リニア中央新幹線とリモートワーク

4月27日に、JR東海は2027年の開業を目指すリニア新幹線について、総工費が当初の見込みから約1.5兆円増加すること明らかにしています。

リニア中央新幹線は、2011年5月26日に整備計画が決定、2014年12月17日に起工式が行われ、首都圏 - 中京圏間の2027年の先行開業を目指しています。東京都 - 大阪市の全線開業は最短で2037年の予定です。

しかし、2027年の先行開業は、現時点では不可能です。

コロナウィルスの拡大で、リモートワークとネット会議の普及が、劇的に広がっています。

これは、新幹線の顧客需要に、大きな影響を与えるはずです。特に、ネットを使った国際会議が広がっています。新幹線は、貨物ではなく、人を輸送しますので、リモートワークとネット会議の影響を大きく受けるはずです。新幹線を使った太平洋ベルトが産業の動脈であるのは、製造業が中心の場合です。今後、少子化に伴い、企業は、人口増加に見込める海外マーケットにシフトします。つまり、情報の流れは太平洋ベルトから、海外に向かうはずです。

新幹線の発想は、同一規格の大量輸送です。

東京(品川)~名古屋間は約40分、東京-大阪間は約67分で結ばれます。しかし、東京についてから、30分以内に到着できるオフィスは限られています。つまり、新幹線部分だけの時間を短縮しても、その先で、時間がかかれば、新幹線による時短の経済効果は小さくなります。現在の運輸の課題は、新幹線より、ラストワンマイル にあります。リニア中央新幹線のルートで、駅周辺の再開発で、ラストワンマイル問題を解消可能な場所は、長野駅だけではないでしょうか。

需要見通しは、2011年の整備計画の時代のものが多く、更新データは少ないです。

JR東海の計算では、「収入は名古屋開業後10年で10%、大阪開業時にさらに15%増え、合計で26.5%増える。前提として、在来線や関連事業の売り上げは据え置いている」ことになっています。つまり、名古屋までであれば、売り上げが10%減れば、収入増加効果はなくなります。

2013年にJR東海の山田佳臣社長が、リニア計画について「絶対にペイしない」と発言したことがあります。

2016年に、リニア総工費9兆円のうち3兆円を、JR東海財政投融資を使って調達することが決まります。

これを受けて、2017年に東洋経済が、2018年に週間ダイヤモンドが記事を書いています。

週間ダイヤモンドで引用している需要予測は、2009年にJR東海が鉄道・運輸機構と共に実施した調査によるもので、2045年のリニアの輸送需要量(東京~大阪)は416億人キロで、現在の東海道新幹線の547億人キロの8割になっています。

以上は、全て、コロナウィルス問題の前です。

今回は、コロナウィルス後の需要見通しについては、何も述べられていませんが、次の変化が確実です。

  • リモートワークとネット会議で、需要は確実に減ります。2009年予測は明らかに過大です。

  • 新規に約1.5兆円が負担増になります。

  • 2027年の開業は不可能です。

JR東海は、2021年3月期第2四半期決算説明会では、以上の点には触れていません。

4月27日の発表に合わせて、公表はしていませんが、JR東海は収益予測計算をやりなおしているはずです。

こうした場合に、株主に対して、情報公開責任が生じるのでしょうか。生じれば、次の決算説明会で数字が出てくると思われます。

何れにしても、リニア中央新幹線の黒字は難しそうです。 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A

  • ラストワンマイル (運輸) wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB_(%E9%81%8B%E8%BC%B8)

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_filp/proceedings/material/zaitoa281111/zaito281111_1-1.pdf

https://toyokeizai.net/articles/-/189823?page=4

  • リニア「9兆円計画」に死角は?需要と採算性を検証する 週間ダイヤモンド 2018/10/3

https://diamond.jp/articles/-/181078

  • JR東海 2021年3月期第2四半期決算説明会

https://company.jr-central.co.jp/ir/investor-meeting/2021/_pdf/settlement03.pdf