1)アメリカの主流メディア
カーロ・ベルサノ氏は、次のように言っています。(筆者要約)
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トランプは1年半前からCNNの取材には応じず、ベトデービッドのようなインフルエンサーのポッドキャストに出演した。ジョー・ローガンのポッドキャストに出演した際は、3時間の対談が1週間で4000万の再生回数をたたき出した。この数字は3大ネットワークのニュース番組の視聴者数を合計し、倍にしたよりも多い。
トランプのデジタル戦略を任された大富豪イーロン・マスクは11月5日、メディアは死んだも同然だと宣言した。X(旧ツイッター)で2億人のフォロワーに向かい、「今やあなた方がメディアだ」と述べた。
CNNの政治コメンテーターのスコット・ジェニングズは、「メディアは過ちを犯した。この2週間、報道は真実を伝えなかった」と言った。
メディアの影響力の低下はトランプ以前から始まっていた。
全米のケーブルテレビは、2010年に約1億500万世帯が加入していたが14年間で35%減少し、2024年は6800万世帯まで落ち込んだ(筆者注、数字の不整合は、元のまま)。
新聞の発行部数は2000年から半減した。無数の地方紙が廃刊か紙版の発行をやめた。1989年から2012年までに記者の数が全米で39%減少。2018年にはアメリカ心理学会が、日常的に新聞を読む高校1年生は全体のわずか2%だと報告した。
いくつかの全国紙は早くからデジタル化に取り組み、逆風を跳ね返した。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は軽いコンテンツを充実させ、1000万を超える電子版購読者を獲得した。だが変革によって、東海岸のリベラル派が圧倒的多数を占める有料購読者に合わせて、紙面を作らねばならなくなった。
民主党寄りのワシントン・ポスト紙は、オーナーであるジェフ・ベゾス氏の判断でハリス氏への支持を見送ると発表した。投票日直前の同紙の発表に読者が反発し、購読解約は20万を超えた。
ギャラップ社の調査では、アメリカ人の半数以上がメディアに「大いに」あるいは「まずまずの」信頼を置いていると答えたのは、2003年が最後だ。
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<< 引用文献
選挙予測大ハズレ、トランプに「大惨敗」...凋落した主流メディアに未来はあるのか 2024/12/22 Newsweek カーロ・ベルサノ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/11/525644.php
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ニューヨーク・タイムズの復活に関連して、次のようなニュースが入ってきています。
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米ケーブル報道局CNNが10月1日、同社サイトの閲覧を一部有料化したことが分かった。米国でケーブルテレビの視聴者数は縮小傾向にある。同社の記事をサイトやアプリ経由で直接閲覧しにくる読者に課金(価格は月3.99ドル(約570円、年契約は29.99ドル)することで、収入源の多様化を目指す。
CNNは約1年前にマーク・トンプソン氏が最高経営責任者(CEO)に就任した。英BBCの会長を経て、米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)のCEOを務めた人物だ。ほかの新聞社と同様にネットの台頭で苦戦していたNYTを、任期8年間でデジタル時代に対応した新聞社に改革した手腕で知られる。
通信社のロイターも10月1日、ニュースの閲覧を有料化する方針を明らかにした。購読料は週1ドル。契約すると、記事や動画などが無制限で閲覧できるようになる。
まず10月上旬にカナダで有料サービスを始め、欧州の一部や米国にも広げる計画という。ロイターは通信社として、ほかの報道機関に記事や写真などの素材を提供することを主な役割としてきた。今後は一般の読者向けにも直接情報を提供して、新しい収入源に育てる。
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<< 引用文献
報道局CNN、ネット記事の閲覧を一部有料化 ロイターも 2024/10/02 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0202S0S4A001C2000000/
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トランプ氏はCNNより、ネットの動画を優先して、視聴者を稼ぎました。
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米国でライブテレビの視聴方法がMVPD(リニアケーブル/衛星テレビ)からvMVPD(配信経由でリニアのテレビチャンネルを提供するバンドルサービス)へと加速しています。
2023年第3四半期(7―9月)のデータでは、全米の大手MVPDは合計約180万人の解約者数でした。(前年同時期は約169万人)。同期にvMVPDは約133万人の新規契約(前年同時期は130万人)を獲得しています。 この結果、大手有料テレビプロバイダー事業者の契約者数は合計7,150万人。内訳は、ケーブル会社トップ7社で3,490万人、衛星・テレコムが2,190万人、大手ライブテレビ配信サービス(vMVPD)が1,470万人と推定される。
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<< 引用文献
米国でvMVPDのシェアが20%に 躍進著しいYouTube TV 2024/01/16 MO民放omline
https://minpo.online/article/vmvpd20youtube-tv.html
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Brad Adgate氏は、「YouTube TVが米ケーブルTV業界を駆逐する」といいます。(筆者要約)
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現状のvMVPDの総加入者数は約1820万人で、YouTube TVはこの市場の800万人(40%以上)を占めるリーダーだ。2位のディズニーのHulu + Live TVの加入者数は460万入、3位のディッシュ傘下のSling TVの加入者数は210万入とされている。
