コロナウィルスの経済モデル~コロナウィルスのデータサイエンス(72)

ロックダウンの効果

ロックダウンまたは、非常事態宣言をした場合の、経済モデルを考えます。

行動制限をすると感染が減少すると考えられています。

次のようにメソード記号DFを導入します。

行動制限費用.DF=行動制限しない費用ー行動制限する費用

感染者数.DF=行動制限しないときの感染者数の期待値ー行動制限する場合の感染者数の期待値

感染死亡者数_DF=行動制限しないときの感染死亡者数の期待値ー行動制限する場合の感染死亡者数の期待値

行動制限費用.DF:

「行動制限しない費用」と「行動制限する費用」には、テレワークのための機材、マスクなどの費用の他に、売り上げの減少などを含むことにします。つまり、行動制限費用.DFは行動制限をしたことによる費用の増分を能わします。

1人が感染しないことによる経済便益をBNA,1人が感染死亡しないことによる経済便益をBNBとすれば、行動制限した時に得られる便益BNは、次式になります。

BN=BNA x 感染者数.DF+BNB x 感染死亡者数.DF

従って、費用対便益CPは以下になります。

CP=BN/行動制限費用.DF=(BNA x 感染者数.DF+BNB x 感染死亡者数.DF)/行動制限費用.DF

感染者や感染死亡者を減らすことができれば、費用がかかってもその政策には経済的合理性があることになります。

ロックダウンの効果モデルの問題点

以上のロックダウン効果モデルの詳細な数字の算出法はここでの問題ではありません。ロックダウンをすることの妥当性を、上記のモデルのフレームで考えてよいのかという問題です。

感染を防げば効果があったという前提が成立する条件は以下です。

  • 感染者が外部から再侵入するリスクをほぼゼロに抑えることができる。

  • 近い将来にワクチンによって、感染リスクを解消できる。

過去のワクチン開発の最短時間は4年かかっているそうです。

そうすると、2条件のいづれかが満足できる可能性は低くなります。

その場合には、「感染者を減らすこと」には意味がありません。最終的には、人口の大多数が免疫を獲得できるまで、徐々に感染者数を増やすことが必要です。

つまり、「死亡者数を最小限に抑えて、医療崩壊が起こらないように徐々に感染者を増やす」ことが便益になります。

費用をかけて、感染者数を抑えても、感染しなかった人を、そのあとで、感染させなければ次のステージに進めないのであれば、感染させないこと自体は便益になりません

 よく、日銀の金融緩和でも出口戦略がないことが批判されますが、コロナウィルス対策でも同じです。

対処療法に振り回されて出口を失うと、より大きなダメージがまっています。

ロックダウンのパンデミック

現在、ロックダウンを避けて、集団免疫戦略をとっている国はスウェーデンです。オランダとイギリスも集団免疫戦略をとろうとしましたが、感染死者数の増加で、ロックダウン戦略に切り替えざるを得なくなりました。イギリスとスウェーデンを比べればわかりますが、ロックダウン政策に劇的な効果があるわけではありません。しかし、政治的には、感染死亡者数が増えた場合に、ロックダウン対策をしないと持たない状況になったわけです。ロックダウン政策がパンデミックのように世界中に広がりました。ここで政治的に重要なことは、ロックダウン政策をしていると国民にアピールできることです。効果は2の次です。実際にどのレベルで、ロックダウンするかは国によりまちまちです。あまりに多様なので、比較検討すら難しい状態です。例えば、スイスはソフトなロックダウンであるといっていますが、EUの国のロックダウンの比較をすることは容易ではありません。州により異なることもありますし、時系列で緩和されていることもあります。はっきりしていることは、日本の非常事態宣言も含めて、スウェーデン以外には、ロックダウン政策のパンデミックが政治的に起こったという事実です。

ロックダウン政策の解消にむけて

現時点では、感染死亡者数が増加している国は少数になりました。つまり、ロックダウンのパンでミックが落ち着いて、出口戦略が検討できるようになってきました。集団免疫獲得が出口戦略である場合、感染死亡者数をある程度抑えつつ、総感染者数はゆっくり増加させる必要があります。感染死亡者数が急増している段階では、このような政策は、できなかったのですが、EUの政治家は、状況をみて、切り替えたいと考えていると思います。

トランプ大統領のロックダウン解消と経済活動再開は、感染死亡者をおさえるという点では、疑問符がつきますが、それ以外の点では、経済合理性を持っています。しかし、これは、大統領選挙対策でもあります。

日本の場合には、コロナウィルス対策が、オリンピック開催で、大きくずれ込んでしまいました。

現在、国内で、感染者数の増加の可能性が最も高いのは東京都です。東京都は都知事選挙を控えているので、コロナウイルス対策は選挙対策の様相を呈してきました。費用対便益分析は、公共政策が、政治家の個人的な利害に左右されることを防ぐツールです。ロックダウン政策の解消に向けて、ロックダウン効果モデルに代わる、費用対便益モデルが提案されることを期待したいと思います。