(中国は、市場経済を取り入れて、成長しました)
2000年代にアメリカの大手IT企業は、モダンフレームを使って、DXへのレジームシフトを半ば成功させ、巨大IT企業が出現します。
ここでは、中国で起こったことを参照します。
6-1)上海証券取引所
中国は、1992年1月から2月の南巡講話によって、社会主義市場経済をスタートします。背景には、1989年6月の天安門事件による国際社会からの風当たりが強くなったことが影響しています。既に、1986年12月に、ベトナムはドイモイを始めましたので、これに準じたと思われます。
上海証券取引所は、1990年12月19日に営業を再開します。
人民元通貨により取引されるA株と米ドル建てのB株があります。
2001年2月からB株に現地投資家の参入が認められ、B株は中国内外の投資家による売買が可能となります。A株は、2003年以降、適格外国機関投資家プログラム(QFII)により許可された外国機関投資家による取引が可能となります。
2006年12月31日の時点で上場企業は842社、総取引額は71612億人民元です。2011年2月現在、WFEの統計によると、上場企業の時価総額の合計は2.859兆ドル(約230兆円)で世界第6位になっています。
つまり、2000年代に中国は大きく市場経済に舵をとり外国資本を受け入れることで経済成長しています。
ゴールドマン・サックスが2003年の投資家向けレポートで、BRICsという言葉を使いましたが、これは、2003年の適格外国機関投資家プログラム(QFII)を反映しています。
6-2)人への投資
2003年以降、中国は、海外の投資先になりました。
2022/08/05のNewsweekに、 マブバニ氏とチャン氏が、中国の技術の発展を展望していますので、一部を編集要約して引用します。
<==
1999年に全米科学・技術・医療アカデミーは今後数十年の未来展望で、「中国はさほど問題にならない」と予測しました。
2021/11にハーバード大学のグレアム・アリソン教授らは「ある種の競争では、(中国は)既にナンバーワンとなった。この勢いが続けば、今後10年以内にアメリカを追い抜くだろう」といっています。
1990年代初頭まで寂れた漁村だった深圳は、今では「次のシリコンバレー」といわれます。中国の大学は世界ランキングの上位に食い込み、一流大学の給与や研究費はアメリカの名門校に引けを取りません。
中国は優秀な学生を輩出し続け、アメリカの大学院で学んでいます。北京の清華大学はアメリカの一流大学にコンピューター科学の教授を世界で2番目に多く送り込んでいます。
議会がNASAに「あらゆる科学的活動を中国と共同で行うこと」を禁じて10年余りがたった。その間に中国は探査車を月に送り、火星に探査機を着陸させ、世界最大の電波望遠鏡・中国天眼(FAST)を公開・開放するなど宇宙研究と天文学の分野で大きな進歩を遂げています。
中国では強硬姿勢を嫌って多くの人材が渡米を取りやめ、2021年の調査によれば在米中国人科学者やエンジニアのおよそ40%がアメリカを離れることを考えている。
==>
マブバニ氏とチャン氏の記事に補足をします。
第1は、技術者と研究者の給与です。
中国の発展は、2000年以降(QFIIを考えれば2003年以降)に始まります。
筆者は、2005年頃中国の大学教授と話したことがありますが、研究費を付け、年俸5000万円、マンション、保育所着きで、流出した頭脳を呼び戻しているといっていました。
「一流大学の給与や研究費はアメリカの名門校に引けを取りません」というのは、こうした努力の結果です。つまり技術者や研究者を市場原理に合わせて、研究費と給与を払って、世界から調達しています。
なお、注意しておきますが、研究評価は市場原理に基づくので、論文の本数ではありません。論文の経済価値に依存し、それが給与に反映されます。
2003年頃日本の大学では、給与を抑制して、定年を延長していました。このことから、日本の大学政策は、体制維持のアンシャンレジームで、科学技術立国を目指していなかったことがわかります。日本の大学ランキングの低下は、望んで実現したものです。
第2は、技術者の労働市場です。筆者は、1994年頃、清華大学の土木工学の当時40代後半の卒業生の人と話をしたことがあります。同級生は17人いて、中国に残っているのは、3人で残りの14人は、世界中に散らばって働いているといっていました。清華大学は、アメリカのカリフォルニア工科大学をモデルにした小規模な技術に特化した大学です。世界の研究者・技術者市場で通用するエリートの育成を目指しています。日本には、そのような大学はありません。(注1)
中国の「一流大学の給与や研究費はアメリカの名門校に引けを取りません」が、これは、中国の一流大学の研究者や技術は、世界の労働市場で、通用することを指しています。つまり、中国の一流の研究者や技術者は、世界的な労働市場の中で働いています。
6-3)まとめ
大きな流れでみれば、中国は、市場経済を受け入れて発展しました。
一方、ロシアは市場経済の受け入れに失敗しています。市場経済を上手く受け入れることは容易ではありません。
過去20年、中国は経済発展に成功して、日本は失敗しています。
中国経済は、現在では、世界市場に大きく組み込まれていますが、日本経済は、世界経済から撤退しています。これは言い換えると日本には世界市場と共通の日本市場がないことのようにも見えます。つまり、日本経済は、技術革新を進めて利益を最大化する市場経済ではないと考えられます。日本経済が、市場経済よりも、年功型雇用に代表されるような旧体制の維持を目的としたアンシャンレジームになっている可能性があります。
こう考えると、アンシャンレジームになっているか否かは、日本の市場経済、特に、労働市場に注目すれば判定できます。
次は、日本の労働市場について考えます。
注1:
オードリー・タン(唐鳳)氏 は、高等学校にいっても、ネット上以上に、学ぶことがないとして高等学校進学をやめてしまいます。恐らく、学習についていえば、医学部の人体解剖のような例外を除けば、学校がネットより優れている点はありません。一方、起業したり、政治活動をするには、グループ形成が不可欠で、それには、リアルの高等教育機関の効果は絶大です。ただし、その場合には、学部やカリキュラムの構成で、人的ネットワークが大きく異なりますので、適切な人的ネットワークを最適設計する問題があります。高等教育機関以外の中学校でも、運動部の部活をアウトソーシングするようですが、適切な人的ネットワークの最適設計に問題(これは運動部に限定されない)は無視されています。
引用文献
中国はかつて世界最高の「先進国」だった自国が、なぜ没落したか思い出すべき 2022/08/05 Newsweek キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)、トニー・チャン(サウジアラビア・アブドラ国王科学技術大学学長)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/08/post-99278.php