YouTube TV の成長の背景には、NFLなどのスポーツ中継の独占配信権の獲得が挙げられる。グーグルは、NFLのサンデーチケットのために年間20億ドル(約3000億円)以上の費用をディレクTVに支払い、全米の試合の独占ストリーミング権を獲得したと報じられている。昨年10月のデータによると、サンデーチケットの加入者数は130万人で、ディレクTVが配信していた時代の加入者数の120万人から増加した。
YouTube TVの月額料金は、2017年の開始当初に35ドルだったが、その後は2倍以上の73ドルに引き上げられた。Hulu + Live TVは現在、広告付きを月額77ドル、広告なしを月額90ドルで提供している。スポーツ中継に特化したfuboの価格は月額75ドルだ。
グーグルはYouTube TVに関する財務情報を一切公表していないが、モフェットナサンソンは、昨年の売上高が約60億ドル(約9100億円)だったと推定している。
YouTube TVが2026年末までに最大の有料TVサービスになると予測するモフェットナサンソンはまた、このサービスが今年、黒字化を達成するとも予測している。2023年にYouTube TVは3億ドルの損失を出したが、今年は2億ドルの営業利益が見込まれている。
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<< 引用文献
米ケーブルTV業界を駆逐するYouTube TV、有料会員が800万人突破 2024/04/12 Forbs Brad Adgate
https://forbesjapan.com/articles/detail/70257
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一方、コリン・ディクソン氏は、ケーブルテレビは、衰退しているが、YouTube TVも頭打ちになったといいます、(筆者要約)
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今年後半の損失が今年前半と同じであれば、従来の有料テレビ業界は2024年に700万人の加入者を失い、2023年の12%の減少を維持することになります。
YouTube TVやSling TVなどのvMVPDは、2023年末に加入者数が1,780万人に達しました。しかし、業界は2024年に連続成長記録を終えました。2024年第1四半期に50万人、第2四半期に20万人が減り、上半期末の加入者数は1,710万人となりました。
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<< 引用文献
米国のトップ10のライブリニアTVプロバイダーのうち4つはvMVPDである 2024/09/09 nscreenmedia コリン・ディクソン
https://nscreenmedia.com/top-ten-live-linear-tv-providers-q2-2024/
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米国で、メディアグループがFAST(Free Ad-Supported StreamingTV)チャンネル(この広告付き無料ストリーミングサービスのチャンネル)を充実させています。
YouTube TVが頭打ちになった原因は、FASTチャンネルであると考えている人もいますが、詳細は不明です。
2)日本の主流メディア
サム・ポトリッキオ氏は、トランプ氏の選挙を次のように分析しています。(筆者要約)
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選挙とは、候補者が示す選択肢を比較するものだ。大統領選候補者討論会を除けば、今回の選挙戦で最も決定的だった比較の1つは、ハリスが人気ポッドキャスト司会者ジョー・ローガンの番組に出なかったことだ。一方、トランプは3時間も出演した。
アメリカンドリームはもうない。私の両親の世代は90%の確率で前の世代より多くの収入を得た。私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、この確率が50%を下回る公算が大きい。私が生まれた年の住宅購入者の年齢の中央値は38歳。今は54歳だ。
トランプは投票率の低い有権者を投票に向かわせる、という特異な形で選挙の様相を一変させた。彼らはトランプが出なければ投票に行かない。2022年の中間選挙で民主党が善戦したのはそのためだ。
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<< 引用文献
米大統領選の現実を見よ――その傲慢さゆえ、民主党は敗北した 2024/11/21 Newsweek サム・ポトリッキオ
https://www.newsweekjapan.jp/sam/2024/11/post-129.php
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「アメリカンドリームはもうない。私の両親の世代は90%の確率で前の世代より多くの収入を得た。私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、この確率が50%を下回る公算が大きい。私が生まれた年の住宅購入者の年齢の中央値は38歳。今は54歳だ」という説明は、そのまま、現在の日本にあてはまります。
アメリカンドリームのように、一生懸命働けば、成功するのであれば、金融教育の必要性はありません。金融教育より、科学技術立国のための教育を優先するべきです。
そうならない原因は、政府が、もはや日本経済は成長しないと考えていることを示しています。「中国製造2025」のような技術開発ビジョンがない理由も、これで、説明できます。
ポトリッキオ氏は、トランプ氏は、視聴率を稼いだだけでなく、民主党が、「アメリカンドリームはもうない」という問題に向き合わなかったことが、選挙で負けた原因であると考えています。
ポトリッキオ氏の分析をよむと、アメリカと日本の政治状況は、似ています。
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財務省のX(旧ツイッター)公式アカウントの投稿に対し、10月27日の衆院選以降、批判的なリプライ(返信)が殺到している。選挙前に比べて返信の数は15倍以上に増え、そのほとんどが「財務省解体」「ザイム真理教」など同省を批判・中傷する内容だ。背景には、国民民主党が打ち出した「103万円の壁」撤廃論に財務省が抵抗を示したことへの批判があると指摘されている。
