流域治水と自然洪水管理(NFM)~水と生物多様性の未来(8)

(洪水多発地域でも、効果が出やすいNFMが検討されないのは、異様です)

 

1)吉田川の洪水対策

 

2022年7月16日に、宮城県の名蓋(なぶた)川の堤防が決壊しています。

この地区は、2015年9月の関東・東北豪雨、2019年10月の台風19号、そして今回の水害と、水害が立て続けに起こっています。

 

鳴瀬川水系は洪水被害が多く、名蓋川以外にも、2019年10月の台風19号で吉田川が決壊しています。

2022/03/24の建設新聞宮城版いよれば、以下の鳴瀬川水系河川整備計画の変更案を検討中です。

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整備内容には、新たに鳴瀬川で追加河道掘削、吉田川で中流部遊水地の整備と追加河道掘削を進める。変更の主な内容は、河川整備計画の目標に関して、吉田川は2019年東日本台風と同規模の流量、鳴瀬川は気候変動を考慮した流量(現行の河川整備計画で設定した雨量の1.1倍)を目標として、見直した。

 鳴瀬川は現在の2800tから3200tまで河道を広げるため、追加で河道掘削を行うこととし、概算事業費に約197億円を試算。吉田川は中流部遊水地の整備と追加河道掘削を行うこととし、概算事業費に263億円を試算。追加掘削では現在の1300tから1600tの河道に広げる考え。

 これらの整備スケジュールは、吉田川の中流部遊水地が2026~36年度、両川の追加河道掘削が37~50年度に行うこととした。なお、25年度ごろに現在進めている大規模災害関連事業、36年度ごろに鳴瀬川総合開発のダム事業が終わる予定になっている。

 

 計画ではこのほか、想定最大規模の洪水が発生した場合、河川整備計画の完了後も浸水被害が発生することが想定されるため、流域全体で水害を軽減させる「流域治水」への転換を進めることが必要とした。

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以上のように、洪水対策は、ダムと、河川断面の拡幅、調整池がメインで、「流域治水」は言及されているものの、具体的には内容は書かれてません。

 

2)流域治水

 

国土交通省は、流域治水を次のように定義しています。

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流域治水とは、気候変動の影響による水災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、堤防の整備、ダムの建設・再生などの 対策をより一層加速するとともに、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想 定される地域)にわたる流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方です。

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代表的な対策を図1に示します。



図1 流域治水の考え方

3)自然洪水管理(NFM)

NFMは、既に紹介していますが、対比のために、図2を掲載します。



図2 NFMの考え方



 

4)流域治水のNFMの違い

「流域治水」はあくまで、洪水対策であって、環境問題、とくに河川の環境復元を目指してはいません。

 

NFMは、環境対策の一部で、河川の環境復元を目指しています。ダムは、メニューには、ありません。

河川改修も河川環境復元ですから、蛇行に戻す、氾濫原を復元することが目標です。英国の農地には、水田はありませんが、畑地の一部に浸透池を作ったりして、洪水ピークに水を出さないことを目標にしています。公園、宅地でも、洪水ピークに水を出さないことが推奨されています。

これらの対策の効果は、検証中ですが、洪水ピークを1割カットすることは可能と思われます。

 

生物多様性条約では、ダムの効果は、生態系サービスを含んだ費用対効果分析で検討すべき対象になります。生態系サービスを考えると、ダムより、蛇行や氾濫原の方が、便益が大きくなると思われます。

NFMは、EBM(Ecosysytem-based Manegement)の一部で、英国では、UK-EPAが担当しています。

 

なお、こう書くと、洪水問題は、環境省が担当すべきと筆者が主張していると誤解されるといけないので、補足しておきます。

環境省は、古い種の管理(single-species management、single-species approach、1つの種だけに焦点を当てる資源の伝統的な管理戦略)を続けていて、EBMに移行できていません。

これは、国土交通省が、NFMどころか、「流域治水」より古い、ダムと堤防の洪水対策から抜けられないのと似ています。

どちらの場合も、「変わらない日本」症候群が見られます。

「変わらない日本」症候群の根源は、年功型雇用です。年功型雇用を残したまま、NFMや、EBMを目指すことは、利権争いになってしまいます。ジョブ型雇用にすれば、省庁の縦割り問題はなくなります。

問題解決は、まず、これが、済んでからになります。

 

引用文献

 

「流域治水」の基本的な考え方

https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/pdf/01_kangaekata.pdf

 

Natural Flood Management Handbook SEPA

https://www.sepa.org.uk/media/163560/sepa-natural-flood-management-handbook1.pdf

Working with Natural Processes to reduce flood risk US-EPA

https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6036c730d3bf7f0aac939a47/Working_with_natural_processes_one_page_summaries.pdf

 

Natural Flood Management (NFM) Flood Hub

https://thefloodhub.co.uk/nfm/

 

3度の大規模水害「人災だ」 名蓋川決壊 大崎、かさ上げ手つかず 2022/07/18 河北新報

 https://kahoku.news/articles/20220718khn000001.html



世界農業遺産「大崎耕土」が一面濁流 宮城・大雨、名蓋川決壊に住民ぼうぜん 2022/07/17  河北新報

https://kahoku.news/articles/20220716khn000055.html

 

宮城の記録的大雨、住宅被害660戸 2河川計3カ所で決壊 2022/07/17 河北新報

https://kahoku.news/articles/20220717khn000037.html

 

世界農業遺産「大崎耕土」が一面濁流 宮城・大雨、名蓋川決壊に住民ぼうぜん 2022/07/16 河北新報

https://kahoku.news/articles/20220716khn000055.html

 

鳴瀬川水系の整備計画変更案 追加河道掘削を明記 吉田川中流部に遊水地整備(東北整備局) 2022/03/24 建設新聞 宮城版

http://www.jcpress.co.jp/wp01/?p=29919

 

鳴瀬川水系河川整備計画 [大臣管理区間

http://www.thr.mlit.go.jp/karyuu/_upload/doc/05_planning/naruse/08th/08_document04.pdf

 

鳴瀬川水系河川整備計画  [知事管理区間

https://www.pref.miyagi.jp/documents/13715/801288.pdf

 

 復興再生に向けた課題

https://www.town.miyagi-osato.lg.jp/uploaded/attachment/4038.pdf

 

吉田川・新たな水害に強いまちづくりプロジェクト

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001326895.pdf

http://www.thr.mlit.go.jp/karyuu/_upload/doc/99_other/naruse_gensai/bunkakai/20200331_projekt_pamphlet.pdf

 

水害に強いまちづくり事業検証等業務 いであ

https://ideacon.jp/service/project/3-35.html

 

語り継ぐ「東北の国づくり」--吉田川

https://www.tohokuck.jp/contents/zadankai/pdf/zadankai_002.pdf

 

流域治水プロジェクト(国土交通省)について

https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5197066.pdf

 

令和元年台風第19号 消防活動の記録

http://oosakifire119.jp/taihu19gounokiroku.pdf