線状降水帯と科学の第5のパラダイム~水と生物多様性の未来(12)

1)第5のパラダイム

 

マイクロソフトは、2022/07に、科学の第5のパラダイムの研究を開始しています。

 

第5のパラダイムが何を指すべきかについては議論があります。

 

とはいえ、第3のパラダイムが計算科学で、第4のパラダイムがデータ集約型科学です。

 

「第5=第3+第4」になっていますので、マクロソフトが提唱する内容は、第3のパラダイムや、第4のパラダイムと呼ぶのは不適切ですから、第5のパラダイムを提案することは合理的です。

 

第5のパラダイムは、第3のパラダイムの計算科学の結果のデータを第4のパラダイムのデータ集約型科学の手法で学習させます。その結果、1のケースに膨大な計算時間がかかり、部分的にしか解けない計算科学の結果を推論によって予測することができるようになると考えられています。

 

2)線状降水帯

 

2022年は、8月に入っても、線状降水帯による洪水被害が発生しています。

 

洪水被害が発生すると、洪水対策ダムを建設して、レジリエンスを上げるべきという人がいますが、線状降水帯は必ずしもダムの上流にある訳ではないので、洪水防止ダムで防ぐことはできません。

 

河川毎に河川計画がたてられていますが、これは、河川の基準点の通過流量を指定しているだけです。

 

現在の河川計画の応報は、1950年頃から大きくは変わっていません。

 

その頃、降雨は、雨量計で計測され、レーダー雨量計は有りませんでしたので、河川計画は、線状降水帯を想定していません。

 

河川計画の降雨は基本的には、流域平均降雨であって、線状降水帯を考えていません。

 

線状降水帯を考えるには、流域をグリッド状に区切ったGIS対応の流出モデルを使い、計算に使う降雨もグリッド毎に変えて計算する必要があります。

 

ここで、必要な課題は次になります。

 

(1)線状降水帯による降雨で発生する洪水対策の水準を評価するための指標(目的関数)をつくる必要があります。

 

(2)100年間の洪水のリスクを計算するには、100年分以上の計算が必要です。豪雨の時だけ計算するように、一部を切り出すことができます。それでも、安定した洪水リスクを計算するには、10倍の1000年位のデータを処理すべきです。

 

(1)は、恐らく浸水深になると思われます。ただし、浸水深は、洪水調整地の操作にもよります。また、土地利用の誘導や、フラッドプレインの活用も結果を左右します。要するに、計算して、浸水しますではだめで、対策を考えて、対策の効果を検討する必要があります。ダムより安価で効果のある対策は多数あります。

 

(2)は、そのような対策毎に計算すると膨大な計算量になります。つまり、ここでは、第5のパラダイムが利用できる可能性があります。

 

3)まとめ

 

現在の洪水対策は、科学のパラダイムでいえば、第3の計算科学以前のレベルに止まっています。つまり、改善の余地は多くあります。

 

洪水被害は、避けるべきですが、ダム以外に、有効な対策は、多数あります。ただし、1つ1つの対策の効果は限定的なので、複数の対策を組わせて行う必要があります。

 

エコシステムベースの生態学でいえば、氾濫原や湿地の回復が、まず、第1に検討されるべきです。