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<< 引用文献
財務省への批判がXで急増、リプライは衆院選後15倍以上に 殺到の批判コメントを可視化 2024/11/23 産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/6a75008bd0a73f7144d118ece63cecf451bed4fc
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「103万円の壁」問題は、税制の線引きの問題ではありません。「私の子供たちは何かが劇的に変わらない限り、前の世代より多くの収入を得る確率が50%を下回る公算が大きい」ことに対する不満です。
30年間実質賃金が下がり続けています。政府、与党、野党の多く、主流メディアは、この問題に向き合っていません。それどころか、前岸田政権は、「所得倍層計画」といった、根拠のないキーワードを出しては、取り下げています。
主流メディアは、株価が上がった、大企業が、空前の黒字をだしたと報道します。しかし、労働者の手取りは増えていません。筆者は、「103万円の壁」問題は、労働者の手取りを増やす良い方法であるとは思いません。しかし、国民民主党以外の政党は、労働者の手取りを増やす方法について何も提案しませんでした。
株価が低迷したり、大企業が赤字であれば、労働者の手取りを増やすことは困難なことはわかります。しかし、株価は高騰し、大企業は黒字です。一方、労働者の手取りは減りつつけています。主流メディアは、この問題を無視しています。
兵庫県知事選挙では、SNSの効果が大きかったという人もいます。こう考えると、日本の主流メディアは、凋落しているのか気になります。
NHKの契約数は、減少しています。
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2023度末時点でのNHKの契約総数は4107万件で、2019年度末の契約総数は4212万件から、その後4年で100万件以上減少しています。
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<< 引用文献
NHK受信契約が4年で100万件減、不払いは倍増「テレビ離れがどう影響しているか答えるのが難しい」 2024/06/29 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20240627-OYT1T50088/
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しかし、ファクトに基づかない怪しい主張が多くあります。
例えば、次のような主張です。
「全体の視聴時間ではテレビの方が長い」
「テレビが好きな10~20代の男性が増えている」
モバイル社会研究所の調査結果は以下です。(筆者要約)
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NTTドコモ モバイル社会研究所では、2024年1月にスマホ・ケータイ所有者が週1回以上アクセスし、日常的にニュース情報(報道)を得ているメディアについて調査しました。
日常的にニュースを得ているメディアは2024年でも一番多いのは「テレビ」約7割、「新聞」は15年で年々減少して4割弱。
10~20代は「ソーシャルメディア」、30~70代は「テレビ」がトップ。シニアでは「新聞」も健在。
10~30代のX利用者の約6割がXでニュース情報を収集。
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<< 引用文献
ニュースを得ているメディア「テレビ」15年間横ばいで7割・「新聞」は減少傾向続き4割弱・10~30代のX利用者の約6割がXでニュースを収集 2024/05/30 モバイル社会研究所
https://www.moba-ken.jp/project/lifestyle/20240520.html
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この調査は、 Webを使い、 全国の15から79歳男女を対象に、有効回答数6440人で行われました。
この調査は、2次情報です。
新聞の発行部数のデータには、水増しがあります。
なので、信頼できる新聞の1次情報データはありません。
しかし、傾向はアメリカに似ています。
テレビのアメリカのデータは、契約数データなので、信頼度のレベルが違います。
テレビが減っていないのは、本当でしょうか。
ガベージニュースは、次のように書いています。
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テレビ視聴率は日本国内では、現時点ではビデオリサーチ社のみが計測を行っている。しかし同社ではデータの大部分は非公開としている。そこで主要テレビ局の中から【TBSホールディングス・決算説明会資料集ページ】にある各種短信資料などをチェックし、「決算説明会の補足資料として」掲載されている主要局の視聴率を逐次抽出。グラフの作成を行うことにした(他局の短信資料で補足・確認の精査も併せて行っている)。
<< 引用文献
各局とも凋落続く…主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移(最新) 2024/05/30 ガベージニュース
https://garbagenews.net/archives/2020115.html
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調査は、2023年度下期までです。
HUT(全日)で見ると、2021年上期から2022年下期の2年の間に、10ポイント下がり、2023年下期は、32%付近になっています。
図は、引用していませんが、HUT(ゴールデンタイム)も似た傾向で、2023年下期は、49%と50%をきっています。
正確なデータがないので、不明な点が多いですが、大筋では、日本でも、アメリカと同じような、主流メディアの凋落が起こっていると考えられます。
その進展は、アメリカを追いかけるように、なっていると思われます。
つまり、主流メディアの凋落に伴うトランプ現象は、今後の日本でも、頻繁に見られると予想できます。