フュージョンと良い写真をめぐる考察(9)

構図とフュージョン(2)

補足:絵画と写真のフュージョンの関係

この考察では、写真が出てきて、目のフュージョンが発見されたという解釈で論旨を展開しています。つまり、写真の発明までは、画家たちは、フュージョンに気づかなかったわけです。

写真がどの時点で、絵画に影響を与えたかという基準は明確ではありませんが、1830年頃にはかなり広まっていたようです。1888年7月に、イーストマンの設立したコダックカメラが「あなたはボタンを押すだけ、後はコダックが全部やります」との触れ込みで市場に参入しています。実験的な試みは、19世紀の初めには行われています。

写真1は、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(フランス語: Jean-Auguste-Dominique Ingres、 1780年8月29日 - 1867年1月14日)の『グランド・オダリスク』(横たわるオダリスク)で、 1814年の制作です、これは、ルーブル美術館の名品の一つですが、モデルの体はひずんでいます。これは、アカデミック絵画の巨匠のアングルが、その頃で始めた写真を意識して、体をひずませて描いたと言われています。まあ、「これならどうだ、写真にはまねはできまい」というところでしょうか。

主題は、オリエンタリズムです。ナポレオンは、1798年から1801年まで、エジプト・シリアへ遠征をします。その結果、オリエントの風物を主題にした絵画が流行します。アカデミック絵画の主な主題は、歴史的に有名な場面、依頼主の肖像などです。これは、今の写真やさんが、結婚式、七五三、成人式などの写真で食べているのと同じです。あるいは、新築の居間に合うような写真を撮ってくださいというようなものです。よく、ゴッホの絵は死ぬまでに1枚も売れなかったという話がありますが、芸術が投資先になるマーケットができるのは、購買力のある資本家が出てきてからです。その場合でも、芸術家が好きな主題を書いて売れるようになったのは、絵画が投資対象になってからです。

過去の伝統的な美術様式から脱しようとした実験精神の思想や様式を抱いた近代美術(モダンアート)は1860年代から1970年代までに制作された作品といわれています。(注1)つまり、この時期に、絵画は、スポンサーを離れて、何ができるかを調べつくすようになります。しかし、実験作品には成功もありますが、それ以上に失敗も多くあります。成功か失敗かは、時間が評価します。現役の日本人アーティストで、作品に最も高い価格がつく村上隆は、芸術の評価は作品がいくらで売れるかではなく、死んだあとで、どのくらい生き残る(忘れられない)かだといいます。モダンアートの創成期の画家が作品を売って生活できなかったのは、そうした時代背景があったからで、画家が本格的にお金持ちになれたのはピカソ以降と思われます。

さて、話を戻します。今回のお題は「絵画と写真のフュージョンの関係」を論ずることです。以下の解説で、結論がお分かりと思いますが、印象派以降の絵画では、写真で問題になるようなポイントは、ほとんど検討しつくされています。したがって、解説しきれない量の実験が行われています。ただし、カメラマンからすれば、歴史的経緯から当然ですが、18世紀の画家が扱いやすいと思います。例をあげます。

写真2は、有名な作品ではありませんが、ゴッホの絵です。ここで引用した絵は、wikiのものですが、現在は、Van Gogh World Wideで非常に多くのゴッホの作品を見ることができます。写真2は、典型的なフレーム構図になっています。このような構図が使われた理由には、浮世絵などの日本美術の構図の影響もあると思われますが、写真の影響もあったと思われます。写真の出現に対する反応は、アングルと対照的です。

 

 

注1:

1970年以降の扱いは混乱しています。1970年以降を現代美術(げんだいびじゅつ、英語: Contemporary art、コンテンポラリー・アート)とする立場もありますが、wikiでは、1950年以降から21世紀までの美術を現代美術としています。つまり、近代美術の終焉は1940年の第2次世界大戦頃になります。この区分が混乱する要因の一つが、コンセプチュアル・アートの出現です。コンセプチュアル・アートは、「アートは、美しさより、知的な刺激を求めるための物」と位置付けます。前衛芸術運動、アイデア・アート(Idea art)、概念芸術、観念芸術とよばれたこともあります。コンセプチュアル・アートの最盛期は、1966年から1972年にかけてです。いずれにしても、1950年以降は、近代美術ではないという扱いが一般的です。

クラシック音楽の場合には、1980年頃に理論的に構成する音楽が行きづまって、また、ロマン派に戻っているように思われますが、美術の場合には、混乱しています。これは、一つには、額の中の美術や、美術館の美術より、インダストリアルデザインやファッションが力(経済力)を持っているためと思われます。美術館の中でのムーブメントより、自動車のデザインでや、MITのメディアラボの活動が、主導権を握っていると思われます。とくに、インタラクティブにしたり、VRを使うとなるとITができないと作品がつくれません。この分野とブログで扱っているデジタル写真はつながっています。例えば、セット写真と動画の間には、互換性があります。デジタル写真と動画を同じパラメータで編集することは、LUT3Dではできますが、パラメータが集約されていません。この分野には、テンソル分解を使ったパラメータの集約が必要です。

 

 

 

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写真1  グランド・オダリスク(ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル、wikiによる)

 

 

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写真2 Path in the Woods(ゴッホ  mid May - mid July 1887 Paris wikiによる)

 

  • Path in the Woods

https://vangoghworldwide.org/artwork/F309

  • View of Arles, Flowering Orchards

https://en.wikipedia.org/wiki/View_of_Arles,_Flowering_Orchards

  • Van Gogh World Wide

https://vangoghworldwide.org/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0

  • エジプト・シリア戦役 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B8%E3%83%97%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%88%A6%E5%BD%B9

  • アカデミック美術 wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E7%BE%8E%E8%A1%93

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%B0%E8%B1%A1%E6%B4%BE

  • ドミニク・アングル wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%91%E4%B8%8A%E9%9A%86

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%97%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88

  • 現代美術

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E7%BE%8E%E8%A1%93

  • Artpedia アートペディア/ 近現代美術の百科事典

https://www.artpedia.asia/modern-art/