アーキテクチャ(11)

日本人とアーキテクチャ

 

(今まで、日本人は、アーキテクチャを軽視してきて、そのツケが、DXにきています)




1)半導体製造装置のアーキテクチャ

 

2021年12月14日のET timesで湯之上隆氏は、日本の半導体製造装置について次のように述べています。

 

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日本人と欧米人の発想と行動様式の違い

 

 日本人と欧米人の装置開発などの差を論じてきた。ここには、日本人と欧米人の発想や行動様式の違いが大きく関係していると考えられる。

 

 まず、欧米人は、理論が先にある。そして、開発初期に徹底的に議論を尽くして方針を一本化する。その上で、規格、ルール、ストーリー、ロジックをつくる。逆の言い方をすると、欧米人の技術者は手先が不器用で実験が下手である(というより技術者は一切実験をせず、テクニシャンと呼ばれる職種に任せる文化がある)。

 

 一方、日本人の技術者は、優れた感覚と経験を基に、直感的に手を動かして実験を行う。また、決められた枠組みの中で最適化することを非常に得意としている。しかし、規格やルールを作るのは苦手である。

 

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以前、湯之上隆氏の文章を読んでもっともだと思ったこともあります。

 

しかし、アーキテクチャを作るという視点でみれば、判断は違ってきます。

 

「日本人と欧米人の発想や行動様式の違いが大きく関係している」と開き直る気はしません。

 

次の記述はアーキテクチャそのものです。

 

「欧米人は、理論が先にある。そして、開発初期に徹底的に議論を尽くして方針を一本化する。その上で、規格、ルール、ストーリー、ロジックをつくる」

 

説明を再度引用すれば、湯之上氏は、次の点を日本人の長所としています。

 

「日本人の技術者は、優れた感覚と経験を基に、直感的に手を動かして実験を行う。また、決められた枠組みの中で最適化することを非常に得意としている。しかし、規格やルールを作るのは苦手である」

 

しかし、筆者には、「規格やルールを作るのは苦手」は、アーキテクチャ作成能力の欠如としか見えません。

 

アーキテクチャがなければ、DXは進みません。DXはモジュールの一部をAIなどのコンピュータが分担します。そのためには、規格とルールがなければ、AIモジュールを設計できません。

 

湯之上氏は「技術者は一切実験をせず、テクニシャンと呼ばれる職種に任せる文化がある」と批判的に書いていますが、これは、ジョブ分割そのものです。これができないと、ジョブ型雇用ができません。

 

「テクニシャンと呼ばれる職種に任せる文化がある」を「AIと呼ばれるコンピュータモジュールに任せる文化がある」に置き換えれば、日本のDX問題の深刻さがわかります。

 

2)水平分業と垂直統合

 

「水平分業と垂直統合」のどちらが優れているのかという議論も、アーキテクチャの視点でみればナンセンスに見えます。

 

垂直統合というアーキテクチャはなく、モジュール分割をする能力がないだけと思われます。

 

「水平分業と垂直統合」のどちらが優れているのかという議論は、日本企業も、水平分業ができるという前提の議論です。しかし、水平分業はモジュール分割の塊です。アーキテクチャが組めなければ、水平分業はできません。

 

日本の企業では、アップルのスマホの部品を作っている企業が多数あります。これは、アップルのアーキテクチャの要求仕様に合わせた部品を製造しています。しかし、アーキテクチャの仕様に合わせて部品を作る能力とアーキテクチャを作る能力は別ものです。

 

アーキテクチャは、プロジェクトの目的を達成するための、手段と手順を規定します。DXは手段にすぎませんが、アーキテクチャには、目的があります。

 

水平分業のアーキテクチャを設計・管理している日本企業は極めて少ないです。

 

ヒストリアンには明確な目的がありません。年功型雇用で働いている人にも明確な目的はありません。

 

アーキテクチャを設計・管理することは、アーキテクチャからみて、不要な部門や人材は、入れ替えることになります。

 

「水平分業と垂直統合」のどちらが優れているのかではなく、日本企業には、水平分業のアーキテクチャを組み立てる能力がないのだと思われます。

 

3)デジタル競争力ランキング2021

 

スイスの国際経営開発研究所IMDが作成する「デジタル競争力ランキング2021」では、日本は64カ国中28位、「ビッグデータ、アナリティクスの活用」では63位、「デジタル・テクノロジースキル」では62位、「人材」では第47位になっています。

 

この問題について、言及している人は多数います。

 

しかし、筆者は、ポイントは、アーキテクチャ思考で問題を整理できているかだと考えます。

 

つまり、ランキングを上げること自体は目的にはなりえません。日本はどのようなデジタル国家を目指すのかという目的を設定して、それに、合わせたアーキテクチャを設計しなければ、問題は解決できません。日本が、デジタル国家として、デジタル産業で、貿易立国になれれば、全てのランキングが上位である必要はありません。

 

「デジタル競争力ランキング2021」の順位が下位であることは、アーキテクチャ思考の欠如の結果である可能性もあります。

 

つまり、問題は、順位という定量的なレベルを越えた質的なレベルである可能性もあります。

 

引用文献

 

半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? ~「日本人特有の気質」が生み出す競争力 2021/12/14 ET times 湯之上隆, 亀和田忠司

https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2112/14/news034.html

 

World Digital Competitiveness Ranking 2021

https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness/