険金請求が行われている」「意図的なものでないことを確認している」として、あくまで“過失”であるとの主張を繰り返してきた。

 

ところが2022年12月以降、ビッグモーターはそれまでの主張を突如として翻し、「事故修理時の保険金請求において複数の工場で重大な疑義事案が生じている可能性が認められた」として、取引のある大手損害保険各社に対して、弁護士を入れた第三者調査チームを設置することを提示してきたのだ。



三者調査の実施は、ビッグモーターが2022年夏に実施した自主調査が杜撰なものだったと事実上認めることになる。それゆえ、経営陣の抵抗感は強かったはずだ。にもかかわらず第三者調査に踏み切ったのは、日増しに強まる損保からの圧力をかわしきれなかったからだろう。

 

一部の損保は今年の夏以降、ビッグモーターの「過失主張」に納得せず、工場作業員へのヒアリングといった独自の調査を実施。その中で複数の工場において「工場長などから(水増し請求を)指示された」との証言を得ていた。さらにその事実をビッグモーター側に突き付け、第三者調査の実施を粘り強く求めていたのだ。

 

 

3)マスコミの対応

 

下矢 一良氏がマスコミの対応を整理しています。(筆者の要約)

 

 

2016年12月。産経新聞は「自動車保険契約の目標額を下回った販売店の店長が、上回った店長に現金を支払う『慣行』があること」、また翌年2月には続報として「この『慣行』は収益性の高い保険手数料を獲得するために兼重宏行社長の強いリーダーシップの下、行われていた」と報じました。



2023年3月。朝日新聞熊本放送熊本日日新聞がそろって「車検で必要な検査の一部を実施せず不正合格させたとして、九州運輸局が熊本浜線店の民間車検場の指定を取り消した」ことを報じました。

 

2023年5月5日号のFRIDAYは、「客のタイヤにネジを突き立てパンクさせて、工賃を請求」「高級タイヤに取り替えたとウソをついて安価なタイヤを使い、その差額を利益にしていた」「車検を行っていたのは無資格のスタッフ」などの衝撃的なエピソードの数々を報じました。

 

 

下矢 一良氏は、ビッグモーターの不正報道の「完全黙殺」は成功したと考え、その理由を次のように説明しています。

 

第1に、ビッグモーターが「上場企業ではない」ことです。

 

第2に、「完全黙殺」によってマスコミの動きを最小限に封じ込めることに成功しているからです。

 

 

後者については、次の様に補足しています。

 

「マスコミ報道の原則」とは「自社取材で『事実』と確認できたものしか報じることはできない」というものです。

 

週刊誌の報道は、冒頭に「週刊文春によると」といった「但し書き」が入れば、『その記事が掲載された週刊誌が発売されたこと』は事実」なので「内容の真偽」には踏み込まず「記事が世に出た」ことを、「事実」として報じることができます。「週刊誌が報じた『内容そのもの』が事実かどうかは、『当社としては』定かではなくてもよいと考えます。

 

「マスコミ報道の原則」とは、他社の記事のバックをとる必要がないことになります。

 

これでは、出典を書けば、フェイクニュースを掲載しても、責任はとらなくてよいことになります。

 

CNN、BBC、ロイターでは、情報の確認をかならず取ります。確認がとれない場合には、XXはZZと報道しているが、確認はとれていないとコメントを付けます。

 

なので、日本の「マスコミ報道の原則」は、国際的には通用しません。

 

「謝罪コメントを出した」場合には、日本の「マスコミ報道の原則」では、「謝罪コメントを出した」ことが、「事実」なので、コメントの内容の正しさにかかわらず、そのまま報じることができることになります。

 

これから、下矢 一良氏は、「完全黙殺」は、成功したといいます。

 

4)まとめ

 

ビッグモーター問題の中心は、ビッグモーターが不正をしたことではなく、何故、ビッグモータが不正ができたかということです。

 

アブダプションで考えれば、ビッグモーターの不正は結果ですので、その原因は何かが問題になります。

 

以上の情報からば、次の3点は、原因である可能性が高いと考えられます。

 

(1)自動車修理業界と保険業界には、市場経済が働いていない。

 

談合や天下りが、相互に利害関係者を作り出していていいる。

 

(2)原因を無視した結果主義が横行している。

 

ビッグモーターでは、保険料収入をを含めた売り上げが全てであったとも言われています。

 

結果がすべてであるという判定基準は、科学の方法に反します。なぜなら、そこには、因果モデルがなく、短期的な収益の追求が全てになるからです。この基準では、DXや、リススキリングが阻害されます。

 

因果モデルで考えれば、売り上げの変化は、原因別に分離され評価されるべきです。

 

バブル経済のとき、あるいは円安の時には、企業の見かけの利益は大きくなりますが、企業の実力は伴っていません。結果の売り上げ像は、実体を伴わないこともあるので、原因毎に分離されて評価される必要があります。

 

(3)日本型の「マスコミ報道の原則」

 

これは、フェイクニュースを乱発します。




引用文献

 

2023.01.30 特別調査委員会設置のお知らせ 2023/01/30 ビッグモーター

https://www.bigmotor.co.jp/lib/news/news_list.php?id=657

 

2023.07.18 当社板金部門における不適切な請求問題に関するお詫びとご報告 2023/07/18 ビッグモーター

https://www.bigmotor.co.jp/lib/news/news_list.php?id=694

 

ビッグモーター、国交省が近日中に聴取 事業場立ち入りも検討 2023/07/21 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/14a350bca9cd2c8dc2ee36b104200f45e4dd2576

 

ビッグモーターCM中止 法令違反の疑い、国交省聴取へ 2023/07/21 時事通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/60b3d5f62bfdef5b93ebe9d2bd09569349e203b0

 

ビッグモーター、車両修理の受け付けを停止 2023/07/21 読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/c1bafcfb50e9f7ce5da2169bdacde9205ff54177



ビッグモーター不正報道「完全黙殺」成功の諸事情 メディア追求かわすも…国が動く「もうひと押し」 2023/05/10 東洋経済 下矢 一良

https://toyokeizai.net/articles/-/640023

 

ビッグモーター、保険金不正の真相究明に新展開 2022/12/16 東洋経済 中村 正毅

https://toyokeizai.net/articles/-/640023



損保ジャパン「不正請求被害」も取引再開の深層  2022/10//01 東洋経済 中村 正毅

https://toyokeizai.net/articles/-/622839

 

保険の「不正請求疑惑」めぐり大手損保が大揺れ 2022/08//29 東洋経済 中村 正毅

https://toyokeizai.net/articles/-/614505

 

保険料カルテルで露呈した「損保ジャパンの矛盾」 2022/07//01 東洋経済 中村 正毅

https://toyokeizai.net/articles/-/683633