ダブルスタンダードの実現可能性~成長と分配の経済学(9)

1)ダブルスタンダードとは

 

ダブルスタンダードとは、2つの異なる基準を採用した場合、併存できるかという疑問です。

 

例をあげてみます。

 

(1)社会主義市場経済

 

中国は、社会主義経済をドクトリンとしています。社会主義は、平等性を優先しますが、その結果、効率性が犠牲になり、労働生産性が落ちて、一人当たりGDPが増えません。そこで、現在は、市場経済を導入しています。

 

市場経済は、資本主義の根幹をなす制度です。

 

社会主義に、市場経済を導入することは、資本主義の制度の一部を導入することです。

 

一般には、市場経済を導入することで、効率性が図られますが、平等性は保てなくなります。

 

このために、生活保護などで、格差を是正します。

 

中国は、人口減少と高齢化に面しており、最近では、格差是正に向かっています。

 

とはいえ、何をもって社会主義と判断するかは、微妙な状態にあります。

 

(2)補助金と技術開発

 

企業は、技術開発をして、技術的に、あるいは、価格的に競争力のある製品(サービス)をつくって販売することで、利益を得ます。

 

一方、企業の経営が傾いた場合には、政府から、補助金が支給されます。補助金以外にも、非正規雇用の拡大も、労賃を下げるので、補助金と同等の効果があります。理想的には、補助金を得ながら、技術開発をすることが期待されています。技術開発ができず、補助金だのみの企業は、補助金がなくなると倒産してしまいますので、ゾンビ企業とよばれ、ゾンビ企業補助金をつけることは、延命策にすぎないので、税金の無駄遣いであると考えられています。

 

2022/07/19の日経新聞の一面に、「日本開発、曲がる太陽電池、中国新興が量産」という記事があります。この技術は、日本の大学で開発されました。日本企業の太陽電池には価格競争力がなく、日本企業は、太陽電池から撤退しつつあるので、中国企業が量産化をすることになったそうです。

 

この記事を見る限り、日本企業の技術開発力は落ちているように思われます。

 

バブル崩壊のあとで、日本の金融機関救済のために、直接的な資金投入がなされただけでなく、長期にわたって、利息の差などを通じて、家計から金融機関への所得移転が行われました。リーマンショックのあと、米国でも、金融機関への公的補助が行われましたが、その金額と期間において、日本は突出しています。期間は10年近く、金額は、50兆円とも100兆円とも言われています。

 

このような多額の補助が行われると、技術開発が停止します。それは、技術開発によって得られる利益は、補助金の金額に比べると、1桁も2桁も小さくなるからです。つまり、ダブルスタンダードは実現不可能になります。

 

「価格競争力がなく、日本企業は、太陽電池から撤退」しているのは事実ですが、「価格競争力がない」理由が理解できません。中国工場で生産すれば、中国製と同じ価格競争力が得られるように思われます。それができない理由は、日本の工場を停止できない、中国企業に比べて、過大な管理経費を必要としているなどの条件がなければ、あり得ないと思われます。価格競争力がなければ、市場から撤退することになります。市場から撤退するのであれば、技術開発は無駄な投資になります。

 

結局、ダブルスタンダードは不可能で、補助金をもらった時点で、市場からの撤退がきまったように見えます。

 

2)補助金政策のつけ

 

コロナウイルスウクライナ戦争のインフレの影響をうけて、政府は、膨大な補助金をばら撒いています。補助金が有効で、ゾンビ企業を産まないと考えるためには、「補助金と技術開発」のダブルスタンダードが実現可能であるという前提が必要です。

 

この前提は、レイオフのできない年功型賃金体系では、なりたたないと思われます。

 

その理由は、年功型賃金体系は、実体のない権威に対して、給与を払っているからで、補助金は、権威にプラスに働き、技術開発にマイナスに働きます。

 

すべての事例を調べてはいませんが、過去に、国策のIC企業に、膨大な補助金を投入しても、価格競争力をえられなかった事例をみれば、次のことがいえます。

 

暗黙の了解である「補助金と技術開発」のダブルスタンダードが実現可能であることを前提にすべきではありません。

 

補助金と技術開発」のダブルスタンダードが実現不可能であることを前提にすべきです。