仮想水と自然資本の計算例(2)~水と生物多様性の未来(10)

3)小河内ダムの諸元

 

ここで、検討する方法は、フェルミ推定なので、細かい点は無視します。

 

有効貯水量:185,400千m³

 

ここで、有効貯水量を年に1回使いと仮定します。

 

フローとしての毎秒の有効貯水量は、365日x86400secで割れば求まります。

 

185,400,000/365/86400=5.87m3/sec

 

2回使いで、5.87x2=11.74 m3/sなので、オーダーとしては最大でも10m3/sを想定すればよいと考えられます、

 

基底流量の平均オーダーは1m3/s/100km2です。

 

1000km2では、10m3/sです。

 

これからダム建設による増分は、基底流量の50%から100%くらいで、オーダーとしては、妥当に感じられます。



4)ダムと水利用のない場合の低水流量

 

これから求めたい値は、ダムと水利用のない場合の低水流量です。



今回は、取水の影響の補正を考えます。

 

表1が、多摩川水系における水利権量です。

 

図1が、多摩川水系水利模式図です。

 

4-1)水道用水の外観

 

流域人口 約380万人。

24.44m3/sに86400secをかけ380万人で割ると0.556m3。

よく言われる1人あたりの上水使用量0.3-0.4m3より若干大きいが、オーダーとしては合っています。



石原下流は以下です。

 

上水道(合計3.81)

砧取水所1.49

砧取水所0.87

調布取水堰1.45

 

これを除くと、石原上流は、合計24.44m3/sになります



4-2)工業用水の概観

 

合計で、4.24m3/sあります。

 

石原下流は以下です。

 

工業用水(合計4.24)

二ヶ領用水2.35

味の素1.62

調布取水堰0.27

 

これを除くと、石原上流の合計は、0.001m3/sになります。

 

つまり、ほとんどは石原下流にあります。



4-3)農業用水の概観

 

流域面積を田園調布地点の1,200km2と仮定します。

 

水田面積は、許可水利権が227ha、慣行水利権が213haで合計は、440ha=4.4㎞2です。

流域面積に占める割合は、0.37%です。

 

土地利用面積としては、無視できるレベルです。

 

水量の設定の有無で、許可水利権と慣行水利権に分かれます。



許可水利権は4.61m3/sが設定されています。

 

石原下流は、二ヶ領用水1.3m3/sだけです。

 

石原上流の合計は、3.31m3/sになります。

 

4-3-1)許可水利権

 

面積227ha。水量4.61m3/s。

4.61x86400sec/227ha=1750mm/d

1日当たり、1750㎜の用水を使っている計算になります。

最初は、計算間違いをしたかと思いました。

 

一般には、1日あたりの用水量は30mm/d以下です。

100㎜/dを越えればザル田になります。

 

1000mm/dを越えるのは例外です。

 

一般に、栽培期間を120日、灌漑期間を100日として、総灌漑水量は、2000mmです。

 

浸透性の高い場合には、3000mmです。扇状地で3000㎜以上の場合もありますが、朝に水を張ると、夕方には、干上がります。この場合には、用水量の解釈を変える必要があります。



30㎜は、蒸発散に浸透を加えた値です。

限界まで節水すれば、浸透はゼロでもかいません。

そこで、蒸発散を5mm/dをして、これに、227haをかけると11350m3。

 

これを、86400secで割れば0.131m3/sです。これが、ギリギリまで節水したときの必要水量です。なお、乾燥地農業で行われているように、根域だけに灌漑すれば、更に、節水も可能ですが、コストとのバランスが問題になります。

 

蒸発散を基準にした灌漑効率は0.131/4.61x100=2.8%です。

 

4-3-2)慣行水利権

 

慣行水利権面積

213ha

 

慣行水利権は、歴史的な取水の権利を保全する考えで、数値の設定はありません。

 

とはいえ、数字がないと管理ができませんので、目安の数字は設定されます。

 

図1の多摩川水系水利模式図に掲載されている数字を合計すると以下になります。

 

慣行水利権(合計12.104)

 

方砂用水 0.6

羽用水 0.482

日野用水1.729

日野用水(下堰)1.05

本宿用水 1.9

上村用水0.06

川北用水0.3

豊田用水1.0

高幡用水0.63

向島用水0.5

平山用水1.5

大丸用水2.353



これは、全て、石原地点の上流です。

 

許可水利権の面積227haに対して、水量4.61m3/sもかなり多めですが、213haに対して、12.1m3/sは更に多いです。

12.1x86400/213ha=4908mm/dになります。

 

4-4)雑用水

0.53m3/sあります。

 

石原下流は以下です。

 

雑用水(合計0.321)

調布取水堰(雑)0.32

いけす用水0.001

 

石原上流は0.209m3/sです。

 

4-5)補正の考え方

 

農業用水は、一般には、夏場の灌漑時期だけの取水です。

数値上の取水量は、4.61+12.104=16.714m3/sあります。

とはいえ、水田の蒸発散で失われる分は、許可水利権の0.131の2倍あるとしても、0.262m3/sにすぎません。水田以外への浸透が蒸発で失われている可能性はありますが、そのサイズは不明です。

 

ここでは、農業用水は無視できると考えます。

 

石原地点の低水流量を12.1m3/sとします。

 

石原地点上流の農業用水を除く取水量は以下です。

 

上水道 24.44m3/s

工業用水0.001m3/s

雑用水0.209m3/s

 

合計は、24.65m/sです。

これに、12.1を加えると、36.75m3/sになります。

 

この補正した低水量には、ダムによる増分が含まれています。



今回はここまでです。

 

 

参考文献

 河川整備基本方針 > 多摩川水系

https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/tama_index.html

 

https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin_index037.html

 

 

 

表1 多摩川水系における水利権量

 

 

 

図1 多摩川水系水利模式図