成長と分配の経済学(35)~2030年のヒストリアンとビジョナリスト

(問題解決の最初は、レイヤーとプロトコルの改善です)

 

1)どこから、手を付けるきか

 

アンシャンレジームから、モダンレジームへの切り替えには、日本型7月革命が必要です。

 

しかし、このように書いても、単語の置き換えにすぎません。

 

20年間、アンシャンレジーム問題が続いていますので、一足飛びに、問題解決することは容易ではないことがわかります。

 

そこで、問題設定を変えて、どこから手を付けるべきかを考えます。

 

この問題設定の切り替えは、プラグマティックに有効な方法です。

 

ここでは、アンシャンレジーム問題を考えますが、他の問題にも適用できます。

 

例えば、DXを進めるときに、どこから手をつけることが一番有効であるかといった問題設定です。

 

2)OSIモデル

 

以下は、recursive(再帰的)な表現です。

 

どこから手を付けるかわかったとします。その内容をAとします。

 

次には、Aを発案者Xから関係者Yにつたえる必要があります。

 

情報は話せば伝わるのでしょうか。

 

バベルの塔の寓話があります。発案者Xから関係者Yに、情報をつたえるには条件があります。



インターネットが普及するまえに、コンピュータCXから、コンピュータCYに、ネットワークで接続するにはどうしたらよいかが問題になりました。通信規格の問題です。

 

この問題は、通信規格をレイヤー構造にして、レイヤー毎に手順(プロトコル)を定めることで解決しています。

 

身近なUSBで概略を説明します。USBは少なくとも次の4つのレイヤーでできています。

 

1)USBのコネクタに接続できること

2)電気信号が0から5Vのようなきめられたレンジ内でおくられること

3)送信側と受信側が同じ文字コードをつかっていること

4)解読された文字から文章の内容を理解できること

 

バベルの塔の問題も同じように整理することができます。

 

1)雑音にまけず、発生した音声が、話し手から、聞き手につたわっていること

2)話し手から、聞き手が同じ言語を話すか、翻訳ができていること

3)共通の単語で話ができていること

 

このように、問題を解決するためには、問題をレイヤーに分解して、レイヤー毎にプロトコルを決めます。プロトコルは手順であって中身を意味しません。

 

3)オブジェクト志向モデル

 

オブジェクト指向モデルでは、オブジェクトは、全てのものをさします。

 

OSIのレイヤーに相当するのが、クラスです。

 

クラスのプロトコルを具体的に作成したものがインスタンスになります。

 

4)モデルの機能

 

OSIのレイヤーモデルや、オブジェクト指向のモデルをつくるメリットは次の通りです。

 

(1)問題の解決に向けたスタートが切れる。

(2)何(インスタンス)を、どうするか(メソッド)が明確になる。

(3)結果は自動実行で得られる。

 

DXは、最終的には、できるだけ自動実行に持ち込むことですから、結果は問題にせずに、結果を導くアルゴリズムが問題になります。

 

5)アメリカのIT企業の発想

 

バベルの塔の寓話で、「話が通じるようにしなさい」と命令しても、無駄です。

つまり、問題解決には、問題の要素(レイヤー、クラス)を分解して、要素ごとのプロトコルを決める必要があります。

 

アメリカのIT企業は、エンジニアの塊ですから、企業経営においても、問題を分割して、プロトコルを設定しているはずです。この過程を飛ばして問題解決をすることはできません。

 

このような手法は、最初は、NASAが検討しましたが、データサイエンスの発展により、ここ20年の間に、一般的な手法になったと思います。

 

オブジェクト志向は、ソフトウェアを効率的に開発、維持管理する手法です。

 

通信プロトコルの場合には、目的が異なりますので、オブジェクト指向とは、細部の構成がことなりますが、基本的なアイデアには共通性がみられます。

 

経営問題の解決の場合には、条件は更に異なるので、別のバリエーションを使っていますが、解決すべき問題を設定して、問題を分解して、解決を考える手順は同じです。

 

ただし、レイヤーとプロトコルを前提条件にした問題解決手法は、日本では、一般的になっているとは言えません。

 

6)着手は可能か

 

最初の問題に戻ります。

 

日本型7月革命には、どこから手を付けるべきかが課題でした。

 

バベルの塔の問題解決には、レイヤーとプロトコルを前提条件にした問題解決が必要です。

 

このアプローチがとられていない場合には、問題解決に着手することは難しいことになります。

 

これが、recursive(再帰的)な表現といった理由です。

 

2022年8月には、統一教会選挙協力問題で、国会は揺れ動いています。

 

最初は、関係がないといっていた議員が、集会に参加していた事実などがわかってきています。次のステップは、法律の順守になると思われます。

 

ここで、取り上げたいのは、過去の事実ではなく、問題解決のアプローチです。

 

統一教会選挙協力問題では、解決すべき問題設定がありません。

 

たとえば、「国会議員は、特定の宗教団体からの献金をうけたり、広告塔になるような宗教団体の活動への参加を禁止する」あるいは、「フランスのようにカルト宗教団体を規制する」など、考えられる問題は多数です。問題は多数ありますが、問題を設定して、レイヤーとプロトコルを決めれば、問題解決に着手できます。

 

問題解決の着手例には、議員や大臣になった時点で、「問題のある宗教団体と関係がありません。関係があった場合には、辞任します」という誓約書にサインするルールにすればよい訳です。

 

結局、国会や内閣は、問題を設定して、解決する意図がないように見えます。

 

これは革命とは呼べないのですが、平和的に7月革命をおこすには、選挙による政権交代しかいのですが、野党もまた、どこから手を付けるべきかが、レイヤーとプロトコルを提示していないので、問題を設定して、解決する意図がないようにみえます。つまり、現在の野党では、役不足です。

 

ウクライナ戦争をうけて、軍事費を青天井で増やす動きがあります。

 

この場合も、問題が設定されていません。

 

対中国で、軍備を増強しても、経済規模がちがいますので、効果はありません。

 

太平洋戦争の最大の敗因は、アメリカとの経済規模の違いです。

 

なんのために、どのレイヤーの軍事力を問題にするのかを論じる必要があります。

 

防衛省の予算を増やしても、防衛省が、シェルターをつくるとは思えません。

しかし、守りに専念するのであれば、軍艦をつくるよりシェルターを作る方が効率的なはずです。

 

結論としては、着手は困難という結論になります。

 

愚痴になってしまいましたが、データサイエンティストは、データサイエンスの常識が全く通用しないので、大きな違和を感じているはずです。

 

もっとも、こんなことは、筆者が考えるべきことではなく、政治学の基本課題ではないかと思います。