科学的方法の進化論(7)

(7)4つの方法の理解

 

(The fixation of beliefが、理解できていれば、インスタンスがつくれます)

 

1)4つの方法

 

パースは、The fixation of beliefで、ブリーフを固定化する4つの方法を述べています。

 

(1)固執の方法

(2)権威の方法

(3)形而上学

(4)科学的方法

 

この4つの方法は、(1)(2)(3)の非科学的方法と(4)の科学的方法に大別されます。

 

コトに対する方法に「a」、モノに対する方法に「b」のサフィックスをつければ、次のように整理できます。

 

(1a)固執の方法a

(2a)権威の方法a

(3a)形而上学a

(4a)科学的方法a

(4b)科学的方法b

 

自然科学の方法は、「(4b)科学的方法b」です。「(4a)科学的方法a」は、パースの創作です。

 

さて、目標は、4つの方法を科学的に理解することです。

 

信念(belief)の固定化(fixation )という日本語を使って、The fixation of beliefを説明している例が多いですが、同じ用語を繰り返すのであれば、内容を理解していないコピーや、トートロジー(同語反復)に陥っている可能性を否定できません。

 

そこで、4つの分類の分かり易い例(インスタンス)を作ってみます。

 

2)カードゲーム

 

目の前に、4枚のトランプのエースが伏せてあったと仮定します。

 

この場合、ブリーフは、「左から2番目のカードは、スぺードである」といった、カードとスーツを対応させる命題になります。スートは4種類、カード位置が4種類あり、組見合わでて16種類のブリーフができます。これは複雑です。

 

そこで、話を簡単にするために、ハートのAは左から何番目かというブリーフに変更します。

 

(1a)固執の方法a

 

パースは、固執の方法の例として宗教をあげています。

 

これは、エビデンスに関係なく、ブリーフを固定的に選択する方法です。

 

ここでは、「左から、X番目が、ハートのAである」というブリーフに固執すると考えます。

 

ここに、X=1,2,3,4のいずれかです。

 

一度、Xの値を決めたら、その後の変更は認めない(固執する)ルールです。

 

(2a)権威の方法a

 

権威の方法の特徴は、ブリーフの内容に関係なく、誰が、そのブリーフを言ったかを判断基準にする点にあります。

 

部分集合に、権威者が、固執の方法によって選択をする場合もありますが、ここでは、その場合は、固執の方法と考えることにします。

 

権威者が好きな数字Xをあてはめて、「左から、X番目が、ハートのAである」というブリーフが固定されます。

 

この方法では、ブリーフの発言者が問題であって、ブリーフの内容が考慮されることはないので、ブリーフの選択には、一様乱数を使っていると考えます。

 

(3a)形而上学

 

アプリオリに、ブリーフが選択される場合です。

 

アプリオリに決めた数字をXにあてはめたら、「左から、X番目が、ハートのAである」というブリーフが固定されます。アプリオリは、エビデンスと独立していますので、Xの数字が一旦決まれば、その後の変更はありません。この方法は、固執の方法に似ていますが、最初に、Xの数字を選択するプロセスが異なります。

 

(4a)科学的方法a

 

これは、エビデンスに基づいて、ブリーフの選択がなされる場合です。

 

各段の情報がなければ、Xは、一様乱数で選択します。

 

2-1)初期状態(ステージ0)

 

事前情報がない場合、4つの方法のどれをとっても。ハートのAのカード位置の選択肢のブリーフが当てはまる確率は4分の1です。4つの方法に優劣はありません。

 

2-2)ステージ1

 

ここでは、一番左のカードをめくった結果、クラブの1が出たとします。

 

めくったカードは元に戻します。

 

(1a)固執の方法a

 

X=1は、外れなのですが、固執の方法では、選択するカードを変えません。

 

つまり、ブリーフが当てはまる確率は4分の1です。

 

(2a)権威の方法a

 

ブリーフの選択は、権威者の好みで行われ、エビデンスは配慮されません。

固執の方法と、異なる点は、ステージ1では、ステージ0とは、別のカードが選択される可能性がある点です。

 

とはいえ、ブリーフが当てはまる確率は4分の1で変化しません。

 

(3a)形而上学

 

カードの選択は、アプリオリになされるので、エビデンスを反映しません。

 

したがって、ブリーフが当てはまる確率は4分の1です。

 

(4a)科学的方法a

 

左から1番目のカードは、ハートでないことがわかっていますので、除外します。



「左から、X番目が、ハートのAである」というブリーフで、X=2,3,4のいずれかを選びます。

 

このブリーフが当てはまる確率は、3分の1です。

 

2-3)ステージ2

 

左から2番目のカードをめくった結果、ダイヤの1が出たとします。

 

めくったカードは元に戻します。

 

「(1a)固執の方法a、(2a)権威の方法a、(3a)形而上学」のブリーフの当てはまる確率は、依然として4分の1です。

 

外れのカードを除外するので、「(4a)科学的方法a」のブリーフが当てはまる確率は、2分の1です。

 

つまり、「(4a)科学的方法a」は他の3つの方法の2倍の成績をあげます。

 

2-4)まとめ

 

既に、めくられた2枚をカードは、ハートのAではありません。この左から、1、2枚目のカードを選択することは全く持って非常識であり得ないと思われるかもしれません。

 

もちろん、「(4a)科学的方法a」では、めくられた2枚をカードを含むブリーフは除外されています。

 

これは、エビデンズに基づいて、効果のないブリーフを排除するプロセスです。

 

「(1a)固執の方法a、(2a)権威の方法a、(3a)形而上学」には、このプロセスは含まれていません。

 

地方振興、少子化対策など、政府の政策(ブリーフ)には、エビデンスに基づいて効果のないブリーフを排除するプロセスはみられません。

 

したがって、政府の政策(ブリーフ)の固定には、「(1a)固執の方法a」か、「(2a)権威の方法a」が使われています。

 

アメリカはプラグマティズムの国です。100%とはいえないかも知れませんが、政府の政策(ブリーフ)には、「(4a)科学的方法a」が使われています。

 

ブリーフの固定の方法を間違えると経済成長に差が出て当然です。

 

3)モンティ・ホール問題

 

モンティ・ホール問題は、3つのドアのうちの1つに景品があり、そのドアをあてる方法です。

 

応募者は、景品のありそうなドアを選びます。

 

次に、司会者は、選ばれなかった2つのドアのうち、1つの外れのドアを空けます。

残されたドアは2つです。

 

一つは、応募者が選んだドアで、もう一つは応募者が選ばなかったドアです。

 

ここで、応募者は、選んだドア変更しても、変更しなくてもよいと告げられます。

 

「1a)固執の方法a」と(3a)形而上学」は、ドアを変更しませんので、景品が当たる確率は3分の1です。

 

「(4a)科学的方法a」は、ドアを変更しますので、景品が当たる確率は、3分の2です。

 

「(2a)権威の方法a」は、2分の1確率で、ドアを変更しますので、景品が当たる確率は、2分の1になります。

 

このように、モンティ・ホール問題も4つの方法のインスタンスになります。

 

この場合には、カードゲームのような不自然さはありません。

 

パースの時代には、データサイエンスは未整備でしたので、科学的方法としては、介入による変化を検証に使っています。

 

しかし、データサイエンスのように、科学的方法が整備されれば、パースはそれを使うことを躊躇しなかったはずです。

 

パースの時代にも、科学的な方法を用いないことは、適切なブリーフを固定する上で、問題がありました。

 

データサイエンスが出てきて、その問題点は、非常に大きくなっています。