絶望の国のエクソダス

将来展望(Strategic Plan)のない絶望

失われた30年からの脱却についても、ライフスタイル(=産業構造+雇用構造)を変える必要があります。そして、これは、社会システム(生活のエコシステム)の交代になりますので、既に申し上げているように、現在のエコシステムの改善では、乗り切ることができません。こうした問題対処には、欧米は、「Situation ReportとStrategic Plan」をつくります。つまり、次の手順を踏みます。

現状分析=>問題点の抽出=>解決策の提案

解決策の提案は、問題抽出後すぐにできるものもありますが、直ぐに、答の出ないものについては、別途、Strategic Planを提出します。Strategic Planは1つのこともありますし、別々のグループから複数だされることもあります。ポイントを押さえておかなければ、いけないことは、以上の手続きは、民主主義の一部になっていることです。民主主義では、問題点を共有して、協力して問題を解決する必要があります。現状認識や問題点に対する理解が人によって異なっていた場合には、民主的な手順での協力が得られませんので、問題が解決できません。

国連などの国際機関は、施策の実行予算をほとんど持たないので、「Situation ReportとStrategic Plan」を作ることが多くなります。これに対して、ある日本人専門家は、国連は、会議ばかりしていて、口が多いわりに、少しも仕事をしないという意見をいっていました。しかし、筆者は、この意見は、間違っていると思います。日本では、往々にして、「口を出す前に、実行して見ろ」という意見が出ることがありますが、これは、システムアプローチの対極にある刹那主義です。刹那主義の先には絶望しかありません。ヴィクトール・E・フランクが「夜と霧」で書いたように、人間は、希望があれば、逆境でも生き延びられます。将来へのStrategic Plan(将来展望)を無視することは自殺行為です。

コロナ対策でも、温室効果ガスの削減でも、少子高齢化でも、(いくらでもあとが続くので省略しますが)、

現状分析=>問題点の抽出=>解決策の提案

がなされていません。そこにあるのは刹那主義です。流行に乗り遅れるなというムードだけです。

失われた30年は、取返しのつかない社会変化を引き起こしました。

絶望の国のエクソダス

希望の国エクソダス」は、1998年から2000年にかけて雑誌『文藝春秋』で連載された村上龍の小説です。これは、フィクションで、現在社会に絶望した約80万人の中学生達が日本を脱出する話です。「絶望の国のエクソダス」は、フィクションではなく、実際に、若者に起こった脱出劇の実話です。話は、大学入学試験です。1980年代の入学試験では、理系の優秀な学生は、医学部にいくか、東京大学か、京都大学の医学部以外の理系の学部を目指していました。このころの東京大学か、京都大学の医学部以外の理系学部の足切り偏差値は、旧帝大の医学部の偏差値よりは、低かったですが、地方大学の医学部よりは高かったです。2020年現在、東京大学か、京都大学の医学部以外の理系学部の足切り偏差値は、地方大学の医学部より低くなっています。つまり、優秀な理系の学生は、医者になる以外の将来展望を描けなくなっています。優秀な理系の学生は、医者という職種にエクソダスしてしまっています。医学が大事でないというつもりはありませんが、経済学のフレームで考えれば、GDPを稼ぎ出すのは、医者ではなく、他の産業です。例えば、医学系であれば、開業医ではなく、新薬を作ったり、手術用ロボットを作ったり、コロナで言えば、ワクチンをつくるような産業です。最近のGDPに占めるシェアの増加率をみれば、IT業界を引っ張っていく人材が、国を豊かにすることに寄与します。しかし、東京大学か、京都大学の医学部以外の理系の学部を優秀な成績で卒業しても、給与は、新卒横並びで、非常に安く、医者には及びません。結局、日本の産業を支えるべき人材は、医学部に流れてしまい、IT業界も、サービス業も、製造業も、世界の競争についていける人材がほとんど枯渇している状況になってしまいました。もちろん、偏差値で測れないものもあります。例外もたくさんあります。しかし、大局的に見れば、受験は、長期的に目標を設けて、自分をレベルアップする手順ですから、人材が、日本の基幹産業から、エクソダスしてしまったと言えます。

将来展望(Strategic Plan)があれば、チャレンジした人材も出たと思いますが、将来展望のない絶望がこの国を蝕んだと言えます。

誰とは言いませんが、コロナや、産業構造が行き詰まっている中で、将来展望(Strategic Plan)を論ずる識者がいても、不思議ではないのですが、不気味な沈黙が日本を覆っています。

 

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